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ジャーナリズムの新しい形は作れるか?世界が注目する有料メディアDe Correspondentとは【連載】オランダ発スロージャーナリズム(5)
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  • 2018.09.14
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ジャーナリズムの新しい形は作れるか?世界が注目する有料メディアDe Correspondentとは【連載】オランダ発スロージャーナリズム(5)

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「もし、今あるジャーナリズムを変えたかったら、それを書いているペンと紙を変えなければならない。つまりジャーナリストとデザイナーが一緒になってイノベーションを起こすことが必要だった」

こう語るのは、2013年クラウドファンディングで1.7億円をも集めてスタートした、有料オンラインメディア「De Correspondent」の共同創業者であり、デザインプロダクション「Momkai」の創業者、クリエイティブ・ディレクターのハラルド・ドゥニイク。

いかにPVを稼ぐか?ということだけを重視するあまり、速報性のみを追い求め表面的な事実のみしか伝えることができないネットニュース。さらには巷に溢れるフェイクニュース。今や新聞をはじめとする旧来のジャーナリズムでさえも、同じ危機的な状況に陥っていたり、政治的な圧力をかけられているのではないか、とさえ言われている。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

Momkai創業者、ハラルド・ドゥニイク氏

例えば、アメリカの350のニュースメディアが、言論の自由を守ろうと、一斉にトランプ大統領への抗議の記事を掲載したのは記憶に新しいだろう。

そんな現代のジャーナリズムの状況に危機感を覚えた、ジャーナリストのロブ・ワインベルグ。彼は自分たちが本当に書きたいと思い、また世の中に提議すべき問題や、伝えることに意味があると思われるニュースを、深く、その裏側、そしてその本質的な課題や構造的な問題にメスを入れるような、読み応えのある記事のみを扱う有料メディアを創刊した。ジャーナリズムに同じように危機感を抱いていた市民からの圧倒的な支持を得たクラウドファンディングが成立したすえに誕生した、まったく新しい有料メディア、De Correspondentである。2013年のことだった。

De Correspondent で書かれた記事から派生して、発行されている書籍。デザインは当然Momaki。

今、ネットを中心に巷に溢れるのは、物事の背景に触れることなく、あくまでも表面的な事実のみを追い求める記事。これらはファストジャーナリズムと呼ばれることがある。言ってみれば、ファストフード、ファストファッションなどと同じようなニュアンスだ。

一方でDe Correspondentのスタイルは、例えば、日々の天気を伝えるのではなく、気候を伝えるといった具合に、表面的な出来事だけではなく、物事の構造や、その背景にまで焦点を当てて、読者に思考のきっかけを与えるというスタイルだ。

当時30歳という若手でありながらオランダを代表するジャーナリストであったロブを始めとして、29歳にして、オランダですでにいくつかのベストセラーを書いていて歴史家であり、ジャーナリストでもあるルドガー・ブレグマンなど創業メンバーは皆若く個性派揃い。

オンラインの世界では、スロージャーナリズムを扱った有料メディアは成り立たない、と言われていた常識に風穴を開けた最初の事例となっただけではなく、当時のクラウドファンディングで過去最高金額を集めた、というおまけつきだったため日本でも注目を集めたメディアだった。

今や会員数も順調に伸ばし、世界的にも話題のDe Correspondet。今までにも日本のメディアでは、しばしば紹介されている。

しかし、実はこの創業メンバーの中に「Momkai」というオランダを代表するデザインプロダクションが入っていることに注目している記事は、当時の日本にはあまりなかった。

そこで今回は、今、世界でも話題のDe correspondentの成功の秘訣を、クリエイティブ、そしてデザインサイドからの見立てで紹介したい。

デザインが、メディアの「信頼」を獲得することができる

実は、今回、アムステルダムで話を聞いた、創業メンバーでもあるクリエイティブ・ディレクターのハラルドは、ロブと一緒に2016年にオランダ大使館などの招聘で来日もしている。

ハラルドはデザイン事務所「Momkai」を19歳で立ち上げて以来、クリエイティブ・ディレクターとして、オランダサッカー協会、レッドブル、ナイキなど、多くのメジャーなクライアントを担当してきた実力派。

筆者もオランダで、クリエイティブ・ディレクターとして活動していることもあり、De Corre-spondentのデザイン面が非常に気になっていた。と言うのは、このイラストを多用したウェブ誌面のデザインこそが、De Correspondent成功の大きな要因だと考えていたからである。

実は森羅万象を扱うニュースメディアは、元来トーンのコントロールが非常に難しい。ニュース素材自体のトーンコントロールが不可能だからだ。しかし、一目で「これはDe Correspondentのサイトだ」と分かる特徴のあるイラストは当然、トーンコントロールがされており、結果的に、De Correspondentの世界観を作っているのだ。

「メディアをデザインする時に最も大切なのは、読者からの信頼を獲得すること」とハラルドは言う。つまり、読者の信頼を獲得するためには、デザインの役割が非常に大きいのだ。それは見た目だけの話ではなく、読者体験までもをデザインしたものでなければ、信頼は得られないからだ。

そう言う意味でDe Correspondentの強みは、このサイトのデザインそのものである。

もちろん、De Correspondentの最大の強みは、記者が物事に深く切り込んだオリジナルの記事。扱う題材自体、独自の視点で選んでいるため独自性が高い。そうした内容を、イラストを効果的に使ってトータルデザインしたサイトは、読者に、まるで愛読書を読んでいるかのような錯覚を起こさせるのではないだろうか。

