EVENT | 2018/11/28

「マリカー」はともかく、ロゴやデザインが類似するのもアウト?商標権侵害を防ぐ法知識【連載】FINDERSビジネス法律相談所(6)

Photo By Shutterstock
過去の連載はこちら
日々仕事を続ける中で、疑問や矛盾を感じる出来事は意外...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

Photo By Shutterstock

過去の連載はこちら

日々仕事を続ける中で、疑問や矛盾を感じる出来事は意外に多い。そこで、ビジネスまわりのお悩みを解決するべく、ワールド法律会計事務所 弁護士の渡邉祐介さんに、ビジネス上の身近な問題の解決策について教えていただいた。

渡邉祐介

ワールド法律会計事務所 弁護士

システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚等の家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。

(今回のテーマ)
Q.最近、任天堂に訴えられていた公道レンタルカートサービス「マリカー」が敗訴しました。それはわかりやすい例としても、自社でも今後新しい商品やサービスの名称やロゴ、デザインなどで他社と似通ったものを作ってしまった場合、訴えられるリスクを感じます。今一度、商標権を侵害するということはどういうことなのか教えてください。

任天堂 vsマリカー訴訟

近日、東京地裁で任天堂がマリカーに勝訴するニュースが話題となりました。「マリカー」は任天堂の「マリオカート」シリーズの略称ですが、これを社名とした公道カートサービスの会社である株式会社マリカー(現・株式会社Mariモビリティ開発)に対し、任天堂が提訴したという裁判です。

もっともこの裁判では、マリカー側が任天堂の商標権を侵害したことを理由に任天堂が勝訴したわけではありませんでした。任天堂は㈱マリカーに対し、著作権法および不正競争防止法違反を理由として提訴していました。

背景としては、実はすでに株式会社マリカーが2014年5月に「マリカー」を商標として出願し、翌年6月には登録商標を取得していたのです。任天堂はこれに対して異議申し立てをしていましたが、「マリカー」がマリオカートの略称として十分に知られているとは言えない、として異議申し立てが棄却されていたのです。

任天堂はこの異議申し立て棄却も不服として知財高裁への提訴も検討しているという中で、マリカーの商標権を争うという枠組みとは別のアプローチによって、マリカーのカートサービスを止めるために、著作権侵害と不正競争防止法違反という法的構成を用いて提訴しているのです。

結論として、この裁判では不正競争防止法違反であるという任天堂の主張が認められ、マリカー側に1,000万円の損害賠償の支払いが命じられています。

商標法と不正競争防止法の関連性

任天堂が主張した「不正競争防止法違反」ですが、商標に関する事件で商標法とは別に、不正競争防止法で争うケースはよくみられます。不正競争防止法の趣旨は、不正行為によってうける経済的不公平を解消するという点にあります。この趣旨の特徴として、未登録商標の商標であっても有名な商標であれば保護され得る点、登録商標について、商標権の範囲を超えた保護がされ得る点が挙げられます。

それでは、商標登録など必要ないのではないか?と思われる方もいるかもしれません。ですが、商標登録により発生した商標権は、有名であるかどうかとは無関係に、結局のところ、その商標を不正に冒用された場合に、周知性・著名性があるのかどうかについて、裁判をするまで判断できないケースが多いのです。したがって、紛争化するリスクを防止するという意味でも、あらかじめ商標登録をしておいた方がいいでしょう。

そもそも「商標」って何?

上述した事例以外にも、企業が別の企業を商標権侵害で訴えた、などというニュースはよく耳にします。そこでは、「似てるか、似てないか」が問題となったり、「同じ商標がすでに先に登録されていた」ということが問題となったり。そもそも商標というものは、一体どんなものなのでしょうか。

特許庁によれば、商標とは、事業者が自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)を指します。また、商品を購入したりサービスを利用したりするとき、企業のマークや商品・サービスのネーミングである「商標」をひとつの目印として選びます。このとき、事業者が営業努力によって商品やサービスに対する消費者の信用を積み重ねて、商標に「信頼がおける」「安心して買える」といったブランドイメージがついてきます。つまり、商標はいわば「もの言わぬセールスマン」であり、商品やサービスの顔として重要な役割となっているのです。

