EVENT | 2018/12/03

全部実話ベースってマジかよ!超絶ブラックな「世界一辞めたい会社」体験レポート

来春の施行が待たれる「働き方改革関連法」。企業は待ったなしでワークスタイルの変革が求められている。上場・大手企業を中心に...

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来春の施行が待たれる「働き方改革関連法」。企業は待ったなしでワークスタイルの変革が求められている。上場・大手企業を中心に社内の働き方改革が進められる一方で、日本企業の9割を占める中小企業の実態を抜きには語れない。

日本企業の圧倒的多数を占める中小企業の中には、「ブラック企業」といわれる会社が一定数暗躍しているのが現実だ。実際、厚生労働省では毎月ブラック企業リストを公開している。

そこで、去る11月23日の勤労感謝の日に企画されたのが、大阪の広告制作会社の株式会社人間によるブラック企業体験イベント「THE BLACK HOLIDAY」。架空のブラック企業「スーパーミラクルハッピー株式会社」の社員となり、出社初日の1日を体験するこの企画に、FINDERS編集部が潜入してきた。

そこで待ち受けていたのは、パワハラをはじめとする理不尽な出来事の数々……!

しかもほとんどが実際のエピソードを元に脚本化されたというから驚きだ(一歩引いてみると笑えるが)。ということで、ブラック企業を肌で感じた渾身のレポートをお届けしたい。

取材・文:庄司真美 写真:菊岡俊子

新入社員は始業時間の30分前に来て掃除でしょ!

現地オフィスに着くや否や、受付の先輩社員に怪訝そうな顔で叱責される。「取材で来たんですけど……」という言葉を繰り出す暇もなくたたみかけるように、「新入社員は30分前に来て掃除が当たり前でしょ?」「来るの遅いよ」と怒られ、思わず絶句。

ようやくお叱りに割って入って取材である旨を伝えることができたが、いきなり“ブラック企業ワールド”の洗礼をくらった感じだ。しかも、後から知ったのだが、体験者には前日午後に劇中に出てくるスーパーミラクルハッピー社からメールで、集合時間や服装などのほか、商品の販売戦略についての企画案を持参せよという業務連絡が来ていたとのこと。というか、いくらなんでも直前すぎない?(笑)

後ほど聞いた主催者の話によれば、今回の体験会では、あえてブラック企業への没入感を狙ったとのこと。おっしゃるとおり、閉ざされた空間で中に入り込むと無抵抗になることを冒頭から実感した次第だ。

朝礼中は業務外につきタイムカードに換算しません

出社して早々、朝礼が始まるかと思いきや、そこに行き着くまでがまた長く、鬼軍曹のような上司の「ゴミを拾え!」「チャキチャキ動け!」という怒号のもと、新入社員全員、床にはいつくばる勢いでゴミ拾いや掃除をさせられる。

オフィス内の貼り紙を見渡すと、以下のようなブラック企業らしさ満載の内容が書かれていた。

「残業なき労働に価値なし」

「残業は1日10時間まで。それ以上は仕事のミスと体調に気をつけて」

「毎秒ノルマ達成!」

このあたりまでは営業主体の会社にもありそうだが、

「来月から土曜日は“ラッキーサタデー”とし、通常出勤とします」

「お湯使うな 使ったらガス代1回500円」

「プリント1日3枚まで 4枚以上有料」

「エアコンの温度設定については、夏…30度、冬…16度」

業務に使う印刷費まで自腹とは。しかも、このオフィスの温度設定、外気温と変わらないんですけど……! 何より、無給で土曜出勤は完全にアウトだ。

そんなこんなでようやく朝礼の時間に。まずはベタではあるが、社訓を全員で唱和させられる。実は記者も以前勤めていた某大手IT企業で毎朝の社訓唱和は経験しているのでよくわかるが、これってかなり社畜感を味わうものなのである。おそらく、経営者は社員の忠誠心や統一性を狙って言わせているのだろう。スーパーミラクルハッピーの社訓は下記の5つだった。

一、私たちは人類の健康に寄与します。

一、私たちはお客様の笑顔を追求します。

一、私たちは社会の発展に尽力します。

一、私たちは全社員の幸福を目指します。

一、私たちは正しい経済発展に努めます。

内容としてはもっともらしいが、ここではひとつずつ読み上げた後、両手を振り上げながらテンション高めに「スーパーミラクルハッピー!」といちいち叫ばなければならない。演出とはいえ、結構やるの恥ずかしい……。

