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サラ・ジェシカ・パーカーなど、出版業界に手を広げはじめたアメリカの女優たち【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(5)
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  • 2018.08.24
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サラ・ジェシカ・パーカーなど、出版業界に手を広げはじめたアメリカの女優たち【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(5)

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渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者

兵庫県生まれ。多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)。ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。
連載:Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク日本版
洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者。

本業以外の場所で影響力を拡大している女優

良くも悪くも、俳優には演じたキャラクターのイメージがつきまとう。まるでダニエル・ラドクリフが現実でもハリー・ポッターのような言動を取るような錯覚を抱いているファンはいる。そうでなくても、ファッションや恋愛にしか興味がないような軽い女性を演じている女優は、現実でもそうではないかと思われがちだ。

90年代後半から2000年代前半に大ヒットしたTVドラマの『Sex And The City(セックス・アンド・ザ・シティ)』で主人公ケリーを演じた女優のサラ・ジェシカ・パーカー、2001年に全世界的にヒットしたコメディ映画『キューティ・ブロンド(Legally Blonde)』の主役エルを演じたリース・ウィザースプーンも、何も知らない人にとっては頭がからっぽのブロンド美人のイメージのままだろう。

だが、パーカーとウィザースプーンは、女優業の傍らで、それぞれ「プリティ・マッチズ(Pretty Matches)」、「タイプAフィルムズ(Type A Films)」という映像プロダクション会社を自ら設立し、運営しているのである。

女優の2人が、馴染みある業界の映像プロダクションを手がけるのは不思議なことではないが、2人はそこでとどまらずに、出版業界にも手を広げているのだ。

まずサラ・ジェシカ・パーカーの方だが、ペンギン・ランダムハウスの傘下にあるCrown and Hogarth出版グループが、彼女の名前のイニシャルSJPを使った「SJP for Hogarth」という出版インプリント(ブランド)を作ったのである。読書家で知られるパーカーが自分のテイストで未刊の本を探し、キュレーションするというものだ。

パーカーが最初に選び、SJP For Hogarthから初めて刊行されたのが、『A Place For Us(私たちを受け入れてくれる場所)』という小説だ。作者のファティマ・ファルヒーン・ミルザ(Fatima Farheen Mirza)は、カリフォルニア生まれの27歳のインド系アメリカ人女性だ。この作品は、作者のミルザだけでなく、キュレーターとしてのパーカーにとってもデビュー作ということになる。

アメリカでベストセラーになったイスラム教のインド系移民の物語

『A Place For Us』は、インドからアメリカに渡ったイスラム教徒の家族の2代にわたる物語である。その内容は次のようなものだ。

インドに住んでいた若い女性レイラは、親が相手を決める伝統的な方法で、アメリカに住んでいるインド人男性のラフィクと見合い結婚し、それまで訪問したこともなかった国に移住した。インド出身のイスラム教の同じ宗派の人々で構成されたコミュニティに属したものの、留守が多い夫の手を借りずに慣れない場所で3児の母になるのは、若いレイラにとって簡単なことではなかった。しかし、レイラは夫の留守に寂しさを覚えながらも、「良き母」であり「良き隣人」として期待に応える努力をしてきた。

だが、モスクでの宗教教育や両親の厳しい躾にもかかわらず、3人の子供たちはアメリカ生まれのアメリカ人として両親の価値観を揺るがすようになっていった。

長女のハディアは幼い頃から利発で、父の自慢の子供だった。だが、独立心が旺盛すぎて、伝統を裏切って親が紹介する見合い結婚はせず、医師になった。

次女のフーダも見合い結婚には興味を示さず、いつまでも独身でいるのだが、上の2人の娘よりも問題なのが、末っ子の息子アマールだった。

子供の頃から学校で問題を起こしていたアマールは、父とも衝突が多く、ある出来事をきっかけに何年も音信不通になっていた。

ハディアが自分で選んだ相手と結婚することになり、家族の中で最もアマールと仲が良かったハディアは弟を結婚式に招待した。

インドの伝統的な結婚式が行われている最中に、家族のメンバーはそれぞれに過去に思いを馳せ、自分がおかした過ちを悔いる……。

パーカーは、トライベッカ映画祭でのイベントで「語られるべきなのに、これまで無視され、見過ごされ、語られてこなかったストーリーを探す努力をしている」と答えたようだが、『A Place For Us』には、これまでのインド系作家の作品にはなかったイスラム教徒のインド系アメリカ人の家族が描かれている。しかも、ふだん虐げられているイメージが強いインド系イスラム教徒の女性の芯の強さが描かれているのがユニークだ。だが、この小説で描かれている姉弟間のライバル意識や、親子関係の歪などは、全世界共通のものだ。それが読者の共感を呼ぶのだろう。読者からの評判は非常に良く、アマゾンのベストセラーリストにも入っている。

女優がオンライン読書会を始めた本当の理由とは?

リース・ウィザースプーンは、「Hello Sunshine」というメディア会社との提携で、ネットでのブッククラブ(Book Club、読書会)を始めた。ウィザースプーンが毎月1冊の推薦本を選び、それをソーシャルメディアでPRし、Amazon、Audibleといったネット書店だけでなく、IndieBoundを通じて、ローカルなインディ書店での販売も応援するという活動だ。

インスタグラムで多くのフォロワーを持つウィザースプーンが選んだ本は、すべてベストセラーになっている。たとえば、『Erotic Stories For Punjabi Widows(パンジャブ未亡人たちのためのエロチックな物語)』というタイトルの小説だ。場所はイギリスで、宗教も異なるが、部外者が知らないインド系移民の女性の内面の葛藤を描いている点で、パーカーが選んだ『A Place For Us』に似ている。

インド系移民の女性が主人公の本が、アメリカの中流階級の白人女性の間で大流行している陰には、ブロンドの白人女性であるパーカーやウィザースプーンの影響力がある。

しかし、他人の本を推薦するブッククラブは、ビジネスではなく、ただの趣味に見える。

実は、そこが重要な点なのだ。

ウィザースプーンのブッククラブは趣味のように見えるからファンの共感を得やすい。けれども、これは彼女のビジネスの一貫なのだ。

知らない人が多いが、ウィザースプーンは、これまでも映画『ゴーン・ガール』のように、自分で探した本をプロデュースしてヒットさせてきた。また、無名の女性が書いた回想録『わたしに会うまでの1600キロ(Wild)』は、ウィザースプーンが主人公を演じたことだけが良く知られているが、原書を見出したのは彼女自身なのだ。そして、彼女が映画化したからこそこの原作は大ベストセラーになったのだ。

映画『わたしに会うまでの1600キロ』

ウィザースプーンのブッククラブは、その現象を先取りするものである。彼女が映画化したい作品をまずブッククラブで流行させ、土壌ができたところで映画やテレビドラマにするという方法だ。

実は、ブッククラブと提携しているメディア会社「Hello Sunshine」は、映画化のプロダクション会社の「Type A Films」と同様に、ウィザースプーンが共同創始者なのだ。

サラ・ジェシカ・パーカーやリース・ウィザースプーンは、ただの女優でもなく、ただのビジネスウーマンでもなく、出版業界に新しいアイディアを提供するビジネス・リーダーでもあるのだ。


Hello Sunshine

次回は9月25日頃、公開の予定です。

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