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現役教育大生が日本の教育改革に奔走!子どもの幸福度ランキング上位に隠された、オランダのコーチング型教育を日本へ
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  • 2018.08.14
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現役教育大生が日本の教育改革に奔走!子どもの幸福度ランキング上位に隠された、オランダのコーチング型教育を日本へ

今年3月に国連が発表した「世界幸福度ランキング」では、日本は154カ国中54位。これは、2017年の51位よりもさらに後退し、先進国の中では最低レベルに位置する。さらに、日本は若年層の自殺率の高さも世界トップクラスと言われている。

GDP世界ランキング3位である経済大国の日本。豊かなはずなのに、なぜ日本人の幸福度は依然として低いままなのだろうか?

文・構成:庄司真美

その答えをこれまでの教育のあり方に見出し、未来の教育にイノベーションを起こしたいと活動するのが、現役の大学生で、北海道教育大学 教育学部 芸術体育教育専攻4年生の長澤瑞木さんと越智達也さんだ。

左/長澤瑞木さん、右/越智達也さん

彼らがこれからの理想的な教育として着目したのは、オランダの学校教育。ちなみにオランダは、ユニセフが2013年に公表した「子どもの幸福度調査」で首位となり、注目を集めている。

今年5月、オランダのコーチング型教育を学び、21世紀に必要な教育を日本に広めるために「Readyfor」でクラウドファンディングを実施した。結果、目標額の倍以上を上回る、78万8,000円を獲得することに成功。その資金を利用して、彼らは実際にオランダの小学校、中高一貫校、大学の計4校を視察した。そしてこのほど、現地で目の当たりにした、オランダのコーチング型教育について発表するセミナーが東京・西新宿で開催された。

オランダのコーチング型教育を広める活動は、今後の日本の教育改革にどんな一石を投じるのだろうか。その優れた教育スタイルについて、セミナーから紹介したい。

「しあわせ」の正解モデルは多様化しているのに、教育だけが置き去り

現在の日本の教育を疑問視するようになった経緯について、越智さん、長澤さんは次のように語る。

「これまで僕たちはなぜ勉強するかという明確な目的を提示されないまま、教師や親からの『将来、役に立つはずだから』『大学には絶対行っておけ』などという言葉を信じて勉強してきました。ひたすら勉強して大学に入ると、いきなり就活時に『将来は何をやりたいの?』と問われますが、この流れだと、逆に見つけられる方がすごいかもしれません。現に、『勉強しろと言われたからやってきただけで、別にやりたいことなんて何もない』という現役の学生は僕の周りにものすごく多いのです。教師を目指す僕らは、将来、自分がやりたいことも見つけられないような教育では寂しすぎると思いました。これまでのティーチング型の教育だけでは、限界があると身をもって実感したわけです」(越智さん)

「これまでは、“しあわせ”の正解がありました。いい大学に入って、一部上場企業などのいい会社に入れば、生涯しあわせというひとつの成功モデルです。現在、“YouTuber”や“プロブロガー”、“プロゲーマー”といった、これまでにはなかった職業の人たちが増えています。こういう人たちは今後も増えるでしょう。子どもたちが生きる未来のしあわせの正解モデルは、もっと多様化していくのです。だからこそ、それにともなう教育のあり方を考えなければなりません」(長澤さん)

これからの日本に「コーチング」型教育が必要な3つの理由

会場には、全国から教育従事者をはじめ、さまざまなビジネスパーソンが集まった。オンラインでも動画を中継し、国内だけでなく海外からの閲覧もあった。

今、コーチング型教育が日本に必要な理由は「21世紀は“解”のない時代だから」と語る越智さん。教師が一方的に知識や技術、経験を子どもに教える「ティーチング型」教育に対し、「コーチング型教育」は、教師の問いに対して、考えや気づきをアウトプットする力を身につけるもの。日本にコーチング型教育が必要な背景については、2040年から今の日本を見たときに、3つの大変化が起こることがポイントになると説明する。

1.空前の人口減少

「日本の歴史史上初めてとなる人口減少が起こります。日本の人口はここ100年ほどで一気に増大し、ピークに達しましたが、100年タームで一気に減少していきます」(越智さん)

2.モチベーション格差

さらに、今後、AIの発展により、AIと共存する社会になった時に、人とAIの違いを明確に定義づけた上で、起こりうる現象について指摘します。

「オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、『AIの発展によって、今後10~20年程度で、日本の総雇用者の49%の仕事が自動化されるリスクが高い』と述べています。人とAIの決定的な違いや優位性は、モチベーションの有無。人には“やってみたい”“人の役に立ちたい”という根源的な欲求がありますが、AIにはそれがありません。すると、モチベーションが低い人の仕事はどんどんAIにとって代わられることになるのです」(越智さん)

