FINDERS

「知事や市長を変えたけど何も改革できないね」問題を根本的に解決する学校を作ってみた
  • BUSINESS
  • 2022.11.16
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!

「知事や市長を変えたけど何も改革できないね」問題を根本的に解決する学校を作ってみた

Photo by Shutterstock

【連載】ウィズコロナの地方自治(6)

谷畑 英吾

前滋賀県湖南市長。前全国市長会相談役。京都大学大学院法学研究科修士課程修了、修士(法学)。滋賀県職員から36歳で旧甲西町長、38歳で合併後の初代湖南市長(4期)。湖南市の発達支援システムがそのまま発達障害者支援法に。多文化共生のまちづくりや地域自然エネルギーを地域固有の資源とする条例を制定。糸賀一雄の発達保障の思想を社会・経済・環境に実装する取組で令和2年度SDGs未来都市に選定。

自治体「経営」のノウハウを教えてもらえない若手首長たち

ウィズコロナの時代に突入してからも多くの首長交代があった。これは平成の大合併が行われてちょうど20年を経過したこともあり、第二次安倍政権下で比較的安定的に地方行政を進めてきた4期目、5期目の首長の相次ぐ引退や落選に伴うものもあろう。さらに現職首長がコロナ禍下の住民のストレスのはけ口になった事例も散見され、結果としていわゆる1年生首長が増えてきた。

こうした期数の若い首長たちは、当選後も時勢がコロナ禍の最中であるがために、簡単に他人と接触ができない時期が続いてきた。オンラインコミュニケーションはコロナ禍で急速に普及したものの、機微な情報はやはり対面でしか入手できない。その中には自治体経営のノウハウも含まれる。

「自治体経営?そんな言葉があるの?」そう驚かれる向きもあろうかと思うが、人口ボーナスで内需が拡大し、税収も増え続けた右肩上がりの時代であればいざ知らず。少子高齢化による人口減少と構造変化が同時進行し、ソフト・ハードを問わないインフラの老朽化や都市の低密度化・スポンジ化、さらには間断なく自然災害に襲われる時代である。

限られた手許のヒト、モノ、カネ、情報を効果的かつ効率的に運用して最大の果実を得られるように決断し続けなければならない組織体であるというのは自治体も企業と何ら変わらない。川島典子編著『人口減少社会における地域経営政策』から言葉を引くならば、「地域経営に不可欠かつ最大の経営主体」が自治体なのである、というわけだ。

その経営者である首長がノウハウを知らないということがあるのかと言えば、十分にある。初当選直後の首長たちは、大半の予想を裏切って丸腰で自治体経営の戦場に放り出されている。

首長選挙の立候補者に「あなたは自治体を経営できますか?」と問うて、できる確約を得てから投票する者がいるだろうか。有権者として自分だけでなく周りの者も含めて考えてみてほしい。訊いてもせいぜい「あなたの重視する政策は?」止まりではなかろうか。その政策を実現するためには、企画・実施する職員が必要であり、裏打ちする財源が必要であり、他の主体の協力を引き出す共感力が必要であり、最新の情報収集力が必要であり、何より臨機応変に課題を解決する力が必要なのである。

これらの能力がある首長をあなたは選んでいますかと問われて「はい」と即答できないのであれば、その地域は包装紙の彩りやホームページの華やかさだけで「かわいい❤」と商品を選び、開封して中身の小ささや粗雑さに毎回失望を繰り返すことになる。うまくいっているとしてもそれはたまたまであり、科学的根拠も再現可能性もない。

なぜなら、首長選挙に立候補するような物好きは必ず公約なるものを引っ提げて登場するからだ。公約は現状変更の目標である。むしろ改革を訴えないのであれば、何のために出てくるのかと言われかねない。しかも、そこには「どうやって改革するか」は書いていないし、そうした改革の実行部隊となり影響をモロに受けるのは自治体の職員組織なのである。

