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なにげに世界で有名な日本人:「一筆龍」を描き上げる絵師、手島啓輔氏
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  • 2018.09.12
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なにげに世界で有名な日本人:「一筆龍」を描き上げる絵師、手島啓輔氏

龍の胴体部分を一筆で描く「一筆龍」という縁起物があるのを知っている人はどれだけいるだろうか。途切れることなく描かれた龍の姿は、「人との縁、仕事、お金が途切れないように」という願いが込められてきたそうだ。

京都にある桜凜堂の主、手島啓輔氏は大願成就祈願としての昇り龍と、厄除けや守護祈願としての下向きの龍を描き続けている。2014年に一筆龍絵師としての活動を始めてからまだ5年も経っていないが、すでに国内のみならず海外へもその活動の場を広げている。詳しい話を同氏に伺った。

取材・文:6PAC

手島啓輔

一筆龍絵師

幼少より空手道を学び、道の精神を学ぶ。仏壇仏具の修復師として全国約200社の修復を手掛ける。約3年の修行を経て2014年に一筆龍絵師(ひとふでりゅうえし)としてデビュー。以降、国内外で幅広く活動中。福岡県出身、京都市在住、43才。
https://www.onestrokedragon.com/
https://www.instagram.com/onestrokedragon/
https://www.youtube.com/channel/UCS1ze8Vd-RTooCqT0I1j5pg/videos

3年間独学で習得、YouTubeで世界から注目

手島氏が一筆龍の絵師になったのは、幼少の頃からの憧れがあったからだという。「マンガの影響で龍の絵が好きでした。たまたま友人から一筆龍の存在を教えてもらい、自分も描いてみたいと思ったのがきっかけです。簡単にできるだろうと思い始めましたが、独学でゼロからの練習でしたので、販売できるクオリティに到達するまでに3年かかりました」。

龍が出てくる漫画と言えば『ドラゴンボール』を連想してしまうが、影響を受けたのは「車田正美『風魔の小次郎』だという。「必殺技のシーンで背景に龍が描かれていて、よく真似をして描いていました」とのこと。余談だが、「『ドラゴンボール』の影響で龍は願いを叶えてくれるという認識が海外では強い」ともいう。

師匠がいるものと勝手に想像していたが、独学で技法を学んだことには驚かされた。昔は多く存在していたという一筆龍絵師だが、現在日本国内では専業の一筆龍絵師が3人しかいないという。それでも描く人自体は増えてきているそうだ。

一筆龍の歴史について質問してみると、「正確な歴史はわかりかねますが、江戸時代にはお祭りや縁日などで披露していた大衆アートだったようです」という。今はあまり見かけなくなってしまったが、上野公園近辺にいた似顔絵師のような存在だったようだ。何か特定の宗教との関連はないそうだが、全国各地の神社などで行う奉納演武を大切にしていると同氏は語る。

一筆龍絵師としての活動を開始した2014年には、いきなりアメリカでパフォーマンスを行った。現地で和食レストランをチェーン展開する企業のパーティ、日本大使館主催のイベント、日本のアートを展示するギャラリー、美術館や博物館などで一筆龍を披露している。

福岡の幼稚園での実演の様子

今年に入ってからは、ナショナルジオグラフィックや、NHKの外国向け番組「NHKワールド」が取り上げるなど、海外でも知る人ぞ知る存在になりつつあるようだ。なぜこれほどまでに海外メディアなどから注目を浴びるようになったのか訊ねてみると、YouTubeに投稿した動画がきっかけだったという。奥様に撮影してもらったという動画を見た海外メディアが次々に記事化してくれたそうだ。

