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世界150カ国で8.5億DL!社会現象にもなった「ポケモンGO」集客力の秘密。日本法人代表・村井説人氏が語る独自戦略とは?
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  • 2018.09.06
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世界150カ国で8.5億DL!社会現象にもなった「ポケモンGO」集客力の秘密。日本法人代表・村井説人氏が語る独自戦略とは?

2016年に開催され、大きな反響を呼んだ体験型マーケティング会議「BACKSTAGE」が、今年8月30日に再び開催された。

「BACKSTAGE」は、あらゆる企業の戦略やマーケティングを共有するイベントで、ヒット商品やサービスの仕掛け人などが登壇。ヒットが生まれる舞台裏にスポットを当てるものだ。

さまざまな企業の発表の中から、今回は、大ヒットゲームアプリ「ポケモンGO」の開発元として知られる米・ナイアンティック日本法人の代表である、村井説人氏の講演を紹介したい。

世界150カ国以上で8.5億ダウンロードを記録し、今もなお記録を更新し続ける「ポケモンGO」の哲学や優れたマーケティング戦略とは?

文・構成:庄司真美 写真:神保勇揮

村井説人

株式会社ナイアンティック 代表取締役社長

1997年成城大学卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)にてキャリアをスタート。2006年にGMOアドネットワークスへ入社し、取締役に就任。Google マップのパートナーシップ日本統括部長、Australia/New Zealand Google Maps のパートナーシップ業務の責任者を経て、2015年12月に株式会社ナイアンティック代表取締役社長に就任。米・ナイアンティック社初の日本法人の代表取締役として、「Ingress」や「ポケモンGO」などのヒット作の日本市場における事業開発を手掛ける。

「ポケモンGO」が運動不足や喫煙による病気や死者を救う? 

弊社が制作するゲームは、「Ingress」や「ポケモンGO」に代表されるように、仮想と現実をつなぐ“リアルワールドゲーム”です。ロールプレイング・ゲームといった一般的なゲームとの決定的な違いは、人に歩くきっかけを提供すること。

私たちのミッションは、人にたくさん外に出て歩いてほしいということです。ゲームありきではなく、外に出て歩くきっかけを作るために、ゲーム性が必要だという考え方です。

歩く必要性がある背景についてお話しします。実は、運動不足が起因で亡くなっている人は、世界で年間約530万人にのぼるとも言われているのです。一方で、長年大きな社会問題となっている喫煙ですが、喫煙による死者は年間約560万人いるとされ、(※編集部注:2018年5月のWHOの発表によれば、喫煙が原因で亡くなっている人は年間約700万人)実は喫煙者と同じぐらい運動不足で亡くなる人がいることになります。

外に出て歩くことで、健康的に青い空や空気、自然を感じてほしい。運動不足をゲームで解消したいというのが私たちの願いです。家の中で閉じこもっていては体験できないことを感じてもらうことが、運動不足解消のための最初の一歩だと考えています。

米・ナイアンティック創業者ジョン・ハンケ氏からのメッセージ

「自分の周りに何があるのかをもっとよく知ること。自分の足で歩いて、それを自分の目で見て発見すること。そして自分の身の周りを幸せにする努力をすること。これが起きれば、世界中がもっとよくなるはずだ」

この言葉は、ナイアンティックの日本法人を立ち上げる際、米・ナイアンティック創業者ジョン・ハンケから言われたことです。これに感銘を受けて、私は日本の代表を引き受けることに決めました。

ナイアンティックの社是は、「ともに歩いて冒険する」です。私たちは、提供するサービスに基づいて冒険したり、探求したり、体を動かしたりしてほしいのです。もちろん、それだけではなく、現実世界、ソーシャル、人とのコミュニケーション、そういったものを新鋭化させていくのがミッションだと考えています。

「ポケモンGO」のKPIはいかに人が歩く距離を伸ばせるか?

「ポケモンGO」は、世界150カ国以上で8.5億ダウンロードを突破しました。

私たちのKPIは、売り上げはもちろんですが、もっとも大切なのは、“人が歩く距離をいかに伸ばせるか?”ということにあります。開発当初、私たちの掲げた目標は、「ポケモンGO」を通じて人が歩く総距離で太陽系を脱出しようということでした。その目標が、158億kmという数字です。これは太陽から冥王星までの距離に匹敵しますが、リリースから1年弱で、なんとこの3倍の距離を突破したのです。

いかに人を歩かせるか? それを基軸において、ナイアンティックは本気で戦略に取り組んでいます。たとえば、通勤するための自宅から駅までの道のりは、普通に歩けば15分程度だとします。みなさんは毎朝、通勤で最寄駅まで歩くとき、できるだけショートカットして歩くと思います。そこをあえて、1.5時間かかるようにするのは不可能だと思うでしょう。