考えてみるがいい。役所という予定調和で整っている世界で、誰が好き好んで今までと違うことをわざわざやりたいだろうか。しかも、1年か2年我慢したら次々に代わる大臣を担ぐ国家公務員と違って、地方公務員は少なくとも4年間、地域の事情によっては20年ほど同じ首長をトップに仰がないといけないのである。

大抵は自分たちの頭の中から身のこなしまで現職首長に同期させようとすることだろう。だが、そうした目論見をご破算にして「改革します」と宣言して新人首長は役所に乗り込んで来るのだ。初登庁の玄関先でにこやかに拍手して迎えた職員たちは最初から面従腹背するに決まっているのである。

公務員には最高の武器がある。それはサボタージュだ。新しいことを命じられても、やれ規則にない、予算がない、職員が足りないなどとゴネていれば、相手は素人なので大抵の場合首長の方が根負けすると知っている。さらには、いつの間にか情報が議会サイドに渡っていて、当選直後の新人首長の人気を快く思わない議員からの攻撃の嵐に晒され、結果として首長が議会で立ち往生し、次の選挙に負けてしまえば、職員組織にとっては思い通りの平穏な世の中が戻ってくるのである。

そうした軋轢を乗り越える自治体経営ノウハウはほとんど言語化されていない。なぜなら先輩首長たちも誰にも教えられずに自然に体得してきたからだ。そして、引退とともに市井に消えていく。コロナ禍で対面の機微情報に接することのできない昨今の新人首長にとってはさらに縁遠いものとなっている。しかし、自治体経営は待ったなしであり、素人であろうと熟練者であろうと同じ首長として限られた時間内で成果が求められていくのである。

参加する若手首長たちの、切実な苦悩の数々

筆者が行った講義の模様

そこで、筆者はこれまで暗黙知であった自治体経営ノウハウを新人首長に口伝する「首長の学校」をつくってみた。題して「地方自治トップマネジメントカレッジ」。まあ、首長自治体経営学1本という単科なのでユニバーシティではなくカレッジだ。一般社団法人地方自治マネジメントプラットフォームが運営するこのカレッジの講師陣は歴戦の首長経験者たちであり、受講生は期数の若い現役首長である。

開学してみると、新人首長たちは様々な悩みを抱えていることがわかった。

・行政職員組織と住民の考え方に乖離があるのに職員の動かし方がわからない
・実現したい政策があるが、予算編成過程のどこで口を挟んでよいのか躊躇する
・人口が減り企業が撤退する一方、住民サービスは増える中で持続可能な財政運営をするにはどうすればよいのか
・コロナ禍で負荷のかかっている職員組織を楽にしてやれる方法はないか
・住民との接触の仕方や情報の伝え方にどんな工夫があるのか
・首長のスピード感と事務方のスピード感の違いに悩んでいる

など、事前のヒアリングからも不安な中で自治体経営に向き合っている姿が浮かび上がった。

そして、総論、組織・人事、財政運営、PR論、外交折衝、危機管理という講義が実際に始まると、閉じられた空間でしくじり先生となってもらった首長OB・OGの猛者たちが語る赤裸々な経営実務講義に対して、受講生となった新人首長たちは争うように口々に質問を重ねた。講義と質問の時間配分は1:2としているので、今まで誰にも相談できなかった疑問が堰を切ったかのようにぶつけられた。

こちらも例を挙げてみると

・職員が国の指示待ちで言うことを聞かない
・外部専門家の導入を反対されているがどうすればよいのか
・首長の参謀本部となる組織はどのようにデザインすればよいか
・職員をチームで仕事ができるようにするために必要なことは何か
・教育委員会との距離感をどう測ればよいのか
・自治体のキャッシュフローはどこに目をつければよいか
・経常収支比率などの数値指標を観察するポイントはどこか
・DXを進めるに際してのコスト比較はどの程度が適当なのか
・中央省庁との折衝力はどうすれば身に付くものなのか
・国事業の優先順位を早めるにはどうすればよいか
・大規模災害時に誰が最も頼りになるのか
・災害時にルールを破ってでも緊急対策に取り組もうとする職員をどう育てればよいか