アジアでは縁起物、欧米ではアート

手島氏はアメリカ以外でも、これまでにフィリピン、モンゴル、台湾、マカオなどで一筆龍を披露してきた。今年後半も台湾とアラブ首長国連邦へ行くことが決まっている。

一筆で龍を描き上げるというパフォーマンスを見た外国人の反応について訊いてみると、「海外の方は、日本の書道パフォーマンスなどは見たことがあっても、一筆龍の実演は見たことがないと思います。パフォーマンスも含め所作や着物姿も喜んでいただいてます」とのこと。「日本を含むアジアでは一筆龍=縁起物と理解されていますが、欧米人はアートとして認識している人が多いです。ただアメリカ人の中にはスピリチュアルなものに関心の高い層もいて、私が一筆で龍を描くと涙を流す方も多いです」(同氏)。

米フロリダ州のギャラリー「Soft Water Studios」でのパフォーマンス告知のフライヤー

国内・海外問わず、積極的にアトリエから外に出る活動をしている理由については、「個展やパフォーマンスイベントは、絵の価値を上げるブランディングの場だと思っています。ライフワークにしている神社仏閣への一筆龍の奉納もその一つです。一筆龍という縁起物の絵の特性上、ただ絵が上手いだけの絵師より、お客様はアーティストの人となりや活動内容をみます。テレビや雑誌に出ているだけのアーティストよりも、しっかりと龍にまつわる神社仏閣に作品を奉納したり、売上をチャリティで寄付したりしているアーティストの作品を応援したいと思いますし、そういう縁起物を大切にされるお客様が私には多いです」と語る。

人との縁をつなぐ一筆龍

30代後半で一筆龍絵師としてキャリアチェンジした同氏だが、それまでの道のりは平坦ではなかったという。

18才から15~6年もの間、営業マンや仏壇仏具の修復師として仕事をしてきたが、一念発起して一筆龍の描き方を独学で習得した。月末に引っ越しのアルバイトなどの仕事をして生活費を稼ぎながら、自分の作品をどう売るかも、売れる保証もない中、悶々としながらも龍を描き続けてきた。

今では顧客の希望を聞いた上で、15~20分で世界で1枚だけの一筆龍の作品を完成させる。ただし、非常に高い集中力と気持ちを込めて制作するため、一日に3枚の制作が限界だそうだ。作品は1枚5万円程度で販売しており、京都のアトリエ、イベントなどでの実演販売、オンラインなどで購入可能だ。作品を購入するのは日本人が多いが、最近では、香港、シンガポール、台湾、アメリカ、オーストラリアなどからの注文も増えてきている。ただ海外からの注文は月2~3件程度で、まだまだ開拓の余地は残されているようだ。「一筆龍を専業で描き始めて4年、たくさんのご縁に助けられ、絵を描くことのみに集中して生活することが出来ています」と語ってくれた。

だが、絵師としての悩みは尽きない。最大の悩みは龍を描き上げる紙だ。和紙では塗料が滲んでしまうので、塗料をはじかない表面がつるつるした紙などに限定されてしまうという。また紙のサイズにも上限があるそうで、紙、筆、塗料に関しての試行錯誤が続いている。

筆者はこれまで一筆龍の存在を知らなかったが、他にも一筆龍を知らない人は多いと思う。一筆龍の認知度を上げるのには何が必要なのか率直に聞いてみたところ、「ありがたいことに一筆龍絵師と名乗る方も少しづつ増えて来ており、私にも、弟子にしてくれとか描き方を教えて欲しいといった連絡が来ます。私は出し惜しみせず、問い合わせがあればすべて教えます。たくさんの一筆龍絵師が活躍できるような環境になれば私は嬉しいですし、より認知度も高まるかと思います」と、裾野を広げる重要性を指摘した。

最後に、手島氏が一筆龍を通じて何を目指しているのかという質問をぶつけてみると、「日本は古くから龍は縁起物として認知されています。人とのご縁をつなぐ一筆龍という絵を手にしたお客様はもちろん、私自身も世界中の人と繋がり、世界で活躍できる絵師になりたいと思っています」と熱い思いを語ってくれた。

縁起物であろうと、アートであろうと、何事も真摯に向き合っていれば自然と良い縁に恵まれるのではないかと、ふと思った次第である。


京都一筆龍桜凛堂オフィシャルサイト

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