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「30歳まで選挙権がなかった」俳優・伊原剛志が政治的発言を続けるワケ
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  • 2021.10.30
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「30歳まで選挙権がなかった」俳優・伊原剛志が政治的発言を続けるワケ

聞き手・文・構成:神保勇揮

1980年代から活躍を続け、近年も『花子とアン』『硫黄島からの手紙』『劇場版シグナル』『全裸監督2』などテレビドラマや映画に多数出演する俳優・伊原剛志氏は、YouTubeやTwitterを通じて政治的意見を積極的に発信している。衆議院選挙を一週間前に控えた10月25日には、YouTubeで「伊原剛志 選挙について物申す!」という直球の動画も投稿した。

先日、菅田将暉や橋本環奈など有名芸能人が多数参加した、投票率上昇を目指すプロジェクト「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」の動画も話題を呼んだが、まだまだ「芸能人が当たり前のように政治的意見を語る」という状況には程遠い。

時にバッシングを浴びながらも、なぜ政治的意見を公表し、「選挙に行こう」と訴えるのか。伊原氏に話をうかがった。

伊原剛志(Tsuyoshi Ihara)

1963年11月6日生まれ。福岡県北九州市に生まれる。
1982、ジャパンアクションクラブに入団。
1983年、舞台『真夜中のパーティ』で俳優デビュー。
2021年、Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督 シーズン2』に出演。

「体育教師になりたかった夢」の挫折、第一子誕生を機に日本国籍を取得

―― 広義の「芸能人」の方が個人の立場で政治的意見を表明することは、日本ではまだ珍しいと思うのですが、今回の動画を作成するに至ったきっかけを教えてください。

伊原:僕は在日韓国人3世なのですが、両親含め日本で生まれ日本の教育を受けて育ってきたものの、国籍は韓国籍でした。高校も日本の進学校に通っていて、将来は体育教師になりたかったのですが、当時は国籍条項があって教員免許は取れても日本国籍がなければ採用されることはありませんでした(※)。

※編集註:旧文部省の通知により、日本国籍を持たない人が教員になれるようになったのは1991年から。だがその多くは「教諭」ではなく「期限のない常勤講師」としての採用であり、校長・教頭のみならず主任にすらなれないのが実態であることを問題視する声も少なくない。

それから自身のアイデンティティを真剣に考え始めて、「日本国籍を持たないことで不自由を味わった自分でも、役者なら多様な役を演じることでより自由になれるのでは」と思い俳優になり、成功を収めることもできました。日本人女性と結婚し、初めての子どもが生まれたのは30歳の時だったのですが、既に俳優として食えていましたし、平均的な会社員よりも多くの税金を収めている自負もありました。

日本で生まれ、日本の教育も受けた自分がなぜ選挙権を持てないのか。そして僕の子どもに体育教師の夢を諦めさせてしまうような挫折を味わってほしくないと思い、子どもを妻の戸籍に入れ、そして僕自身も帰化しました。

自分にとって身近な争点「だけ」を見て投票したっていい

―― 選挙に行かない理由として「面倒くさい」「興味がない」もさることながら、最近では「政治家に不満はあるけれど知識も意見もない。だから票を入れた候補者・政党が間違った行動をした際の責任も持てないし、投票すること自体、自分も『日本のひどい政治』に加担しているような気持ちになってしまうのが後ろめたい」という意見もしばしば見られます。

伊原:僕は選挙権を「自分で勝ち取った権利」だと思っているけれど、日本で日本人として生まれた人にとってピンとこないという気持ちもわかります。もちろん選挙には行くべきだと思いますが、政治に関する報道はネガティブなものがほとんどで良いことはあまり伝わらない。どうしてもそうなってしまいますよね。

そして、よく「政治家は安全保障や経済政策について語らなきゃダメだ」という意見がありますしそれらも重要課題ですが、ゼロから勉強するのは大変です。

―― 重要政策について学んでみようと思っても「政策Aを実行すれば日本は再生する!」という意見の真横で「政策Aなんか実行したら日本は滅びる!」と大声で叫ばれていることも珍しくありません。大抵はどちらも一長一短で、100%正しい、間違っている意見なんて少ないのですが、自分の意見を持つ前にそうした舌戦を目の当たりにすると気持ちが萎えてしまいますよね。

伊原:本当にそうですよね。どんな社会課題を重要視するかは人それぞれですし、本来政治とは自分の生活がどうなるかに直結しているもの。だから自分にとって身近な争点「だけ」を見て投票したって全然良いんですよ。