おそらく多くのマーケッターは、人の行動属性をいかに変えるかということに注力していると思います。その中で一番難しいのは“時間”です。なぜなら人は時間に追われて生活しているからです。重要なのは、時間より大切なものに気づいてもらって、人の行動属性を変えること。

「ポケモンGO」ユーザーの場合、駅までの途中、やりたいこと、つまり、ポケモンを捕まえたり、アイテムをゲットしたりするため、いつもより1時間早く家を出るというふうに行動属性が変わりました。こうしたことを実現するために、われわれは常に考え、アイデアを出し合っています。

「ポケモンGO」の4つの提供価値

リアルワールドゲーム「ポケモンGO」を作るために、私たちは4つの原則を掲げました。

1つ目は、「世界が舞台であること」。ナイアンティックの本社はアメリカにあるグローバル企業として、世界中をゲームボードにして、世界中の人が遊べる環境を作ることを想定しています。これについては、そもそもGoogleマップやGoogleアースを開発してきた人材がベースにあるため、事業としてとても親和性があります。

2つ目は、「動いて遊ぶこと」。1日3時間もテレビの前から動かない子どもたちが世界中にいます。そうした子どもたちの約80%は、推奨される運動量に満たないと言われています。ゲーム性によって子どもたちを外に連れ出し、動きまわって遊べるようにできないだろうか?と私たちは考えました。

3つ目は、「新しい視点から見ること」。これは私たちにとっても重要な点で、やみくもにユーザーを適当な場所に連れて行けばいいというものではありません。私たちが提供したい価値は、物語が隠されたおもしろい場所。大勢の人が何度も通っているけれど、気づかれなかった、小さくて隠れた場所をこのゲームを通じて知っていただき、人が持つ知的探究心を引き出したいと考えています。

4つ目は、人と人のつながりを示す「ソーシャル」です。リアルワールドゲームは、多人数同時参加型のロールプレイング・ゲーム「MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)」と呼ばれていて、ここでは必ず人と人のつながりができます。それによってコミュニケーションが生まれ、何かを一緒に解決するきっかけを提供したいと考えています。

「Ingress(イングレス)」を開発した時、私たちの想像を超えるレベルで世界中の人が動き始めました。ヘリコプターに乗って動く人、飛行機に乗って南極まで行った人まで現れました。車イスに乗っている人もベビーカーにスマートフォンをつけて動く人もいました。これは私たちにとってとても喜ばしいことでした。

数万人規模の集客力のある「リアルワールドイベント」を社会課題に活かす

私たちは、人が動くきっかけとなる、「リアルワールドイベント」の開催を重要視しています。過去に東京・お台場で「Ingress」のイベントを実施した時は、約1万人以上が集まりました。さらに集まった人がそこでコミュニケーションを取るなどのさまざまな価値を提供するリアルイベントを世界中で企画しています。

この集客力を活かすために実施したのが、宮城県石巻市で開催したイベントでした。実は弊社は、Googleマップのクライシス・レスポンスを担当した実績のあるスタッフが多かったのです。社会課題として、震災後の被災地に大勢の人を継続的に送り込むことが目的ですが、実際やってみると本当に難しい課題だと実感しました。

東北3県と話し合い、なにが必要かを見極めた上で、イベントを企画しました。結果、11日間で約10万人を動員し、約20億円の経済効果が見込めました。

同様に、鳥取県中部地震直後の鳥取砂丘を舞台にイベントを実施しました。ただでさえ交通の便の悪い場所でしたが、3日間で約8万9,000人が集まり、その経済効果は18億円となりました。

「ポケモンGO」で現代人のストレスが軽減?

「ポケモンGO」や「Ingress」による興味深いデータがあります。日本の労働者2530人(20〜74歳)を対象に心理的ストレスとの関連を調べた実証データです。これによると、2016年7月のアプリのリリースを機に、労働者の心理的ストレスが改善される可能性が示唆されたということです。しかも強くストレスを感じている人ほど「ポケモンGO」をダウンロードしているということがわかりました。

また、「ポケモンGO」を週1回以上プレイしている20〜60代男女774人を対象とした花王の生活研究センターの調査では、心と体への影響について調べました。この調査では、歩くきっかけができたり、気分転換になったりしたという回答が多くあり、運動促進だけでなく精神的リフレッシュ効果も認められています。

