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「現状では国産大麻で神事すらできない」三重大学で立ち上がった「大麻の学術研究組織」の挑戦
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  • 2023.05.18
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「現状では国産大麻で神事すらできない」三重大学で立ち上がった「大麻の学術研究組織」の挑戦

【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(8)

この連載で繰り返し書いていますが、海外での大麻に関する大変革の波を受け、日本でも70年以上続く大麻取締法の改正が目前となっています。去る2月20日に開催された衆議院予算委員会では、自民党の務台俊介衆議院議員が大麻の繊維、薬品、食品、燃料、建材、紙といった多様な用途や二酸化炭素の吸収源として大きな効果が見込まれている点などに言及し、地域活性化と地球温暖化防止の観点から質疑を行いました

こういった動きに伴い、これまではありえなかった様々なプロジェクトが日本国内でも始動しています。中でも、国立大学である三重大学が「日本の大麻農業の復活を支える基礎・応用研究組織の発足」を発表したことは、私たちにとっても非常に大きなインパクトがありました。三重県明和町にある国史跡の斎宮で、4月から産業用大麻の試験栽培も始まっているそうです。

今回はプロジェクトのリーダーを務める諏訪部教授と副リーダーを務める伴准教授に話を伺いました。

諏訪部圭太

三重大学大学院
地域イノベーション学研究科・生物資源学部 教授

日本育種学会、日本植物生理学会所属。科学技術振興事業団(農研機構野菜茶業研究所)、英国John Innes Centre、東北大学大学院生命科学研究科(日本学術振興会特別研究員PD)などを経て、現職。
https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2537.html

伴智美

三重大学
生物資源学研究科 准教授

日本畜産学会、日本獣医学会所属。島根大学生物資源科学部(日本学術振興会特別研究員PD)などを経て、現職。
https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1133.html

大麻博物館

日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

戦後日本で厳しく制限されてきた「大麻の学術的な研究」をスタート

諏訪部圭太教授(写真左)、伴智美准教授(写真右)

大麻博物館:まず、このようなプロジェクトをはじめたきっかけを教えてください。

諏訪部:2年ほど前、三重県で神事に用いるための大麻の栽培を行っている伊勢麻振興協会(※)からの相談を受けたことがきっかけです。彼らは日本の大麻農業、大麻産業を復興させたいと活動していましたが、さまざまな困難に奮闘している最中でした。現状、栽培はできるものの、分析したり、活用方法を生み出したりするための研究はできません。そこで「学術的な視点から一緒に携わってもらえないか」と相談されたのが最初です。

※大麻を栽培するためには都道府県知事が発行する大麻取扱者免許(栽培者用)が必要。伊勢麻振興協会は2018年に取得。同様に、大麻を研究するためには大麻取扱者免許(研究者用)と麻薬研究者免許が必要で、三重大学はそれぞれ2022年に取得

伴:相談をいただく以前、私は大麻に関して全く無知な状態でした。違法な麻薬というイメージしかなく、「大丈夫なの?」と思いましたが、概要を教えてもらい、調べていくうちに、日本の神事・伝統・農業・産業において非常に重要な植物であるとともに、研究対象としても非常に興味深い植物だと分かりました。

諏訪部:このプロジェクトには私たちを含めて 計13名の教員が関わっています。参加メンバーは話をしてすぐに賛同してくれましたが、大学として、組織として、どのように進めていくかのプロセスは非常に困難でした。大麻という植物をどのように研究し、どのように日本社会に貢献していくかをひとつひとつ紐解いていくことで、執行部も概ね理解してくれたと思います。

大麻博物館:「麻」と「大麻」という言葉の違いで、与える印象は大きく異なると思います。このプロジェクトは「大麻」という言葉を選択されていますね。

諏訪部:私たちも「麻」や「ヘンプ(産業用大麻)」という言葉を用いることは検討しました。しかし、アカデミシャンとして正しく理解し、啓蒙し、日本社会における認識を変えるためには「大麻」というワードをあえて使う必要があります。ビジネスベースではない我々は、そう考えました。

法改正で規制緩和されても「タネ」が入手できない?