「選択的夫婦別姓に賛成か反対か」で判断するのも良いでしょうし、「コロナ禍で生活が苦しい」と感じている人は個人給付や消費税減税を訴える党・候補者に入れたっていい。現状に特に不満を感じていない人は自民党に入れればいい。自民党にも良い議員がいると思っていますし、会って話したこともあります。ただ意見を通すことは非常に難しいし、実際に「意見が通らないなら辞めて移籍すればいいんじゃないですか?」と伝えたこともありますが、その方は「内部から変えたいんです」とおっしゃっていました。

ここ数回の衆院選の投票率は50%台を推移していますが、その50%が全員与党を支持しているわけでは全くない。そうなると一体何%の意見だけで政治が決まってしまっているんだ、と思いませんか? そして不満を持っていても投票をしなければ文句の意思表示すらできません。

―― 投票に行きたくない理由として「どうせ自分の1票だけじゃ何も変わらない」という意見も根強いですが、コロナ禍が起こってからの政権与党は給付金ひとつとっても明らかに世論の反発や支持率下落に怯えていました。結果、当初案の「困窮者のみに給付」が「全国民に給付」と給付対象も拡大されました。

伊原:そうですね。自民党は「菅総理じゃ選挙を戦えない」とわかれば「菅おろし」が始まりますし、実際に菅さんは総裁選の立候補を取りやめました。自民党は政権を維持するために選挙に勝ち続けたいわけですから、選挙に勝った後も民意をものすごく気にしています。

自分自身で考えて欲しいからこそ「この党に入れろ」とは絶対に言わない

―― 伊原さんはTwitterやYouTubeでもご自身の意見をはっきりとおっしゃっていますが、まだまだ「芸能人が政治に意見するのか」という偏見も残っていますし、意見に反対する勢力からは少なからずバッシングもされています。

伊原:最近だと「投票に行こう」と呼びかけている人が増えてきましたよね。良いことだと思っています。そして僕自身、明確に意識しているのは「どの党・候補者に入れろと具体的に言わないようにしている」ということです。

僕は日本のGDPや所得が長年上がっておらず社会の貧困化が進んでいることを問題視しているので、積極財政を訴える政党・候補者を応援したいと思っています。そうした政策を推進するならば当然自民党への投票も考えます。でも、自分の意見は自分で考えて決めなければいけませんから、「この党を応援してくれ」とは言わないようにしているんです。

―― 伊原さんは政党・政策の良し悪しを判断するために、日頃からどんな風に情報収集を行っていますか?

伊原:SNSの意見も含めて日頃から幅広く情報収集するようにしています。そうしているとだんだん自分の意見も形成されていき、「この人の言っていることは信頼できるな」ということもわかるようになってきます。Twitterで自分の意見を発信していると「韓国へ帰れ」といった誹謗中傷もよく言われますが、それはブロックしています(笑)。

あと俳優の仕事をしていることもあって、国会や街頭演説で「自分の言葉で話している人か」ということは重視していますね。カンペ云々もそうですが、他人の言葉を読まされているかどうか、すぐにわかってしまうので。

―― 最後に改めて「投票に行こうよ」というメッセージをいただきたいと思います。

伊原:今の時点で「投票に行きたくない」と思っている人に意見を変えてもらうのも難しいですよね(苦笑)。

それでも先進国においてここまで投票率が低いことは恥ずかしいと思っていますし、今後も強く訴えていきたいと思っています。コロナ禍を経て「今の政治は本当に大丈夫なのか」と強く感じた人も多いはずです。

―― 端的に「投票に行って良かった、得をした」ということを感じますか?

伊原:さすがにいきなり社会がドラスティックに変わることはないですが、やはり自分が投票した候補者・党が当選したら嬉しいですよね。政党に所属する国会議員の数で国会での質問時間も増えますし、確かな力になります。たとえ当選しなかったとしても、接戦での負けであれば「次は勝てるかもしれない」と思ってくれるかもしれません。

あるいは逆転の発想で「とりあえず投票してみることで、時間が経った後にちゃんと仕事をしているのかチェックする」、つまり投票した後も政治に関心を持ち続けるためのきっかけとして考えてみるのも良いのかもしれません。

冒頭で「票を入れた候補者・政党が間違った行動をした際の責任を持てない」と感じている人もいる、という意見もありましたが、自分の投票行動が間違っていたと感じるならば次の選挙で投票先を変えればいい。政治も改善の積み重ねなんですから、有権者もいきなり完璧を求めるのではなく、少しずつ進歩していければいいと思うんです。


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