社訓をひとつひとつ読み上げた後、「スーパーミラクルハッピー!」と高らかに唱和させられる一同。

さらに、自己紹介とともに今後それぞれが叶えたいことを1人ずつ言わされる。声が小さい場合、罵倒とともに何度もやり直しさせられる社員もいた。このルーティンをぼんやり眺めていてふと思ったことは、毎日こんなことが続いたら次第に慣れて、思考能力が奪われるだろうなということだ。

そんな中、1週間残業続きで、寝不足でフラフラの男性社員を見つけた鬼軍曹、ではなく上司が激昂し、持っていたファイルで男性社員を殴りつけた。さらに、ほかの社員の士気を盛り下げたとかいう理由でみんなの前でお詫びさせられるシーンは、お芝居とわかってはいても、かなり引いた。実際場の空気が凍りついたのを感じたほどだ。

ようやく朝礼が終わる頃合いに、総務担当の社員曰く、ここまでは朝礼なので、タイムカードには換算していないとのこと。「朝礼は仕事じゃない」「朝礼はウォーミングアップ」という理由らしい。無償で苦痛に満ちた朝礼を毎日こなさなければならないのが、ブラック企業たるゆえんなのであろうが、この時点ですでに感覚が麻痺してきた。

給料は「月収30万円保証」ではなく、よく見たら「完全歩合」!

新入社員の初出社の日とあって、続けて営業研修が行われた。担当社員が商品や顧客ターゲット、営業の流れについて説明。スーパーミラクルハッピーの商品は、価格30万円の健康器具で、ターゲットは独居老人。営業スタイルは訪問販売が基本だという。

さっそく担当者の見本の後、営業のロールプレイングをやらされるのだが、それを恐る恐る小声でこなす男性社員に対し、「てめぇ、やる気あんのか!!」と、容赦なく上司の罵声が飛ぶ。それでもうまくできない男性社員。そこで上司は、ほかの社員を焚きつけ、「死ね、クズ!」と言わせるのだが、ここまでくると、パワハラを通り越して陰湿ないじめである。

さらに、ノルマを達成できない社員に罰金10万円を命じたり、身内に営業電話をかけさせたり、あろうことか、残業続きで疲労困憊して倒れてしまった社員を放置。めくるめくブラック企業ワールドに、場内ア然。情報量がてんこもりすぎて、すでにお腹いっぱいである。しかもこの後、給料形態についての説明で、「月収30万円保証」ではなく、「手取り30万円も可能」「完全歩合」であることが判明し、スーパーミラクルハッピー社のヤバさが浮き彫りになっていく。

社長夫人の占いで社員がクビに

そこへあきらかに成金風情でゴージャス感のある出で立ちの女性が登場し、上司たちはおべんちゃらモードに。さらなる刺客、社長夫人のおでましだ。皆一様にヘコヘコしながら挨拶するも、社長夫人は「私の髪型が変わってるのにそれに触れないなんてあり得ない!」と怒り出した。慌てる上司たち。そこで、連帯責任でお詫びの手紙(しかも1人50通!)を書くことを新入社員らに課せられた。業務とはまるで関係ないことは言うまでもない。それもこれも、すべて実話だそうだ

その後、社員たちは社長室に呼ばれ、事前に提出した企画書を目の前でビリビリに破かれたり、部下の成果を自分の手柄にする上司が10万円の臨時ボーナスをゲットしたりするなど、やりたい放題(笑)。

それにしても、人が一生懸命作成したものを目の前で破壊したり、踏みつけたりするなんて非道な行為である。この体験劇に部長役として出演し、脚本、演出を手がけた益山貴司氏はこう後述する。

「自分で演じていて本当に嫌になりました(笑)。まずはみなさんにお詫びしたいほどです。特に社員の手書きでていねいに書かれた企画書を目の前でビリビリに破るシーンは実際に演じていてかなり罪悪感がありました」

脚本・演出を手がけ、パワハラ満載の部長役を演じる益山貴司氏。こちらは部下が書いた企画書をビリビリに破り捨てるシーン。

さらにその後、最近占いに凝っている社長夫人が社員を占い、「この人とは相性サイアク」ということで、あっさりクビを命じられることに。さらに、クビにしない代わりに「これを持っていれば大丈夫」ということで水晶のお守りを渡すのだが、これが3万円もする代物で、しっかり給料から天引きされるという。社員をコケにするわ、食い物にするわで呆れた顛末であるが、それもこれもしつこいようだが、実際に起きたことを元に作られている。