大麻博物館: プロジェクトの内容について教えてください。

諏訪部:最初の目標として掲げているのは、日本の神事を純国産の大麻で支えたいということです。また、今後さまざまなビジネスとして発展することを考えると、農業としての基盤をしっかりつくらなければいけないと考えています。

そのための大きな障壁となっているのは、商用として使える品種が「とちぎしろ」(※)一種類しかないという点です。現在、10の都道府県で大麻の栽培を行っていますが、基本的にはその土地の神事や伝統文化を支えるためのものです。しかし、それらがどんな品種なのかはとちぎしろを除き、よく分かっていません。さらに栃木県に相談しても、県外にとちぎしろのタネは出さないというルールがあったりもします。つまり、法改正で栽培人口や栽培面積が増えたとしても、栽培できるタネが見つからないという状況なのです。ですので、日本全国の大麻のタネを集めたシードバンクを組織し、今後設定される基準値を満たすタネを供給する体制をつくる必要があります。それらが集まれば、新しい品種をつくることもできます。そして、「神事用はこれ、この産業ならこれ」とチョイスできる状況にしなければなりません。

※1970年代から品種改良され、1983年に登録された品種。「無毒大麻」とも呼ばれる。THCをほとんど含有せず、国際的な産業用大麻(ヘンプ)の基準にも適合している。

もうひとつ大きな目標は、安全性を担保することです。そのために、THCやCBDといったカンナビノイド(※)の分析センターをつくり、証明書を発行できるようにしたいと考えています。食品、化粧品といった加工製品を分析するのではなく、植物として検査する。営利目的が主ではなく、農家を支援しながら、産業界を活性化させたいのです。これらを新たな産業の土台として、日本全国に波及させていきたいと考えています。

※100種類以上とされる大麻に含まれる成分の総称。マリファナの主成分であるTHC、精神作用のないCBDがよく知られている。

70余年の空白を埋める

4月から栽培を開始した麻畑(三重県明和町 斎宮)

大麻博物館:現在の日本には、新たな産業として成立するための土台がないということですね。

諏訪部:先ほど話した内容は、応用というか社会貢献という位置づけです。一方で、大麻という植物自体を学術的に紐解かなければならないとも考えています。70余年続いている大麻取締法は、産業界だけではなく、学術界をも厳格に規制してきました。 この空白を埋めるためにも、ここで大麻という植物の基礎研究を網羅的に行いたいと考えています。

世界中にさまざまな大麻の品種がありますよね。品種ごとにTHCが高い、低いといった違いがあります。そうした中で長きに渡って継承されてきた日本の大麻が一体どういう植物なのか、現在の生物学・植物学ベースでしっかりと紐解くことが重要です。それが分かった上で、どのように産業に活用するかという展開が望ましいはずです。

伴:大麻は成長が非常に早く、繊維質成分を多く含んでいます。私の専門である動物、畜産という観点からその利用を考えると、たとえば牛や羊など草食動物のエサとして、牧草の一部に混ぜるといった可能性もあります。実際に海外では飼料への利用について、論文もいくつか出ています。動物へのリラックス効果もあるようなので、成長成績やミルクへの影響などの研究もしてみたいですね。他にも家畜の敷料としてオガラ(大麻の茎)を用いるなど色々な用途で使えそうだと感じています。

諏訪部:例えば、大麻は交配を続けると先祖還りするといったことも言われていますが、はたして本当に起こるのか。そういった情報の多くは伝聞でしかなく、学術的な根拠としては乏しいため、きちんと研究して明らかにし、論文として公表してエビデンスを積み上げていきたいと考えています。

前例のない試みを行う覚悟

大麻博物館:ありがとうございます。大きな一歩だと思います。しかし、大きく舵を切った三重県を除けば、大麻というテーマでなにかを行うことへのハードルが依然として高いのも現実です。

諏訪部:前例のない試みであり、すんなりと受け入れられるものではないことは承知しています。伊勢麻振興協会のみなさんからは「7~8年前は誰も全く取り合ってくれない状況だった」と聞いています。しかし、少しずつ地道に説得していった。

最近の話ですが、先ほど触れたシードバンクの活動について厚生労働省の方に相談しました。非常に理解を示していただき、各都道府県の薬務課に対して、「協力してあげてほしい」という働きかけまでもしてくれました。しかし、その上で各県にアプローチしてもなかなか相手にはしてくれません。また、多くの企業が注目しているとは感じますが、皆さん表に出すのはまだまだ躊躇している。これはメディアも同じです。

伴:日本では大麻=「ダメ。ゼッタイ。」のイメージが今も非常に強く、正確に理解していないという点が一番大きいと思います。

諏訪部:一方で、今回の法改正の内容は非常にチャレンジングな英断であり、劇的な変化に繋がっていくものと考えています。国会議員の方々の勉強会で話す機会もありますが、理解しようとしてくださる方がだんだん増えており、日本でもムーブメントが起きつつあると感じています。それを正しい方向に導いていくことも我々の重要な役割ですので、その自負心を持ってしっかりと進んでいきたいと思います。

三重大学は総合大学ですから、医・農・工連携だけでなく、歴史、文化、伝統の研究や社会への啓蒙といったことも行いたいと考えています。農学研究のためのベースは確立できたので、今後はどういった形で活用できるかを考える総合拠点にしていきたいです。大麻という植物について、知れば知るほどわくわくしていますし、使命感が湧いています。


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