商品の良し悪しは、一度使ってみなければ本来は分かりません。食べ物であれば、一度食べてみて初めて美味しさがわかるものです。でも、「信頼」「安心」といったブランドイメージのある商標も付いていれば、消費者は食べる前から「きっといいものに違いない」「きっと美味しいだろう」と期待したり、安心したりして購入するわけです。このように、商標が消費行動を促す力を持つ点が、商標が「もの言わぬセールスマン」と表現される所以でもあるのです。

「商標権」とは?

第三者が、すでにブランドイメージがついている商標を勝手に使用してしまえば、商標イメージに便乗して商品をたくさん売ることができてしまいます。これでは、その商品のブランドイメージをこれまで地道に蓄積してきた事業者はたまったものではありません。

そこで「商標権」という概念が登場します。商標権とは、「商品やサービスに付ける「マーク」や「ネーミング」を財産として守るのが「商標権」という知的財産権なのです。

商標法は第1条で、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と定めています。つまり、商標を権利として保護することで、事業者の業務上の信用維持に貢献し、事業者がよりよい商品を開発してさらに信用を高めていくことで産業が発達し、商標を信頼して商品を購入する消費者の保護にもつながるのです。

「商標権」は登録が必要

事業者が使用する商標が商標権として保護されるには、「商標登録」が必要になります。手続きとしては、特許庁に権利取得の出願を行い、審査に合格した後、登録手続により商標権が発生することになります。この出願から審査を経て商標権を発生させる登録設定の正式な行政処分を「商標登録」といいます。

なお、特許庁に登録されて商標権が発生している商標のことを「登録商標」といいますが、上記の行政処分である「商標登録」とは呼び名が似ていても別の概念なので注意が必要です。

「商標権」の種類は文字や図形だけでなく色々ある

商標の種類としては、文字・図形・記号・色彩のひとつひとつやこれらの組み合わせなどの平面のもの、立体的形状、音声やホログラムなどがあります。商標には基本的に言葉として認識できる文字だけでなく、目で見て認識できるもの、音や動きの商標など、人間の知覚を通して認識可能なものも含まれます。

たとえば、図形商標としては、ヤマト運輸のクロネコのキャラクターなどがあります。これには文字情報はありませんが、これを見た人に一発でどこの商標かを視覚的に知らせる効力があります。

音商標としては、CMなどで頻繁に耳にするメロディなどがありますが、たとえば、ラッパのマークの正露丸のラッパのメロディ。あれは、製造元である大幸薬品の登録商標となっています。

商品と役務

商標権は、マークとそれを使用する商品またはサービス(商標法上では「役務」といいます)との組み合わせでひとつの権利として認められます。マークそのものが単体として権利化されるのではなく、そのマークを指定の商品・サービスに付して使用することを権利化したものなのです。

したがって、商標登録出願をしようとする場合、「商標」と併せて、商標を使用する商品またはサービスを指定する必要があります。たとえば、大幸薬品のメロディでいえば、「胃腸薬」が指定商品とされています。

商標権の効力は?

商標権の効力としては、①独占的効力(使用権)と②排他的効力(禁止権)があります。

①独占的効力は、指定商品または指定役務について、登録商標を独占的に使用することを指しています。あくまで指定商品または指定役務について登録商標と同一商標の独占使用であって、登録商標と類似する商標の使用にまで及ぶわけではありません。

これに対して、②排他的効力は、他人が権利者の独占的使用を侵害する恐れがあるときは、侵害の停止または予防を請求することができる(商標法36条1項)というもので、これは登録商標と同一商標の場合だけでなく、類似商標や類似商品、類似役務のケースも範囲内としています。

権利侵害の場合の効力としては、侵害者に対しては差止請求をすることができるほか、損害賠償請求(民法709条)、不当利得返還請求(民法703条・704条)、信用回復措置の請求(商標法39条、特許法106条)なども認められています。

侵害の判断基準は?