3.学校が必要なくなる

教師を目指す越智さんや長澤さんがもっとも危惧しているのが、これからの学校のあり方。学校や教師の質が問われ、学校すらなくなる時代が来るかもしれないと指摘します。

「現在、インターネットであらゆる情報が手に入り、YouTubeでは、あらゆることを教える動画コンテンツが豊富に揃っています。定額で優秀な先生たちの神授業が見られる『スタディサプリ』というサービスも登場し、いずれ優秀でない教師は淘汰されるでしょう。それから、話題のミネルヴァ大学はオンライン大学で、校舎がありません。生徒は全寮制で世界中をめぐりながらオンラインで受講するスタイルです。そこには現在、世界中から優秀な人材が殺到し、近年、日本人初の入学者が出たことでも話題になりました。すでに学ぶための手段やツールは豊富にあって、これからも多様化していくはずです。そうなると、果たしてこれからの時代に、本当に学校は必要なのでしょうか。学校や教師の質はもちろん、存在意義が問われる時代がそこまできているのです」(越智さん)

「日本の教育は、全体主義で、『みんなで足を揃えて一緒に歩みましょう』が基本スタンス。授業では、ひとつの問いに対して基本的に答えはひとつしかないのが前提です。だから、それ以外の意見は受け入れない。自分の意見をはっきり言える機会が少なく、誰かと一緒の意見じゃないといけないというのが、日本の教育の特徴だと感じています。でも、これからますます多様化する時代に向かっているのに、これでいいのでしょうか?」(長澤さん)

オランダから持ち帰った2つの教育改革キーワード

そうした日本教育とはまったく違った、オランダ教育の特徴を長澤さんは次のように説明する。

「オランダの義務教育は、5〜18歳までで、入学試験はありません。さらに、テーマ重視の教育や芸術重視の教育、多重知性教育などスタイルは多種多様で、ほかにも、シュタイナー、イエナプラン、オランダで試験的に始まった、iPadを用いたスティーブ・ジョブス・スクール(SJS)モンテッソーリ教育ドルトン・プラン、キリスト、イスラム教系などたくさんの選択肢があります。オランダは、子どもたちを200人以上集めることができたら、自由に学校を設立できるシステムがあるのです」(長澤さん)

その中から、彼らがもっとも感銘を受けたオランダの教育プランが、異年齢集団で学ぶ「イエナプラン」。それから、人間には8つの知能が備わっているという考えをベースにした、「多重知性教育」だという。この「イエナプラン」と「多重知性教育」には、子ども自身に考えさせて、自己肯定感を与える「コーチング」が基盤にあると説明する長澤さん。

「コーチングによって、子どもたちの思考を引き出すことで、自己決定する場が必然的に増えます。それを繰り返すことで、子どもたちの自己肯定感を高めていきます。教師のあり方についても、オランダでは、“ティーチャー”だけでなく、“コーチ”の役割も重要である点が、日本とは異なります」(長澤さん)

日本で取り入れたいオランダの授業(1)個に合わせた教育

「オランダの小学校の教室に入ってまず目に止まったのが、授業中に後方のロフトにいる子どもたちでした。聞けば、この子たちは知能が高いから、自分たちでどんどん勉強を進めていくタイプとのこと。つまり、日本の学校のように、“みんな一緒に勉強しましょう”というスタンスではなく、できる子どもはどんどん学習を進めてOKなのです」(長澤さん)

みんながそれぞれのカリキュラムで自分に合ったスタイルで勉強を進めるのがオランダ流。

「日本のようにみんなが同じ黒板を見るわけではなく、パソコンに向かって背中を向けている子どももいるなど、学び方は自由。ある女の子は、アスペルガー症候群ではよくある聴覚過敏により、周りの音が気になってしまうので、授業中にヘッドフォンをしていました。このように、個々に合わせた配慮がしっかりされているのも特徴です。一番驚いたのは、日本のように国語の時間はみんなで国語の勉強をするわけではないということ。子どもそれぞれが、今日やるべきこと、学ぶことを自分で決めているので、国語をやっている子もいれば、算数をやっている子もいます。その横では、絵を描いている子もいました」(長澤さん)

最終的に1週間の勉強がうまく進んだかどうか、先生と相談する時間も設けられると、長澤さんは説明する。進まなかった場合、教師はそれを否定するのではなく、できなかった理由を子どもに考えさせる。その上で『来週はどうすればいいと思う?』というふうに、原因をしっかりと子どもに見つけさせて、次にどう改善すればいいかを促すのだという。

「ある学習障がいのある子どもは、いつも授業の始めに何をしたらいいかわからなくなり、時間をムダにしてしまうので、先生のコーチングによりその解決策を自分で考えさせて、対策チャートを作り、教室の壁に貼っていました。結果、その子どもは、毎回授業の始めにこれを見て準備をすることで、スムーズに勉強を始められるようになりました。こうした子どもの個性に合わせた教育が非常に印象的でした」(長澤さん)

日本の大学と同じような授業の取り方をするオランダの小学校の子どもたち。

日本で取り入れたいオランダの授業(2)解のない問いで考える力を引き出す

越智さん、長澤さんが視察した学校のひとつ、ユトレヒト州の中高一貫校「Gerriit Rietveld College」では、応用化学を利用した「テクナジウム」という新しい教育を取り入れた学校として知られている。ここでの授業の構成は大きく2つに分かれていて、午前は解のある教科指導、午後からは“解のない問い”の授業「コーチング」が実施されているという。

