LIFE STYLE | 2021/09/11

何もない砂漠にゼロから新たな理想都市を建設。米国の億万長者が描くTelosaのビジョン

文:角谷剛

16世紀の思想家トーマス・モアは著作『ユートピア』で空想上の理想郷を描き、現実世界への批判を行った。 ...

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文:角谷剛

16世紀の思想家トーマス・モアは著作『ユートピア』で空想上の理想郷を描き、現実世界への批判を行った。

そんな理想郷の建設を、21世紀に実現しようというプロジェクトが進行中だ。米国の有名な起業家であるマーク・ロア氏は今月、米国内の砂漠にまったく新しい都市をゼロから建設するという野心的な計画を明らかにした。都市の名前は「Telosa」。2030年には最初の住民グループが移住を始める予定だ。

予算は4000億ドル

「エクイティズムタワー」と呼ばれる巨大な塔が中央公園からそびえ立つTelosaは、自然と建物が理想的に調和した持続可能な都市を目指す。太陽光発電や雨水の再利用などで自然エネルギーを活用し、交通手段は徒歩や自転車、そして低速の自動運転車などが中心。自宅から職場や学校などすべての社会施設に15分以内で行き来できるようになるという。

現在のTelosaの候補地は、広大な土地を持つネバダ州、ユタ州、アイダホ州、アリゾナ州、テキサス州などの米国西南部か、東部のアパラチア山脈地方。Telosaの最終的な面積は15万エーカー(約607 km2)になる予定で、東京23区の面積(約628km2)とほぼ同じ広さだ。40年以内に到達する目標の人口は500万人としている。

Telosaの都市デザインを担当するのは、ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)。これまでにも第2ワールドトレードセンターやGoogleの本社などを手掛けた有名な建築デザイン会社であり、トヨタ社が静岡県裾野市に建設する予定の理想都市「Woven City」の都市設計も行っている。

必要とされる予算は4000億ドル(約44兆円)。ちなみに2021年度の日本の国家予算は約107兆円であることから、この計画の規模の大きさが想像できるだろう。

資本主義の欠陥を補完。壮大な社会実験

この壮大な計画を発表したロア氏は、2016年に自身のネット通販「ジェット・ドット・コム(Jet.com)」をウォルマート社に売却して、巨額の富を得た億万長者。今年からアレックス・ロドリゲス氏とNBAミネソタ・ティンバーウルブズの共同オーナーに就任したことで、スポーツ界でも有名な存在だ。

ロア氏は、資本主義を成功した経済モデルと評価しつつ、その一方で個人が土地を私有するシステムが富の偏在と不平等を生み出してきたと批判する。これまでもゼロから建設された都市は存在したものの、それらは「不動産プロジェクトのようなもの」と一蹴。ロア氏は「Telosaのミッションはより公平で持続可能な未来を創造することです」と主張する。構想では共同体が土地を所有し、借地権や土地の値上がりによる収入を民主的に管理し、増税することなくより良い公共サービス、教育、医療、などを実現できるとしている。

Telosaのイメージを「東京の清潔さ、ニューヨークの多様性、そしてストックホルムの社会サービス」と表現するロア氏。あなたはこの都市に住んでみたいだろうか。