では、どのような場合に商標権の侵害となるのでしょうか。侵害があったといえるには、①有効な商標権が存在すること、②無権原の実施行為があること、③指定商品または役務の同一または類似+実施されている商標が登録商標に同一または類似していること、という要件を満たしていることが必要です。

特に問題となるのは③です。完全な無断使用の場合、権利侵害となるのは言うまでもありませんが、商品や役務、登録商標について、同じではなく似ているだけのケースでも権利侵害となり得るのです。

つまり、権利侵害となるパターンとしては、侵害が明白といえる1.商標同一・商品役務同一のケースのほか、2.商標類似・商品役務同一のケース、3.商標同一・商品役務類似のケース、4.商標類似・商標役務類似のケース、という4パターンが考えられるのです。

商標の類似性を判断するには?

では、ここでいう「類似」とはどのように判断されるのでしょうか。何かと何かが「似てる」「似てない」という判断は、見聞きする人によって感じ方が違うため、そもそも類似性の判断自体が難しいともいえます。

商標同士が類似しているかどうかは、「外観(商標の見た目)」「称呼(読み方)」「観念(一般的な印象)」という3要素から判断され、原則として、いずれかひとつでも共通するものがあれば、類似しているとみなされます。

まず、外観についてですが、称呼や観念が違っていても、一見して見た目が同じであれば、類似するものとされます。たとえば、「I(英大文字のアイ)」と「l(英小文字のエル)」は、称呼も観念も違いますが、外観は共通といえるので類似しているとみなされる可能性があります。

称呼については、「ヤマセ」と「山清」とは外観も観念も違いますが、称呼は共通しているので、類似しているということになります。観念については、たとえば「School」と「学校」は外観も称呼も違いますが、観念が共通といえるので、類似していることになります。

もっともこれらの要素は総合的に判断されるため、ほかの要素が明らかに異なるとして出所混同の恐れがまったくない場合には、たとえ外観・称呼・観念のひとつが共通する場合でも、類似性は認められません。例えば、「橋」と「箸」などは、称呼は共通するものの、日常においてその区別は誰しもできるものであり、混同の恐れはまったくないので、類似性は認められません。

商標権を保護する趣旨が、そもそも商標使用者の信用維持や消費者の利益保護にあることからすれば、混同される可能性が低くく、まったく別モノと認識されれば、類似性を危惧する必要もないわけです。

訴えられるリスクを回避するには?

では、ロゴやデザインなどを作成する際に訴えられるリスクを回避するにはどうしたらよいのでしょうか。訴えられるリスクとしては、上述したように、そもそも商標権を侵害してしまっているケースと、商標権侵害はなくても、不正競争防止法違反となるケースが考えられます。

まず、不正競争防止法が問題となるのは、商標に周知性・著名性が認められているようなケースなので、ロゴやデザインを作成する際、すでに有名なものがある場合には、そもそもそれと似たものは作成しないのが賢明です。マリカーの場合、任天堂のマリオカートに便乗してビジネスをしているということは素人が見ても明らかです。このようなビジネスの仕方をしないだけでも、不正競争防止法違反のリスクは避けられます。これについてはさほど難しいことではないでしょう。

次に、他者の商標権を侵害しないか?という点については、自社で作成しようとしているロゴやデザインの内容が、すでに登録商標となっているものと類似性があるものがないか、この点を事前に十分調査しておくことが重要になってきます。

簡易検索として「特許情報プラットフォームJ-PlatPat」というサイトもありますが、類似性の判断は容易ではなく、高度の専門性が求められるので、調査には弁理士や弁護士などに相談するのがもっとも安全といえるでしょう。

他人のアイデア、ブランドイメージや信用に便乗したり盗み取ったりして利益を得ようという発想は、そもそも誠実とは言えず、リスクがあります。先人が築き作り上げたものに対しては、敬意の念を抱きつつ、そこから学び、着想するかたちでビジネスを展開することが、紛争リスクの回避につながります。結果として、オリジナルのアイデアやイノベーションにもつながるのではないでしょうか。


参考:特許庁

過去の連載はこちら