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EVENT | 2023/03/21

「繊維」に関する産学官連携拠点。海外とも連携しサスティナビリティへの変革を加速 信州大学繊維学部Fii

文:荒井啓仁
信州大学繊維学部は繊維・ファイバーを専門とする日本で唯一の学部として、1910年に設立。「繊維」は一般的...

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文:荒井啓仁

信州大学繊維学部は繊維・ファイバーを専門とする日本で唯一の学部として、1910年に設立。「繊維」は一般的な衣服だけでなく、材料、生物、建築、自動車、機械・ロボット、スポーツ、感性工学といったさまざまなカテゴリを横断する重要な研究分野だ。同学部におけるオープンイノベーション、産学官連携の拠点が「ファイバーイノベーション・インキュベーター(Fii:Fiber Innovation Incubator)」だ。 

Fiiは繊維に関する試作品製造から分析・機能評価まで行える最新の設備を備えており、産学官連携のノウハウを持つコーディネータが14名在籍。会員組織(AREC・Fiiプラザ)も作っており、賛助する法人の会員は300社以上にのぼる。繊維を「細くて長い形態を有するマテリアル」と定義し、衣服以外にも環境・エネルギーや医療、自動車、スポーツ、防護服,ロボット、感性設計など研究内容は多岐に渡る。

国際社会や環境の変化に対応できる国内×海外のネットワークづくり

Fiiでは、環境問題やエネルギー問題、食糧問題など繊維・ファイバー分野における国際的な課題の解決のために各国との連携を推進している。

1.  Green Machine
香港のHKRITAとスウェーデンのH&M Foundationとの連携ではコットンとポリエステルの混紡衣類の分離を行うプロジェクト「Green Machine」を開始。

2.Sustainable Smart Textiles
日本と同じ森林大国であるフィンランドとは、サーキュラーエコノミーに向けた繊維産業の変革を加速するため、サスティナブルな繊維材料の共同研究プロジェクト「Sustainable Smart Textiles」を始めた。

3.Upcycling
衣料以外にも工業分野では、日本とドイツの繊維系大学が中心となり両国のベンチャー企業や中小企業と連携。リサイクルの難しい飛行機や自動車の素材から、炭素繊維リサイクルに関する創造的再利用プロセスを共同開発した。これら以外にコットンやシルクなど天然繊維のトレーサビリティとサスティナビリティ技術の確立に向けた国内外との連携も進めている。

国際的に変化の激しいサスティナブル分野において、日本も対応を急ぐ必要があると繊維学部長でFii施設長の森川英明教授は言う。

「特にヨーロッパではサスティナブル関連の取り組みが着実に進められています。製造から廃棄まで長いサプライチェーンを持つ繊維産業に対しては,環境負荷を低減するためにヨーロッパ独自で規格の整備や法規制が急ピッチで進んでおり、またそれらに必要となる要素技術の研究開発も大学や研究機関,企業等の連携により推進されています。数多くの優れた技術を有する日本の繊維産業においても,デジタル製品パスポートなどの製品認証技術や制度導入などサスティナビリティへの対応が遅れれば,国際的なマーケットに参入できなくなる可能性があります。川上・川中・川下といった産業界全体と学・官での連携・協力が必要と思っています」(信州大学繊維学部・学部長/Fii施設長 森川教授)

技術を組み合わせたサスティナブルな産業のシステム

左から梶原莞爾氏、森川英明氏、村上泰氏

Fiiでの今後の展望を、先述の森川氏に加えて繊維学部の村上泰教授、梶原莞爾リサーチフェローに訊いた。

「Fiiを繊維分野における国際展開型のオープンイノベーションプラットフォームにできればと考えています。国内と海外を繋ぎ、多くの人々による発想と議論から,新たな「共創」の動きが生まれてくればと思っています。大学の産学官連携は新製品開発などを中心とした拠点が多いですが、Fiiではサスティナブル関連の諸課題を解決するためにどのような技術や枠組みが必要かといったソリューションベースのイノベーションを標榜しています。そのためには「志」を持った人たちに,Fiiをオープンの「場」として上手に使ってもらうことで、国内外の繊維産業や関連する諸産業との新しいネットワークが構築できればと思っています」(森川氏)

「Fiiで扱っているものは技術そのものの開発ではないので予算がつきにくい。海外との連携も、企業と横につなぐのも、繊維分野のために情報収集するためにはどうしても資金が必要になります。研究のためではなく、まずは仕組みを構築するための費用を集められればと思います」(村上氏)

「技術そのものよりも、技術を組み合わせてサスティナブルに発展させていくシステム作りを行いたいです。どこかの会社だけではなく、川上から川下まで、繊維のサプライチェーンを含めて改善する仕組みを作りたいですね。繊維業界の商伝統ではリスクを下げる方法が取られてきましたが、日本式かつ合理的にするのが急務です。協力して一緒にやろうという中小企業に集まってもらえればと思います」(梶原氏)


信州大学 繊維学部ファイバーイノベーション・インキュベーター(Fii)

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