EVENT | 2023/05/04

ChatGPTはコピーライティングや企業分析に使える?広告業界でのChatGPT活用事例を聞いてみた

聞き手・文・構成:赤井大祐(FINDERS編集部)
「どんな質問にも答えてくれるAI」として注目を集める米・OpenA...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

聞き手・文・構成:赤井大祐(FINDERS編集部)

「どんな質問にも答えてくれるAI」として注目を集める米・OpenAI社によるAIチャットボット「ChatGPT」。ネット上では、日夜その使い方を巡り、さまざまなアイデアや議論が飛び交っている。

しかしここで気になることが一つ。実際のところ、趣味や仕事にどのように使ったらよいものか。そもそも現時点で本当に実用に足るツールなのか。さらに言えばAIは人の仕事を奪っていくのだろうか。

デジタル広告運用・制作などを行うアナグラム株式会社の小山純弥さんが、日々の業務の中でChatGPTの活用を始めているということで、現時点での広告業界の現場での活用について話を伺った。

小山純弥

アナグラム株式会社 マネージャー

undefined

ChatGPTは「たまに良いことを言うインターン生」

―― 業務の中で、どのようにChatGPTを活用されているのか伺っていきたいと思います。まず普段の業務について教えてください。

小山:いわゆるデジタル系の広告運用会社です。Google広告やFacebook広告などのセールスや運用、クリエイティブの制作から、クライアントの広告戦略のコンサルティングなども行っています。

ChatGPTをよく使うケースで言えば、「3C分析」「SWOT分析」「ファイブフォース分析」といった企業やその事業を分析するいわゆる「フレームワーク」ですね。企業名、ビジョン・ミッション、事業内容など、お客さんにまつわる前提条件を入れ、分析を頼むとそこそこちゃんとした結果が出てきます。こういったフレームワークをいくつか試して、素早く、ざっくりと現状把握を行う使い方をしています。

ただやってみてもらうとわかりますが、この前提条件を詳しく入れないと、ただの一般論しか言ってくれません。自分がどれだけその企業について掴めているのかが重要だったりします。例えばFINDERSを運営するCNSメディア社についてプロンプトを作るとこのような感じでしょうか?

上記は小山氏に用意いただいたプロンプトをもとにしたFINDERSの運営会社であるCNSメディア社についての分析。なお本記事中に登場するプロンプトはすべて小山氏によるもの。

―― 分析以外ではいかがでしょう?

小山:いわゆるアイデア出しというか、ブレスト的なものにも少しずつ使っています。例えば、「『家事に時間を割かれて子育てとの両立が大変な人』に関連する周辺の文脈概念を30個教えてください」と尋ねてみる。すると一瞬で30個の案が出てくる。そこから広告のクリエイティブや、配信のターゲティングのアイデアの種をときどき拾えることがあります。下記のような形でプロンプトを入れて考えると関連する要素を数値とともに提示してくれます。

undefined

step by stepで考えてください。
テーマに関連する周辺の文脈に関する概念を100個考えてください。
概念を以下2つの指標で1-20の20段階で評価しなさい: """
テーマに沿う度合い(1-20):テーマに直接的に関連している度合いを指します
影響の大きさ(1-20):世の中に出現頻度が多ければ多いほど影響が大きいです
"""
出力形式は以下: """
* 4列の表
* 1列目:テキスト
* 2列目:テーマに沿う度合い
* 3列目:影響の大きさ
* 4列目:合計
* 表は合計降順で並べてください
* 上位30だけ掲載してください
""" 

「step by stepで考えてください」とは、ChatGPTがプロンプトに対して連続的に思考を行うことを促し、返答を “賢く”するためのプロンプトの一つ。詳しくは、こちらの記事を参考にしてほしい。  

他にも、コピーライティングのアウトプットの参考に使うこともあります。特に短いコピーを作る際はパターン出しが重要なので、とにかく数を出してもらうためのツールとして結構使っています。ただ、ChatGPTは文字数を数えることができない。AIにとっては結構難しいことらしいのですが、コピーは枠の文字数にあわせて作ることが重要なので、最後の調整はまだまだ人の手でやらなければなりません。

―― でも中には「これだ!」というようなコピーの案が出ることもあるんですか?

小山:うーん、どうでしょう。広告に使用するキャッチコピーには、最後まで読んでもらうための言葉の取っ掛かりというか、違和感を出す工夫が必要なんです。平たくいえば、「人とは違う言葉選び」ですね。でもChatGPTは非常に平均的な言葉を選ぶので、原理的にマーケティングと相反する性質があるような気もしています。「この商品は〇〇の部分で他と差別化されています」「このコンテンツの面白いところは◯◯です」といったことをしっかり伝えれば、ある程度動くようになると思いますが、現状、人の手で書いた方が早いです。あとユーモアがとにかくひどいのも結構致命的ですね(笑)。

―― 仕事で助けられている感覚はありますか?

