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新聞ばかり盗む被告。「次やったら実刑」なのに1週間で再犯してしまう
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  • 2022.10.28
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新聞ばかり盗む被告。「次やったら実刑」なのに1週間で再犯してしまう

Photo by Shutterstock

阿曽山大噴火

芸人/裁判ウォッチャー

月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております

【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(42)

頭の中が『たまむすび』と郵便局でいっぱいいっぱいで…

長く裁判傍聴してたり、長く連載が続けばこんなこともあるよね、という話。

罪名 窃盗
F被告人 無職の男性(53)

起訴されたのは今年の5月24日12時46分に東京都内のコンビニで、F被告人が新聞1部(150円)を盗んだという内容。

この連載を毎月読んでいる読者ならピンとくるかもしれませんが。今年5月に取り上げた、コンビニで新聞を盗んだ男性なんです。しかもこの時の判決は5月17日だったので、判決から1週間後の再犯行になります。

前回の裁判の罪状認否では罪を認めていましたが、今回は

裁判官「検察官が読み上げた起訴状に事実と違うところはありますか?」
F被告人「新聞を持って店の外に出たのは認めます。ただ、盗もうと思って持ち出したのではないと主張します」
弁護人「被告人と同意見です。不法領得の意思もなく、故意を否認します」

と、無罪主張です。

検察官の冒頭陳述によると、F被告人は大学卒業後、新聞記者を経て、犯行時はニュースサイトで働き始めたばかりだったようです。

犯罪歴は前回の裁判が控訴中ということでカウントされず、前科3犯、前歴2件。

そして、犯行当日。F被告人は被害店に入るとすぐに毎日新聞1部を脇に挟んだままATMコーナーへ。お金を下ろすとそのまま店外に出たので店長がF被告人を呼び止めたというのが事件の流れです。

取り調べに対し店長は「防犯カメラを見ていると、以前万引きした人物と気づき注視していた。呼び止めて事務所に連れて行くとすみませんと謝っていた」と述べているそうです。

一方、F被告人は「考え事をしていたのでそのまま店の外に出てしまった。ATMでお金を下ろすことしか頭になかった」と供述しているとのこと。うっかりレジ通さずに外に出ちゃったという話なんでしょうか。とにかく否認事件ということで、7月25日に行われた初公判は20分程度で閉廷となりました。

次は9月6日に行われた第2回公判。この日は被告人質問が実施されました。

弁護人「警察での弁解録取書と見ると、“出費を減らすために新聞を盗った”って答えているようですが…」
F被告人「弁解録取の時の記憶はありません」
弁護人「その後の取り調べでは“考え事をしている間に意識が薄れた”と答えています。コンビニの事務所ではしっかり謝っていますよね。この時は意識あるんですか?」
F被告人「ひたすら、すみませんって。この場で何とかしてもらおうって思ってですね」
弁護人「新聞を脇に挟んだのを忘れてしまっただけなら、店長に言えばいいのでは?」
F被告人「これで刑務所行くのかと混乱してました」

お金を払い忘れてうっかり外に出てしまうことはあるかもしれないけど、テンパってそれを伝えることができなかったという言い分なのです。

弁護人「何故コンビニに入ったんですか?」
F被告人「新聞と食べ物を買おうかなと」
弁護人「新聞を手に取ってATMに向かったのは?」
F被告人「ゆうちょがあるからお金下ろそうと思って、新聞を脇に挟みました」
弁護人「その後は?」
F被告人「お金を下ろして店を出ました」
弁護人「脇に新聞挟んでますよね?」
F被告人「財布とかいろいろ持っていたので新聞に意識がなかったです」

盗むつもりはなく、うっかり出ちゃっただけというスタンスに変わりはありません。

弁護人「調書には“考え事をしていた”とありますが、何を考えたんですか?」
F被告人「趣味でいろんな郵便局に行っていたので、この後どこに行こうかなと。あと13時からのラジオをどこで聴こうかなと。地下鉄に乗るとradikoが聴けなくなるので」
弁護人「何のラジオですか?」
F被告人「TBSラジオの『たまむすび』です。毎日聴いてて」