労働基準局に密告した連帯責任は罰金と反省文

ここで、労働基準局の担当者がアポなしで来社するというアクシデントが起きた。あわてふためき、オフィス中の貼り紙やスローガンを外すよう命じる上司たち。

終礼の時間は、当然のごとく、「誰が密告した?」という上司の怒号とともに、労基への密告者探しが始まった。密告したのは先輩社員で、過労で倒れた社員を病院にも連れて行かない会社のスタンスにさすがにおかしいと訴え、「辞めます」と言い出したのだ。

上司の返事は、「それなら辞めてもいいですよ」。ただし、営業ノルマ未達成の罰金30万円と今回の労基訪問のドタバタの迷惑料として300万円を即金で払えたらという条件付き。もちろん、社員はそんなお金は払えないし、払う義務もないのだが、足元を見た上司は、「払えないなら辞めないでいなよ」と退職者を懐柔し、退職を阻むという蟻地獄のような流れに絶望的な気持ちになった(笑)。

この後、新入社員たちは反省文を書かされ、それをみんなの前で読まされたほか、サービス残業を命じられ、「てっぺん(24時)すぎてもやりきるように!」ということで、自分たちはさっさと退社してしまう……。

経営者側への荒療治としてブラック企業体験を企画

以上がブラック企業体験イベント「THE BLACK HOLIDAY」のストーリーだ。主催の株式会社人間 代表取締役の山根シボル氏は、イベント開催の経緯について次のように語った。

「近年、働き方改革がブームですが、実感として制限付きの改革が多い気がしていました。日本では3社に1社がブラック企業と言われています。そこで、ブラック企業のあり方を面白く伝える今回の体験企画を考えました。会社の経営者にブラック企業を実体験いただくことで、身に沁みて感じてもらうのが趣旨です。荒療治的なかたちではありますが、その上であらためて袖を正していただければと考えました」

また、同じく代表取締役の花岡洋一氏は、経営者の立場から社員の働き方をあらためて見つめる必要性を感じたという。

「弊社に関しても、気をつけてはいても、本当にブラック企業ではないとか、社員がひとつも不満も意義もないかと言えば、それは僕たちの側からは断言できません。まずは経営者目線で、一度ブラック企業を体験してみたいという思いからイベントを企画しました」

さらに、有名な心理学実験「スタンフォード監獄実験」を引き合いに、前出・益山氏から次のような興味深いコメントをいただいた。

「役者相手ならまだしも、体験者も含めて罵倒することは非常に良心の痛むつらいことでした。当初はその役を楽しめるのではというやましい気持ちも多少はありました。でも、人を罵倒することはものすごくエネルギーを要するキツいことだとわかりました。怖かったのは、始めは罪悪感が強かったのに、段々社員をいたぶる演技がヒートアップしていったこと。人が一生懸命手書きで書いたものをビリビリに破ったほか、踏みつけるというのは、実はアドリブでした」

スタンフォード監獄実験とは、米スタンフォード大学で行われた心理学の有名な実験だ。被験者を看守役と囚人役に分けてそれぞれの役を演じてもらううちに、恐ろしいことに、看守役は指示してもいないのに勝手に囚人を拷問し始めるということが明らかになった。今回のブラック企業劇でも、設定としてオフィスで社員は携帯や財布といった所持品と切り離されていた。そんな密室で少なからず同様の心理が働いたということだろう。

繰り返すが、このブラック企業体験会で行われたことのほとんどは実話が元になっている。主催側がウェブ上でブラック企業体験談を募ったところ、実にさまざまで多くの応募があったという。その中には、「年俸金額の書いていない契約書にサインさせられた」「クラッカーを口の中で鳴らせと命じられた」「電車遅延による遅刻は10分ごとに1,000円の罰金を支払う」といった、驚くようなことがもりだくさんで、取材後、その参考資料の内容を見て2度驚いた。

一般的に見ると非常識なことでも、切り離された密室では感じにくい。それを肌で感じたイベントであった。働き方改革の施行を目前に、一石を投じるイベントになったことは間違いない。

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