小山:介在価値15%ぐらい、といった印象ですね。手伝ってくれるインターン生が一人増えたみたいな感覚です。戦力とは言えないけど、たまに面白いことを言ってくれるいいヤツが常にいるみたいな。

―― なるほど、イメージしやすい。

小山:正確ではない情報を返すことも少なくないので、間違っている前提でみないといけない。それを踏まえたうえで出てくるときは出てくる、といった感じです。アイデアとかコピー案を100個とか出してもらって、「確かにこういう視点もありかもね」というようなものが1個か2個見つければ良いわけです。自分の発想の幅を広げるツールの一つです。

―― 「正確ではない情報を返すことも少なくないけれど、たまに良いことを言うインターン生」というのも考えものですね。やはり、「ChatGPT4」の登場なども大きく影響していますか?

小山:たしかに4のほうが気の利いた比喩表現や思いがけないことを言ってくれたりはするのですが、その代わり出力が遅いので自分は3.5を使うことが多いですね。多少精度は落ちても早いサイクルで数を出してもらった方が、自分は正解にたどり着くまでが早いと思っています。

ChatGPT利用の秘訣はずばり「マインドセット」

Photo by Rolf van Root on Unsplash 

―― 現状の感覚として、ChatGPTを使いこなすために必要なものはなんだと思いますか?

小山:マインドセットだと思っています。まず、ChatGPTって結構地味というか、正確ではない情報だったり、ときには変なことも言うので、「こんなもんか」と思いがちなんです。でも、100個のアイデア出しの中に1個 でも自分が思いつかないものが出てくるなら絶対に聞いてみるべきじゃないですか。しかも出てくるまでに1分もかからないわけです。正確性やクオリティの高さを求めること自体がすでに間違いというか、意外とここで躓いて使いこなせていない人がかなり多いのではないかと思います。

―― まさに自分がそうでした。なんかピンとこないな、みたいな。

小山:「良いワード選びができる可能性が5%上がる」みたいな感じで考えるのが良いと思います。めちゃくちゃ地味なんですが、5%上がるなら使おう、というマインドセットにしていく必要があると思います。だからChatGPTを「業務を楽にするツール」と思うのは良くないような気がしていて、むしろこれまで以上に手数とクオリティを高めるためのツールと捉える必要があると思います。これまで10個の案を考えて、その中から1個の成果物を作る、とやっていたところを、300個の案の中から高いクオリティの1個を選びぬく、という作業に変わるわけです。当然その分の時間や、それを見極める知識や経験が必要になります。でもその手数の「当たり前の水準」を変えなければ、他のプレイヤーと競っていけないという感覚が強くあります。

―― なるほど。テクノロジーの発達によって、人の仕事量はむしろ増えてきたということはよく言われますが、AIの普及においても同様のことが起きているんですね。

小山:それに関連して、「ChatGPTっぽい」っていうのが一つのフレーズになりそうだなって思っています。仕事の及第点よりちょっと下のラインというか、「これはChatGPTにも書ける」みたいな基準ができると思うんです。なので今後は「これならChatGPTには書けまい!」というクオリティを求めるような意識を持って仕事をするべきだろうというプレッシャーも感じています。

やっぱりChatGPTの登場によって、仕事のクオリティに早くも差が出てきたように感じるんですよね。最近、明らかにChatGPTに書かせたであろうnoteをいくつか見かけましたが、やっぱり読んだらわかりますし、普通につまらない。この辺の副作用はありますよね。少なくとも自分や自分のチームで仕事をするときには「そう思われたら終わり」ぐらいの意識は持つようにしています。

―― これまでも多数量産されてきた「いかがでしたかブログ」的なコンテンツが加速的に増えていきそうですね。

小山:あれはあれである種の様式美として面白いですけどね。逆にあのおかしさはAIには生み出せないのではないかとも思ったりします。システマチックに作られたものだけど、ときどき変な人間臭さを感じたりもするじゃないですか。そういう意味で自分の感情みたいな部分が重要になっていく感覚もあります。

AIが一瞬で書き出してくれるようになって、一般論の価値がまるでなくなった。僕も一般論や理論的な組み立てみたいなことばかりやってきたので、正直苦手意識はあるんですが、今後は広告業界においてそういったロジックと感情のバランスが重要になっていくのだと思います。

“ChatGPT手当て”の配布も開始

―― 会社としての活用はいかがですか?

