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日本に大麻農家は増えるのか?大麻取締法「運用」のナゾを弁護士の亀石倫子さんに聞く【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(3)
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  • 2022.06.20
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日本に大麻農家は増えるのか?大麻取締法「運用」のナゾを弁護士の亀石倫子さんに聞く【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(3)

大麻博物館

日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

遂に政府の「骨太の方針」にも大麻の規制緩和を明記

2010年ごろ、栃木の大麻畑の風景

連載第3回です。「栃木を大麻で盛り上げたい」と言うと、まだまだ驚かれることの方が多い現在ですが、「グリーンラッシュ」に湧く海外だけでなく、ここ日本でもさまざまな動きが出てきています。

大麻取締法の改正に向け、昨年8回に渡って「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が開催され、4月27日には安倍前首相が「産業や伝統文化等への麻の活用に関する勉強会」に参加し、「大麻というだけで相当偏見を持たれている。農業、産業振興の観点からもしっかり考えていく必要がある」と発言したという報道がありました。

また5月25日からは「大麻規制検討小委員会」がスタートし、「医療ニーズへの対応」「薬物乱用への対応」「大麻の適切な利用の推進」「適切な栽培及び管理の徹底」といった論点について議論が行われています。

さらに6月7日には、政権の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す方針、いわゆる骨太の方針が閣議決定され、「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を進める」という一文が明記されました。非常に大きな動きです。強調したいのは、日本の行政や政治の場において、規制緩和に向けた議論がすでに始まっているということです。

法改正は国会での審議などを経て、2023年に行われる見通しです。さまざまな形で変化があるでしょうが、私たちが今後の動きとして最も注目しているのは「日本で法律を遵守しながら大麻を栽培する農家が増えていくのか」という点です。

今回の記事では、我々が実際に栃木県で行おうとしている大麻取扱者免許の取得において、具体的にどんなハードルがあるのか、そして大麻取締法に記されていない「運用」の部分に関して、弁護士の亀石倫子さんのインタビューを交えてお届けします。

「地元の麻の実」すら食品に使えない?新規就農をめぐるハードルの数々

こちらも2010年ごろ、栃木の大麻畑の風景

ご存知ない方も多いのですが、栃木県などでは現在も主にご神事に用いられる大麻の栽培を続けています。栽培を行うためには大麻取扱者免許が必要であり、その発行は各都道府県知事が行うため、認可される条件は地域によって異なリます。1954年時点で日本に約3万7000人いた大麻農家が、その1000分の1以下の30数人となっている現在、何とかしたいと考える方が多いのか、私たちの元にも各地から大麻農家を始めたいという多くの声が届いていますが、はたして本当に日本の大麻農家はこの先も生き残っていけるのか。

私たちも、栃木県で大麻栽培を始めようと各所への相談を行っています。しかし正直言って、新規就農のハードルはなかなか高いのが現状です。農地の確保一つをとっても、例えば住居が近くにある必要があったり、主要道路から離れていたりする必要があったりします。

それらをクリアし、残すは契約するだけという段階まできて、「やはり大麻だと近隣の目が気になる」という理由で、私たちも何度か頓挫しています。農地を確保でき、農業従事者として自治体に登録できたとしても、免許を取得する上ではさまざまなハードルがあります。カギとなるのは法律の「運用」いう側面です。

仮に大麻取扱者免許を取得できたとしても、当然ですが経済的に成り立つ必要があります。栃木県でいえば、現在は伝統的な繊維の利用のみが許可されている農家がほとんどです。大麻取締法では「成熟した種と茎」の利用は禁じられていませんが、栃木県の大麻取締法の運用方針として、種の売買などは認められていません。

大麻の種というと驚かれる方も多いのですが、これは別名「麻の実」です。七味唐辛子に入っていたり、各地の郷土料理に用いられているほか、近年ではその栄養価の高さから「スーパーフード」として注目を集めています。この春、私たち大麻博物館のある那須で、四半世紀以上に渡って食品を加工・販売を続けているダルマフーズさんと共同で「麻の実ラー油」「麻の実味噌ディップ」という商品を開発しました。

ダルマフーズの工場

他の食材と同様に地元の麻の実を用いたかったのですが、残念ながら今回は海外から輸入した麻の実を用いました。なぜ栃木で生産したものを使えないのでしょうか?合理的な理由は見つかりません。

弁護士の亀石倫子さんに聞く、法律の「運用」と大麻取締法

弁護士の亀石倫子さん

法律における「運用」はどのようなものであるのか、それが大麻取締法とどう関係しているのか。これまでダンスクラブの摘発事件やタトゥー彫り師医師法違反事件などで被告側弁護士として担当し、大麻取締法改正についても大きな関心を寄せている、弁護士の亀石倫子さんに話をうかがいました。

ーー 弁護士の方から見て、大麻取締法には他の法律と比べた際の特徴はあるのでしょうか?