ジャーナリストたちはイラストとして登場する。

また、イラストが効果的に使用されている例としては、De Correspondentのジャーナリストがサイト上で、全員イラスト化されていることだろう。彼らは、自分の執筆した記事を題材にしたコミュニティを作ることも大事な業務だ。そのため記者がイラスト化されていることは、馴染みやすさや、印象の残りやすさ、などの点からも理にかなっている。そしてそのイラストは、そのまま記者の名刺にもなっている。記者がこの名刺を持つことで、プライドと責任を持って記事を書くことができる上、記者が読者と対話するコミュニティを作る際には、絶大な貢献をしているだろう。こういったオフラインまでを考えた読者体験がデザインされることで、読者の信頼が獲得できるのである。

ロゴは、Webメディアでありながらアナログの良さを感じさせるハラルド自身による手書きのロゴだ。デジタル上だからこそ、書き手の人間味や、ジャーナリズムの手触りといったものを大事にしているのだろう。サイト全体の印象を、知的なヒューマンタッチなものにしている。

De Correspondentとはメディアか? コミュニティか?

会員制のサイトでもあるので、このように細部までデザインされたサイトは、会員にとってはお気に入りのコミュニティという側面も持っているだろう。

ハラルドは「これは新しく、しかもとてもタフなチャレンジだった。ニュースとは何か? どうすれば人が信頼して、課金してくれるようになるか? 広告なしのサイトはどうあるべきか?ということを必死に考えた。ジャーナリズムにイノベーションを起こして、まったく新しいニュースサイトを作ろうとした。ジャーナリスト、デベロッパー、そしてデザイナーが、はじめから協働して制作に取り組む、ということは良かったのだろう」と言う。

実際に出来上がったサイトをみると、ブランディングにも大いに寄与していると感じられるイラストや、長文を読むやすくしているユーザーインターフェース、書き手の意図が伝わって来るかのような書体など、読者の信頼獲得のための要素が細かく散りばめられた美しいサイトになっている。

ちなみに、イラストを使用することはトーンコントロールがしやすいからだろう、とだけ思っていたところ「写真を撮るのは色々とお金がかかるでしょ?だって、だいたいジャーナリストは普段、ひどい格好をしているしね」と笑いながら、これまたなんとも合理的なオランダ人らしい答えが返ってきた。

ジャーナリストは記事を書いてからが本当の仕事?

さて、ここで有料ニュースメディアDe Correspondentのデザイン面以外の際立った特徴を見てみよう。

名前が象徴しているのだが、De Correspondentとはオランダ語で「貢献者」という意味がある。読者はジャーナリストが書く記事に、それぞれの知識や知見、そして多様な意見を持ち寄り、そのニュースを肉付けしたり、そこから議論をするなどして、記事そのものの価値を高めることが求められている。

例えば、De Correspondentでは、1人のジャーナリストが書いた医療の記事よりも、3000人の医者の方が、価値ある情報を知っていると考えられている。読者がさまざまな意見や発言をすることは、その記事の内容を豊かに肉付けしてくれる大切な要素であったり、新たな議論を生み出す気かけになる。つまり、これが読者の貢献なのである。

MomkaiとDe Correspondentがついに同じ建物内のオフィスへ。

一方で、De Correspondentのジャーナリストには、記事と読者、あるいは読者と読者をつなぐことを目的としたオフ会や、スピーチを行ったりすることで、積極的にコミュニティを作ることも責務として求められている。普通のジャーナリストのように記事だけを書いていれば良い、というわけではないのである。

このように、De Correspondentは有料メディアでありながら、その会員同士が積極的にコミュニケーションを取る場、つまりコミュニティという側面も強く持ち合わせている。まさにメディアという媒体が、コミュニティそのものになっているのである。

De Correspondentのジャーナリストには、読者とのオフ会や講演など、読者のコミュニティに積極的に関わることが求められている。

実は、De Correspondentは現在、一部英語の記事を発行していたり、ニューヨークでの英語版のローンチを控えているようだ。「例えば気候変動という問題は、オランダだけの問題ではない。世界中に広く知ってもらい、みんなで考えるべき問題でもある。だから英語版のローンチをしなければならない。」ハラルドが、こう語るのを聞いた時に、果たして日本ではこうした意識を持って実行できるメディアや、クリエイティブディレクターはいるだろうか?とふと思った。

わずか人口1,700万人のオランダで、De correspondentの有料会員数は今や6万人を超える。ジャーナリズムを健全にしたい、と願うオランダ市民が増えているのだろうか。人口が1億人を超える日本において、トップの有料会員数を誇るWebメディアでも、7万人を超えるくらいだろう。 De Correspondentがいかに、広がっているのか?が分かるのではないだろうか。

オランダ人は、さまざまな知見を皆でシェアするという新しいニュースサイト、あるいはハラルド曰く、知見をお互いにシェアしながら、世の中を良くして行くという新しいビジネスモデルの構築に参加したいという人が多いのだろう、という。

2013年のクラウドファンディングが始まる前日に、オランダ国内で記者を集めて行ったプレスリリースで、ハラルドはその場にいた全員の記者から「うまく行くはずがない」と反対されたそうだ。

De Correspondentのオフィスは、つい最近、ハラルドのデザインオフィスMomkaiと同じ建物内の下階に移転した。ハラルドは、クリエイティブ・ディレクターとして、昔はすべてのクリエイティブを自分で行うことにこだわっていたが、今はメンバーを含め、みんなで仕事を進めるスタイルになってきたと言う。同じクリエイティブ・ディレクターとして筆者も、この心境の変化が良く理解できるのだが、MomkaiとDe Correspondentは今後、ますますシームレスなコラボレーションが行われていくことだろう。

ジャーナリスズムに革命を起こしているDe Correspondent。英語版の準備も進めているようなので、興味のある人は、ぜひチェックしてみて欲しい。


次回は10月15日頃、公開の予定です。

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