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人手不足のはずの農業や旅館のお手伝いに応募が殺到。マッチングサービス「おてつたび」が掘り当てた人々と地方産業の未来
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  • 2021.10.26
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人手不足のはずの農業や旅館のお手伝いに応募が殺到。マッチングサービス「おてつたび」が掘り当てた人々と地方産業の未来

文:赤井大祐(FINDERS編集部)

毎週1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していくシリーズ「スタートアップ・ディグ」。第5回は、困っている地域の方と、その現場に手伝いに行きたい人とのマッチングプラットフォーム『おてつたび』

今年6月にはテレビ東京などが主催する、「次世代を切り開くスタートアップ企業」を表彰する『Great Entreprenuer Award』を受賞するなど、今大きな注目を集めている。

「日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る」というビジョンを掲げ、2018年に創業。代表の永岡里菜氏の話を交えながら紹介していきたい。

レコード整理やプラスチック製品作りまで

『おてつたび』は、農繁期、繁忙期に一時的に人手が足りず困っている日本各地の仕事の現場と、そこで働きたい(お手伝いしたい)人とのマッチングプラットフォームだ。

主な「おてつたび先」は農家や漁業などの一次産業と、旅館、ホテル、キャンプ場などの観光業。また、おてつたび上の募集はおおよそ1〜2週間程度の泊まり込みのものが多い。寝泊まりの場所は原則おてつたび先が用意することとなっている。

お手伝いの内容もおてつたび先ごとにさまざま。例えば農家であれば小松菜やブロッコリーの収穫の手伝いに、いちごの苗付けなど地域によって扱うものも変わってくるのが面白い。旅館やキャンプ場では、受付や清掃といった内容の手伝いが多く見られるが、空いた時間には「天然温泉入り放題」「就業後焚き火可」など、その場所ならではの特典も。

一方で、変わり種な募集も。例えば長崎県西海市では、廃校となった小学校を利用して作られたアナログレコードの博物館「音浴博物館」でのレコード整理の作業。三重県鳥羽市では、ビーチクリーンを兼ねた海洋プラスチックの収集と、それを利用した製品作りといったものもある。

募集ページ例。こちらは北海道足寄町の温泉宿でのおてつたび。お手伝い内容はもちろん、アメニティや携帯の電波状況まで丁寧にまとめられている。

参加希望者はマイページ情報の登録を行ったのち、地域や日程、業種から「おてつたび先」を選んで応募し、同社スタッフとの面談(初回参加時のみ)、おてつたび先との面談を経て参加できる仕組みだ。

2018年にサービスをスタートさせてから、しばらくは参加者の大半が時間に余裕のある大学生だったが、現在では社会人需要が急増。なんと大学生と社会人とで1:1程度の割合にまで変化したという。要因は新型コロナの影響によるリモートワークの普及が大きいと永岡氏。中には早朝アスパラ農家の仕事をこなした後、10時から本業を開始する、というような例もあるんだとか。

お金稼ぎ以外の層を発掘

おてつたび先の中心である一次産業の多くは、少子高齢化の煽りを受け恒常的な人手不足にある。例えば農業であれば、1970年には約1025万人いた人口が、現在は約210万人と、この50年間で5分の1に激減。さらにその平均年齢はおよそ68歳と言われている。

そのため、農繁期にはシルバー人材センターやアルバイト、知人の助けなどを借り、なんとか人手を集めているという農家も少なくない。しかし、場合によっては必要な人員を集めきれず深夜にまで及ぶ長時間の作業やスケジュールの遅れ、そしてそれに伴う収入の減少に苦しむ例も珍しくないという。長期的な産業規模の縮小が、そのまま現場の困窮へとつながっている。

ところがおてつたび上で募集をかけると、業務に関わらず応募が殺到するという。どの募集にも平均で2〜3倍ほどの応募があるため、たちまち定員オーバーになるというではないか。

永岡氏によれば、都会と地方とでは賃金に大きな差があるため、報酬の額で人を集めるのは難しい。そのため、報酬ではなく「体験」の部分を丁寧に訴求することで、結果的にお金を稼ぎたい、以外の目的を持った層からの支持を集めることに成功したという。面談時のヒアリングでも、「経験や関係作りをしにきた」と話す参加者も多いという話だ。また、広告宣伝費を一切かけておらず、口コミでサービスが広まっていったというから驚きだが、それだけ都会にはない「体験」を求めている人がいることを示しているとも言えるだろう。

人助けが産業の助けに

冒頭で述べたように、おてつたびのビジョンは「日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る」というものであり、これこそが他の求人サービスと大きく異なる点と言えるだろう。

忙しい時期の短期的な人手不足を解消すると同時に、参加者はこれまで知らなかった地域を訪れることでその魅力に出会う。現地の人々と時間を共有し、共に汗を流すことで地域への思い入れが生まれる。それがサイト内のレビューや体験記、口コミを通じてまた別の誰かが行動するきっかけとなる。そうして地域の「関係人口」が創出され、より長期的な目で見た時の人手不足の解消や産業の活気を取り戻すことにもつながっていくのだろう。

一方で、このサイクルを成立させたまま、規模を拡大していけるかどうかが、プラットフォーマーとしての力量が試される部分なのかもしれない。現段階ではまだまだ馴染みのないサービスであるため、おてつたび先の開拓や継続的な関係づくりは欠かせないし、参加者の期待値調整も重要な仕事だと言うことだ。

しかし、人助けをしたい気持ちやちょっとした好奇心が、地域の生活、あるいは国の産業そのものの手助けに繋がるサービスなどこれまでにあっただろうか。おまけに報酬もきっちりもらえるし、旅行も楽しめるときた。これは参加してみたくなるではないか。

というわけで、興味があるぜひ人はおてつたびウェブサイトを覗いてみて欲しい。思いもよらぬ地域との出会いが待っているかもしれない。


​​おてつたび HP:https://otetsutabi.com/

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