頭の中が『たまむすび』と郵便局でいっぱいいっぱいで、脇の下の新聞のことはすっかり忘れてしまったようです。

なんで、こんなに新聞ばっかり盗むのか

続いて検察官からの質問。

検察官「5月17日に懲役1年執行猶予2年の判決。しかもコンビニで新聞の万引きですよ。支払い忘れたら大ごとになると思わなかったですか?」
F被告人「1週間前に次は執行猶予つけられないって裁判官に言われてたので気を付けてましたけど気が緩みました」
検察官「バックヤードに連れていかれて、店長から盗みは初めてじゃないって言われてますよね。以前に盗んだ?」
F被告人「盗んでません」
検察官「そこで否定しなかったのは何故ですか?」
F被告人「怒ってて、言ってもムダッぽいなと」
検察官「盗みをやってないことだけじゃなく、会計忘れただけなら尚更言うべきですよね」
F被告人「言ってもムダじゃないかなと。何回目の盗みだって言ってたので」

他の万引き犯と間違われ、さらに脇の下の新聞を忘れてお金払わなかったのなら店長に伝えそうなものですけどね。F被告人は「ムダ」と諦めたようです。

検察官「そして万引きを認めた記憶もないと」
F被告人「弁解録取書の調べ自体記憶がないんです。私のサインもありますけど…」
検察官「その後の検察庁での6月10日に行われた取り調べでは“4月に就職したばかりでまだ収入がなく、出費を少なくするために盗んだ”って答えてますよ」
F被告人「混乱している中で取り繕うために言いました」

事件発生から2週間経っても混乱していたようです。

検察官「前刑の裁判では新聞社の話をしました?」
F被告人「してません。さらにその前ならね」

これは傍聴席から異議ありって言いたくなりますよ。前刑の時に言ってたし、この連載でもちゃんと書いたし。

検察官「いや、記録見ると、“新聞を買いたくない気持ちもありました”って言ってますよ」
F被告人「出版物一般としてですね」
検察官「令和元年の前々刑、毎日新聞を盗んだ件の裁判ですけど、“不当解雇されたので新聞社に得させたくない”と」
F被告人「当時は。そういうニュアンスで言いました」

新聞とは切り離せない、傍らに新聞があった人生なんですね。

検察官「前刑の法廷では、再犯防止策としてニュースサイトの職場で新聞を読むか、定期購読をすると約束してましたよね」
F被告人「はい…」

その約束を守っていたかどうかを確認せずに質問終了。

最後は裁判官から。

裁判官「弁解録取書にサインと拇印ありますけど、これはあなたのですか?」
F被告人「間違いないです」
裁判官「証拠によると今年4月にニュースサイトとパズル誌の2つで働いていたと。そこはどうなりました?」
F被告人「1社の方は同僚が面会に来て、社長は復帰して欲しいと言ってると」

無罪ならばすぐに戻れますが、有罪なら何年後かになるわけで、それでも復帰の話が出てくるとは能力が認められてのことなんでしょうね。ただ、それはF被告人がこの場で言っているだけでその証拠は提出されてないのですが…。

続いて、10月4日に論告弁論が行われました。
検察官としては、F被告人が「考え事をしているうちに新聞を持っているのを忘れていたと言っているのに、その場で弁解していないのは不合理」などを理由に窃盗の意志はあったとして、懲役1年6月を求刑。

一方弁護人は「新聞を購入するつもりだったが、ATMを操作して忘れた」「13時に始まる『たまむすび』をどこで聴こうか考えて新聞のことは忘れた」ので故意ではないとして、無罪だと弁論していました。

そして、被告人の最終陳述。

F被告人「前刑の裁判では執行猶予がついてうかれて、真の反省をしてなかったと思います。だから新聞に対してその程度の認識だったんじゃないかと思っています」

と述べて、結審です。

判決は有罪で、懲役1年2月未決勾留日数70日算入。実質1年間刑務所に行けという判決で、前刑と合わせて約2年の服役になります。

判決文によると、F被告人が入店してから退店までが1分と短時間であること。防犯カメラ映像では退店時に新聞棚を見ていることから忘れていたということはないと認定。そして、うっかり店の外に出たというのであれば店員に説明するはずというのが有罪の理由になります。

なんで、こんなに新聞ばっかり盗むのか…。

「もう新聞なんか見たくもない」って方向に切り替われば再犯は起きなかったのに。


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