「コーチングの授業では、たとえば、『ユトレヒトとスキポール空港の間で列車が増え、騒音が問題となっている。解決策を考えよ』『一人暮らしをする人が増えている。よりエコな一人暮らしのマンションを考えよ』などの課題が一例としてありました。現実に起こっている社会課題や企業が取り上げるテーマを学生にも考えさせるのが特徴です。柔軟な発想力のある子どもたちにアイデアを出してもらうことで、社会や企業にとってもメリットがあると、現場の先生は話していました。一方で、小学校のコーチングの授業では、『人はなぜ旅をするのか?』という深い洞察力が必要な問いが出されていました」(長澤さん)

“解のない問い”の授業は、考えるだけでは終わらず、自分の考えをみんなの前でプレゼンし、解決策を見出すという。また、優秀な解を発表できたチームは学校で表彰され、それを企業にフィードバックしているとのこと。

「たとえば、列車の騒音問題の解決策を考えた時に、子どもたちの間で『線路にゴムを貼ろう』というアイデアが出ました。学校には3Dプリンタが設置されているので、それで実際にゴムテープを作ってみて、耐久性があるかどうかなどをチェックします。考えて終わりなのではなく、目で見てふれて感じられるような実証的な授業も取り入れられていました」(長澤さん)

学校のあちこちには、たくさん3Dプリタンタが設置されている。

未来の教師の役割は、子どもに「やってみよう!」という気にさせること

現在、凄まじいスピードで社会が変化している中で、教師のあり方が問われる時代に移行しているからこそ、その存在意義として、コーチングが重要だと語る長澤さん。

「これまで工業社会だった日本では、ティーチング型の教育がベストだったのかもしれません。でも、これからの教師の役割として重要なのは、コーチングを通じて、いかに子どもにインスパイアを与え、子どものやる気や思考を引き出せるかということだと思います。そうした気づきをオランダの学校は与えてくれました」

日本で取り入れたいコーチングの授業

オランダの教育の視察を通じ、日本で取り入れたい「個人に合わせた教育」と「コーチング」について、長澤さんは次のように語る。

「教科ごとにレベル別のプリントを作成すれば、個に合わせた授業ができるのではないかと思います。具体的には、『自分は今どのレベルにいるか』ということを子どもに考えさせて、それぞれに合った目標設定をします。子どもによっては、塾で勉強は進んでいるから、もっと高度なレベルから取り組むといったことが可能になります」

また、コーチングの授業として、具体的に下記のような解のない問いが日本の授業には必要だと提案する長澤さん。

<社会>

応仁の乱で京都は焼け野原となりました。この戦いを起こさないためには何が必要だったと思いますか?

「山名氏と細川氏がどんな戦略を持って戦ったのか?という部分の理解や洞察力が求められる問いですが、答えはひとつではありません。この問いのいいところは、いつどんな時代に起きたか?という歴史上の背景や人物についても考慮に入れなければ答えられない点。歴史から学ぶことはたくさんあります。ただ単に試験対策で年号を覚えるのではなく、なんのために覚えるのか、目的意識をはっきりすれば、子どもたちも覚えやすくなるはずです」

<国語>

安楽死は認められるべきかどうか?

「国によっても認識はさまざまで、どっちが正しい、悪いという問いではありません。自分の意見をどう伝えれば相手に伝わるのか?ということが重要になってきます。逆に相手の意見を聞くことで、視野を広げることにもつながる問いです」

<総合学習>

自分たちの街をGoogleマップで見て、どこにスーパーがあれば便利か?

「“駅に近い”、“住宅地に近い”など、さまざまな意見が挙がる問いです。こうした学科を超えた総合学習の問いをコーチングタイムとして、実際に教育実習の時などに、朝や帰りの学活に設けるところからスタートし、教育をアップデートできないかなと思っています」

ほかにも、長澤さん、越智さんは、現在の教育現場に、子ども同士で勉強をより深める“ピアサポート”を取り入れることを提案している。

「勉強ができない子に勉強ができる友だちや仲間がサポートし、知識の定着を強化するのが、ピアサポートです。子ども同士をペアにして、できる子どもは教師の役割をするものです。教える子どもにとっても、自分で問題が解けても、それをアウトプットするのは難しいものです。どのように説明すれば相手にわかりやすく伝わるかということを考えるので、学びが深まります」(長澤さん)

日本の学校のように、具体的な目標意識もなく、なんとなく日々の学校生活を送るのではなく、オランダのようにコーチングを取り入れて、考えさせる機会を増やすべきだと、長澤さんは強調する。

「はじめはその日に算数のテストで80点以上目指すという些細なことでもいいと思うんです。子どものうちから具体的な目標を自ら考えさせて、思考することを習慣化させることに意義があります。きっとその延長線上に、将来やりたいことが見えてくるはずです。あらためて今後、オランダでの学びを参考に、日本にコーチング型教育を広める活動を通じて、子どもたちがしあわせを感じる社会を築いていけたらと考えています」(長澤さん)


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