さらに、私たちの想像を超えることが起こりました。自殺の名所とされている、福井県の日本海側にある東尋坊では、「ポケモンGO」がリリースした昨年、年間の自殺者がゼロになったのです。なぜなら東尋坊はアイテムがゲットできる“ポケストップ”だったからです。長年、この地で自殺しようとする人を説得する活動をしている人の話によれば、これまでどんなに活動を続けても、自殺者が減ることはなかったそうですが、「ポケモンGO」がリリースしてから風景が一変したと言います。人が集まるようになり、それが自殺者を抑制する力になったというのです。これには私たちも驚きました。

リハビリや自閉症への効果も世界中から続々報告

ほかにも、「ポケモンGO」を始めてから痩せたという人、夫婦で「ポケモンGO」を始めたら仲が深まったなどという報告が、世界中から寄せられています。

さらに、社会不安障害の人が「ポケモンGO」のおかげでいろんな人とコミュニケーションが取れるようになったという報告まで上がっています。特に私が印象深かったのは、アメリカのミシガン大学付属小児病院でのエピソードです。事故などにより、子どもたちはリハビリに励んでいますが、動かない体をベッドから起こし、長期にわたってトレーニングを続けることは想像以上にハードなものです。そんな中で子どもたちがいかにモチベーションを上げられるかということが課題でした。

ところが、「ポケモンGO」がリリースされると、子どもたちがスマートフォンを片手に自ら外に出るようになったのです。病院関係者は予想もしないすばらしい事態に驚いたと言います。この報告を受けて、私たちはますますテクノロジーを進化させて、こうした子どもたちにモチベーションを与えられるよう邁進していきたいと考えています。

一方、自閉症の子どもがいる女の子の母親からも手紙をいただきました。13年間家で引きこもっていた少女が突然、兄弟と一緒に庭に出てポケモンを捕まえ始めたのです。その母親は、はじめは一体なにが起きたのかわからなかったと言います。さらに、ポケモンを捕まえながらほかのユーザーと「どのポケモンが好き?」などとコミュニケーションを取り始めたそうです。この13年間、少女は自分自身と戦ってきましたが、親御さんにとっても、「いかに子どもに外に出て社会性を身につけてもらうか」ということが最大の課題であり、戦いでもあったと思います。私たちは、自閉症のお子さんを持つ親御さんから、こうした報告の手紙をたくさんいただきました。この手紙を読んで、私たち日米のナイアンティックのチームも泣きました。

絶大な効果を発揮する「ポケモンGO」の販促で広がるパートナーシップ

もちろん、「ポケモンGO」はさまざまなビジネスやサービスの販促にも活用できます。具体的な事例としては、子どもの本離れにより来館者が減少するアメリカの図書館。そのほか動物園とのコラボにより、来場者がアップしたケースもあります。

日本では、イオンやセブンイレブン、ソフトバンク、マクドナルドといったさまざまな企業様とパートナーシップを結び、各場所にポケストップを設けて人を集める施策を考えています。

AR(拡張現実)デバイスがこれからの主流へ

これまで私たちは、リアルワールドゲームを駆使してさまざまな価値を提供してきましたが、次に見据えているものは、AR(拡張現実)です。ARとは、目の前にある現実世界だけでなく、世界中のあらゆる場所の情報を重ねて見せることです。インターネット上にはさまざまな情報があって、それが現実社会に溢れていく生活はさらに加速していくと考えています。わかりやすい例で言えば、カーナビや地図といったものになります。

私の考えるARは、目、耳、口、鼻、触感の五感で感じられるものです。たとえば現在、高品質なヘッドフォンは外界の音への遮断性があって、最高なクオリティで音楽に没入できます。現在開発されているヘッドフォンは、外界の自然な音を聞きながら、音楽も同時に聴けるものです。たとえば、街に出れば街の音、駅に行けばホームの音を聞きながら、音楽も聴けるようなイメージです。

ナイアンティックでは、そうした最先端のデバイスと提携することで、これからもサービスを展開していきます。私たちはGoogleから派生した会社として、インターネットの世界をARの技術で現実社会と混ぜ合わせることで新しい世界を創造していきたいと思っています。すでにノートPCやスマホなどのデジタルデバイスは出尽くしていますが、次に来るものは、ARデバイスだと考えています。


最後に村井氏は、ナイアンティックが開発するリアルワールドゲームを体現した、イメージ動画を発表。4〜5人がスマホを持ちながら、光の玉を撃ち合うゲームだ。端から見ればシュールな光景ではあるが、ゲームに挑む人は真剣そのもの。時間とともに、汗もにじんできそうな勢いだ。

テレビモニターやスマホの液晶画面を前に、指以外動かさずにするゲームとの決定的な違いは、実際に体を動かし、移動しながらゲームをするスタイルであること。ナイアンティックが標榜するARワールドがライフスタイルに浸透する日常が、目前まで来ているかもしれない。

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