Photo by Shutterstock
阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております
今回のクレイジー裁判傍聴記は50回目というキリの良い回です。そして最終回という記念すべき回でもあります。今まで一度でも読んでいただいた方には感謝を。おかげさまで4年ほど続けることが出来ました。過去の記事はFINDERSに掲載されたままになるので、読み逃してる回があれば時間が空いたときにでもどうぞ。では、最後の傍聴記を。
「見張りをするだけで5万円もらえる盗みの仕事がある」
罪名 建造物侵入、窃盗
Q被告人 会社員の男性(24)
起訴されたのは、2022年12月16日午前1時23分〜2時39分の間、Q被告人は4人と共謀して東京・秋葉原にあるカードショップに侵入し、現金8万円とトレーディングカード152枚(1393万円相当)を盗んだという内容。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校中退後に建築関係の仕事を転々としていて、現在は会社員として鳶職の仕事をしているそうです。前科は無く、今回が初めての刑事裁判になります。
Q被告人は地元の先輩であるR被告人(起訴され、違う法廷で審理中)から「見張りをするだけで5万円もらえる盗みの仕事がある」と誘いを受け、しぶしぶ誘いに乗って犯行参加を決意。さらにR被告人は男性2人を誘って、犯行グループとして4人を集めたそうです。
そして犯行当日。コインパーキングに車を停めると、Q被告人とR被告人は被害店舗から数十メートル離れた場所へ行き見張りをすることに。
実行犯の2人、さらに指示役の男性とは音声を繋ぎっぱなしにして、人が通ったときにはすぐに報告するようにしていたという。
午前1時23分。実行犯2人はガスバーナーを使って被害店舗のガラスを割って侵入。店内ではガラスケースを割って、ポケモンカードを数枚盗んだらしい。
セキュリティが発動する前に実行犯2人はすぐに店を脱出し、車を停めている駐車場で待機。
午前2時34分。時間が経過しても警察が来る様子がまったくなかったので、実行犯2人が再び被害店に侵入。今度はバールで金庫を開けて現金8万円を盗み、更にポケモンカードを盗んだという。
午前2時39分。お店のセキュリティが発報したので、実行犯2人は店を出て車に乗り込み4人で逃走した、というのが検察官の冒頭陳述になります。
最近ニュースでもたびたび話題になっているポケモンカード窃盗の事件です。事件としては2022年の年末から何件かあったようですが、東京地裁では今年3月頃からいくつかの裁判がスタートしています。本件はそのうちの1つです。
被害金額がトレーディングカード152枚で1393万円という、興味のない人には驚きの数字になっています。昔から高価な宝石や腕時計を盗むという事件はありましたが、トレーディングカード泥棒はここ数年で増えているパターンの事件という印象です。中でもポケモンカードは6年ほど前から価格が急騰しているそうで、持ち運ぶのに便利なうえに高価だと悪い人たちが気付いて目をつけたという感じでしょうか。
被害店舗の店長は「釣り銭として金庫には8万円入れていた。特に高いカードはガラスケースの中に入れていた。廃業せざるを得ないほどの被害を受けた」と述べているそうです。
R被告人は取り調べに対し「先輩の知り合いから引き受けた闇バイトだった。人を集めるよう言われたので、後輩のQ被告人を誘った。奪ったお金とポケモンカードは指定された場所に持って行き、ヤクザっぽい男に全て渡した」と述べているそうです。
人を集めたR被告人が首謀者ではなく、その上にもっと悪いヤツがいるっぽいですね。
Q被告人は取り調べに対し「カードを盗んで金に替える仕事があるとR被告人に誘われた。その時に見張りをするように言われた。見張りが一番重要だと言われていた。報酬として、後日5万円を受け取った」と述べているそうです。
法廷にはQ被告人のお父さんが実家からやって来て、情状証人として出廷です。今後は実家で同居して、スマホのチェックをして交友関係に気を付けると約束していました。
指示された見張りすらマジメにやらない素人集団の怖さ
そして被告人質問です。まずは弁護人から。
弁護人「R被告人に誘われて本件犯行をやってしまったと。同じことはやってませんね?この1回だけ?」
Q被告人「はい」