など、質問は多岐にわたり微に入り細に入った。

カレッジの成果はすぐに表れた。第1期の開催時期は7月から8月にかけてであったので、9月からスタートする自治体のメインの予算編成にも間に合った。少なくとも2023年度の編成作業には首長として変化球も投げられるようになったはずだ。また、「大規模災害に直面した際の、災害対策本部長としての心構えをアドバイスしてもらえたので助かった」という感想も寄せられている。

さらに参加した受講生からは、「悩んでいるのは私だけかと思っていた」という声が聞こえていた。首長は誰にもその姿を見せることなく日々悩んでいるのである。まさにこうした暗黙知の共有には、ウィズコロナの時代ならではのニッチだが根強いニーズがあることを再認識させられた。

首長たちが頭を抱えるのは自治体経営に留まらない。この4カ月間、ニュースでその名を聞かない日はない旧統一教会問題もそのひとつだ。今やこの問題は戦後政治の総決算や戦後レジームからの脱却をわが国に強いているかのようにも見える。それは中曽根康弘にも安倍晋三にも治癒させることができなかったわが国の宿痾でもある。

統一原理を国教にすることを目的とする「国家復帰プロジェクト」を進めつつあった教団の戦略は、その活動を支持する国会議員を増やすことにあるとされていた。しかし、713人もいる国会議員の多数を得るにはかなり息の長い取り組みが必要である。それに対して、地方自治体の首長は地域にたった1人しかおらず、なおかつ個人情報や職務権限の塊である職員組織の長として住民福祉に関する全権限を有している。そう考えれば、首長もそのターゲットにされていたであろうことは容易に想像がつく。

そこで、各種報道を個人的にまとめてみたところ、唖然とした。北は旭川市長釧路市長から南は沖縄市長、石垣市長まで、具体的な「関係」の内容は選挙支援からイベントに電報を送っただけのものまで濃淡はあるものの、全国の多くの首長に統一教会とその関連団体は浸透していたのである。チューリップテレビが注目する富山県知事などはその最たるものだろう。

旧統一教会が目を付けるように地方において首長は影響力の大きな主体である。例えこうした取り組みの入力は小さかったとしても、住民生活に関わる出力は極めて大きいのである。

そして、実はさらに大切な暗黙知は、有権者の意識と知恵なのだ。首長を当選させただけでほったらかしにしておくことほど無駄なことはない。ウクライナに侵攻したロシア軍のように兵站が途絶えて丸腰のままの首長は、職員組織に対しても議会に対しても国に対しても、その力を発揮することなど皆目できないのである。

自分たちがしてほしいこと、いや、自分たちが実現したい地域社会は願っているだけではやってこない。当選した首長とともによりよい未来を創りたいという有権者の強い意思と行動力だけが、その地域を持続可能で住みやすく変えていく。そのモデルのひとつは残念ながら引退を表明した明石市長と明石市民の関係であろう。

そして、一般社団法人地方自治マネジメントプラットフォームは、戦後政治を抜け出し地方自治の深化の一助となるべく、「首長の学校」以外にも暗黙知を提供するためのプラットフォームを構築していく予定である。


過去の連載はこちら

  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!
  • FINDERS_twitter

SERIES

  • あたらしい意識高い系をはじめよう|倉本圭造|経営コンサルタント・経済思想家
  • 大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記
  • 阿曽山大噴火のクレージー裁判傍聴|阿曽山大噴火|芸人/裁判ウォッチャー
  • ゲームジャーナル・クロッシング|Jini|ゲームジャーナリスト
  • 高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」|高須正和|Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
  • JKA Social Action × FINDERS