亀石:一般論として、条文がわずか30条に過ぎないというのは非常に少ないですね。法律よりも下位の省令や都道府県知事の判断に委ねている部分がものすごく多いということです。具体的には「大麻にあたるものは何か」という解釈や、細かい決まりごとがほとんど厚労省令や自治体知事判断に委ねられています。

つまり、法律できちんと定められておらず、行政のそのときどきの判断になるので、運用次第ではデメリットを大きく受けてしまうことになります。もしどこかの自治体の運用がおかしいと思って訴訟を起こしても、それが明らかに裁量を逸脱して違法だと言えない限り、なかなか主張は通りにくいのが実情です。

ーー なるほど。

亀石:例えば私が関わった裁判ですと、2012年に風営法違反の罪に問われた大阪の老舗ダンスクラブ「NOON」の例があります(2016年に無罪が確定)。本件では突然風営法に基づく摘発があったのですが、法律に定められている「文言」の解釈が争点となったため、争いようがあったわけです。世論の後押しも非常に大きかったですし、訴訟が始まると、警察がクラブを摘発する動きも一旦ストップして様子見になります。同時に政治家が動いてくれることも非常に重要で、結果的に2016年の風営法改正にもつながりました。

このケースは、クラブ経営者の方が起訴されて裁判をせざるを得なくなったわけですが、自ら国や自治体を相手に行政訴訟を提起するとなると、交渉しながら進めるのとは違って、相手(国や自治体)と決定的に決裂することにはなってしまいますね。

ーー 大麻取締法は当初、GHQの「絶滅せよ」という命令から、当時日本に多くいた大麻農家を守るための法律だったにも関わらず、今はそれが裏目に出ているのかなと感じることがあります。

亀石:法律でガチガチに縛ってしまうと柔軟な対応ができなくなってしまうという面もありますが、今は、運用に任されていることが裏目に出てしまっていますね。

今回の大麻取締法改正の方向性は、医薬品として使えるようにする、産業用大麻への過剰な規制を見直すという面ではポジティブと言えるでしょうが、同時に使用罪を創設し厳罰化に向かうベクトルもありますよね。嗜好用大麻のイメージの悪さがこれまで産業用大麻の足を引っ張ってきたとしたら、厳罰化でさらにイメージを悪化させてしまうことをどう捉えればいいのだろうと感じることがあります。

使用罪の創設に関してもメディアは厚労省の言いなりで、検討会では賛否さまざまな意見が出されていたにもかかわらず、「使用罪創設へ」とあたかも既定路線のように書きますし、反対署名を集めて提出したとしても大抵暖簾に腕押しです。

ーー 個人的に、使用罪創設とそれ以外の規制緩和は完全にトレードオフだと思っています。これまでは「ダメ、ゼッタイ。」一辺倒でやってきたわけで、それからすればとてつもなく大きな変化なのではないでしょうか。忌避感がある中で一歩ずつ変わっていくことしかないのかなと思っています。

亀石:そんなに急には変わらないと。なるほど。「大麻」という言葉のイメージは日本においてそう簡単に変えられない気もしますし、別の言い方も必要なのではないでしょうか?

ーー 我々としては「大麻」という言葉にこだわりたいと思っています。そうした意味でも、亀石さんにもおっしゃっていただいたような新しい、ポジティブなイメージ転換を図っていきたいと思っているんです。

亀石:そうですね。大麻という素材のサステナビリティ、医薬品としての効果、そして大麻博物館さんがトライされているような町おこしといったポジティブなイメージを形作っていくことは、すごく大事だと思います。

* * *

私たちは大麻とは「古くて新しい農作物」であると考えています。種子の利用以外にも、例えば環境意識の高い、リーバイスやパタゴニア、ボディショップといった企業は産業用大麻(ヘンプ)の製品開発にも積極的に取り組んでおり、ヘンプを使った商品ももちろん流通しています。近年、さまざまな媒体でも取り上げられるCBD(※)についても同様ですが、もちろんこれらは日本で生産した大麻を用いていません。大麻取締法が変わり、その「運用」が改善され、こういった「新しい」利用が可能となれば、ここ日本でも大麻農家という職業は大きな可能性を持つ選択肢となりえます。

※CBD:カンナビノイドの一種、カンナビジオール。精神作用をもたらさず、日本でも流通しており、近年では100社以上が参入するほど人気となっている

日本で大麻農家が増えるか否か、そして新しい産業が誕生するか否かは、亀石さんもおっしゃっていた通り、やはり世論の動向に大きく左右されるということです。ルールが明確になり、その運用が改善されれば、海外の動きを横目で見続けていた大手企業の参入も期待されます。行政や政治の場において議論が進んでいる現在、オープンな場での議論が盛り上がることを願います。


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