近年、全国的にトレーディングカードゲームショップでの盗難事件が発生していますが、Q被告人が関わったのはこれだけだそうです。共犯者は複数の事件に関わっているそうで、弁護人としてはこれしか関わってないというのを強調です。
弁護人「共犯者と付き合いはありますか?」
Q被告人「事件の後、R先輩とはありません」
弁護人「他の共犯者とは?」
Q被告人「他の人は連絡先を知らないので…」
本件に限らず闇バイト関連事件の特徴ですが、この事件のために集まった人達なので共犯者は知らない人のようです。
弁護人「弁償の方は拒否されましたよね?」
Q被告人「はい。それだけ怒っているのが分かりました」
いくら用意したのかは明かされませんでしたが、被害店舗の店長は廃業の可能性を示唆しながらも受け取り拒否ですからその怒りは相当なものでしょう。
弁護人「また同じことされては困るのでね、仕事はどうしますか?」
Q被告人「今の会社に戻って、続けます」
弁護人「もし実刑だったらどうします?」
Q被告人「社長が許してくれるなら、同じ仕事をしたいです」
と、鳶職を続けて再犯しないことを約束していました。
続いて、検察官から。
検察官「あなたはお金欲しさで参加したんですよね?誰かに脅されて参加したわけじゃないですよね」
Q被告人「ん〜…。R先輩の上に人がいるとは思っていて……怖い人が地元にいるって聞いてたので。断ったら何かあるだろうなと思ってました」
悪い人との付き合いがあるというウワサがある人からの誘いだったので、断りにくい部分もあったようです。見えない圧力があったんでしょう。
検察官「さっきお父さんがあなたの交友関係に気を付けるって証言してましたけど、どうやってするんでしょうか?」
Q被告人「親にケータイを見せるように言われたら応じます」
検察官「この先、共犯者との付き合いはどうしますか?」
Q被告人「一切付き合わないです!」
と、悪い人の周りには近づかないと約束です。それが出来ていれば犯行に加わることはなかったんでしょうけど、逮捕・起訴されて決意した感じですかね。
最後は裁判官から。
裁判官「お店に入ってカードを盗むってのは知ってたんですか?」
Q被告人「それは事前に言われてました」
裁判官「それがお金になるとは思ってましたか?」
Q被告人「高いカードというのは聞いてました。ポケモンカードのショップを狙うという説明は受けてましたので」
裁判官「そこまで聞いててね、見張り役をやるのは怖くなかったですか?」
Q被告人「車を現場近くのパーキングに停めて『ここで見てて』って言われて。それで怖くなったので、言われた場所よりもう少し離れた所でタバコ吸ってたんです。植え込みに座ったり」
裁判官「見張りはしてたんでしょ?」
Q被告人「ん〜……指示役の相手が会ったこともない人なのに電話先でいきなり怒ってて。ムカついてたというか。あと怖かったのもあったので、見てないのに『今、人が通った』とか言ってました」
裁判官「取り調べだと、人が通ったことを実行犯に伝えたって言ってるよね?」
Q被告人「指示役の相手にムカついてたので、見てないのに人が通ったとかテキトーに言ってました」
裁判官「じゃあ、あなたは見張りをしていないってこと?」
Q被告人「言われた場所の近くに立ってたりしたので…、してないとは言えないです。でも座ったりタバコ吸ってたりしたので」
すると、一連の答えを聞いた裁判官は
裁判官「見張り、マジメにやってなかったの!」
Q被告人「そうですね」
そもそも犯罪行為なのでマジメにやる必要はないんですけど、みんなで協力してやると決めたんだから遂行しろよ、ということですかね。まさか見張りをちゃんとしなかったことを法廷で怒られるとは…。
断ったら怖い人から何かされると怯えていたのに、当日になると指示役にムカついてテキトーな見張りをやってたとは、とても犯罪行為をやるという緊張感が感じられないんですよね。これが闇バイトで集められた素人集団の怖さというか。
この後、検察官が懲役2年6月の求刑をして閉廷。判決は6月末に言い渡される予定です。
* * *
(編集部より)
記事冒頭にもありました通り「阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴」は今回で最終回となります。長年ご愛読いただきありがとうございました。
阿曽山大噴火さんのTwitterアカウントはこちら
過去の連載はこちら