小山:フレームワークの考え方とも通じるのですが、新しい思考法を提案するような本ってあるじゃないですか。

――「ビジネスに使える 〇〇思考」みたいなやつですね。

小山:その「本の名前」「本の概要」「思考法の説明」などをインプットしたChatGPT(※)に「このテキストに対して、書籍の観点から意見をください」といった指示を出すことで、常に一定の視点から意見をもらうことができます。

※ChatGPTは、「今後◯◯のように振る舞え」といった「指示」を出すことが可能。さらに、チャットルームは複数立ち上げられるため、「〇〇のように振る舞うChatGPT」「〇〇の考え方をインストールしたChatGPT」といった形で、自分好みにカスタマイズ(教育)していくことができる。

それを応用した取り組みとして、先日、ナシーム・ニコラス・タレブという研究者の『反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(ダイヤモンド社 )という書籍を取り上げ、社内で読書会を行いました。ざっくりと説明すると、この本では物事を「脆弱」「頑健」「反脆弱」という3つに分類する、というフレームワークが提示されています。

耳慣れないフレームワークを提唱しているうえに、説明も読みにくいところがある本なのですが、社員に『半脆弱性』のフレームワークを再現するプロンプトを配布したんです。身の回りのさまざまなケースに当てはめてみることで理解を深めることができた、という感想をもらいました。おまけに、私自身がプロンプトを作ることで、より深く書籍のフレームワークを理解できましたし、そのプロンプトを使ってみることで、またさらに理解が深まるのを感じました。組織の中に特定のコンセプトや考え方を普及させたり、手法の再現性を高めたりすることへの可能性はかなり強く感じています。

ちなみに読書会のときに配布したプロンプトは以下のものです。「テーマ」部分をご自身の関連業界などに差し替えて使ってみて欲しいです。

undefined

step by stepで考えてください。
あなたは、ナシーム・ニコラス・タレブの「反脆弱性」のロールプレイを行います。
物事は「脆弱」「頑健」「反脆弱」の3つに分類されます。: """
* 脆弱: 平穏を求める。変動性、ランダム性、不確実性、無秩序、間違い、ストレス、時の経過などを好まない。間違いはめったに起こらないが、起こるときは巨大である。
* 頑健: 何事にもあんまり動じない。衝撃に耐え、現状をキープする。
* 反脆弱: 無秩序を成長の糧にする。変動性、ランダム性、不確実性、無秩序、間違い、ストレス、時の経過などを好む。間違いはしょっちゅう起こるが、小さい。
"""
例えば以下のように分類されます。: """
* ギリシャ神話 脆弱: ダモクレスの剣, 頑健: フェニックス, 反脆弱: ヒュドラー
* 企業 脆弱: ニューヨークの銀行システム, 反脆弱: シリコンバレーのスタートアップ
* 科学 脆弱: 理論, 頑健: 現象学, 反脆弱: 実践的なコツ
* オプション取引 脆弱: ボラティリティガンマ・ベガをショート, 頑健: ボラティリティに対してフラット, 反脆弱: ボラティリティガンマ・ベガをロング
* 金銭的な依存 脆弱: 企業の従業員, 頑健: 歯医者・最低賃金労働者, 反脆弱: 職人・売春婦
* 学習 脆弱: 教室で学ぶ, 頑健: 実生活から学ぶ, 反脆弱: 実生活と蔵書で学ぶ
* 政治体制 脆弱: 国民国家・中央集権国家, 反脆弱: 都市国家の集合体・分権化
* 思想家 脆弱: プラトン・アリストテレス・アヴェロエス, 頑健: メノドトス・ポパー・ウィトゲンシュタイン, 反脆弱: ニーチェ・ヘーゲル・ヤスパース
* 職業 脆弱: 官僚・学者・企業幹部・政治家・教皇, 頑健: 郵便局員・トラック運転手,
* 反脆弱: 起業家・芸術家・作家
"""
次のテーマについて「脆弱」「頑健」「反脆弱」それぞれに当てはまる状況を、8個ずつ、合計24個の箇条書きで表してください。
テーマ: インターネット広告代理店

―― なるほど。社内でChatGPTに関する勉強会なども行っているのでしょうか?

小山:全社としては行っていませんが、有志で集まることはあります。ただ、先日から福利厚生として、ChatGPT Plus(月額20ドルの有料プラン)の利用希望者を対象に、3カ月間試験的に補助金を出しています。それもあってか、社内でも少しずつ使用者も増えてきていて、出来上がったプロンプトもお互いにシェアしあっています。同時に、「個人情報を入力しない」といったルールも会社として決めて運用しています。

社内でのコミュニケーションのとり方としては、「AIは敵じゃなくて味方ですよ」ということはちゃんと明言しています。なんだかんだ、未だに仕事を奪う敵、のような認識を持っている人は結構多い印象があるので、今後会社ぐるみでいかに仲良くしていけるかを探って行ければと思います。


ChatGPT

アナグラム株式会社