CULTURE | 2021/09/08

肉厚ベーコンがたまらない!八ヶ岳で40年以上続く欧風カレーの名店「ヴィラ・アフガン(山梨・甲斐大泉)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(6)


印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て...

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印南敦史

作家、書評家

1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
著書は新刊『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)。他にも『読書に学んだライフハック』(サンガ)、『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)など著書多数。

林の中にポツンと一軒家。30年以上前に食べた「ショルダーベーコンエッグカレー」が健在

今回ご紹介する欧風カレーの人気店「ヴィラ・アフガン」のある八ヶ岳は、個人的にとても思い出深い場所だ。

初めて訪れたのは、数組の親戚とキャンプに行った小学5年生の時。草原で草をはむ牛の姿を目の当たりにした時、「こんなに美しい場所があるのか」と感動したことを今でもはっきりと覚えている。30年前に結婚することになった時も「式は八ヶ岳で」と決めた。

妻(になる人)と一緒に打ち合わせで訪れたある日の午後、大泉町にあるこの店に立ち寄り、ふたりで食事をした。おそらく一度行っただけなのだが、以来その店のことが頭から離れなくなり、気晴らしのドライブも兼ねて再訪してみることにした。

中央道を小淵沢で降りたら、幼いころの記憶と連動するのどかな八ヶ岳高原ラインを道なりに清里方面へ。ワインディングロードを過ぎてしばらく進み、「天女山入り口」交差点を右折して北杜八ヶ岳公園線へ入ると、ほどなく左側に古い建物が見えてくる。そこが目的地だ(簡単に書いてはいるが、中央通を降りてから数十分はかかるよ)。

入口には、“Afghan”と書かれた小さな木の看板。

いまのご時世、「アフガン」と聞くとどうしても緊迫するアフガニスタン情勢を思い浮かべてしまうが、この店の語源は、かつて飼っていたというアフガン・ハウンドという犬だと聞いたことがある。

三角屋根の建物を構成するのは、白い壁と焦げ茶色の柱。通りに面した一階正面の大きなガラス窓には、赤い枠が施されている。しかし派手さはなく、林の中の一軒家といった趣だ。

小さな門をくぐって石畳を進み、すぐ正面のドアを開けると、その雰囲気に魅了されることになるだろう。鹿の剥製やランタンなど、いろいろな装飾品が並んでいるからである。以前はこの場所にバーがあったと聞いたことがあるが、行列ができることも多い現在は、ここで順番を待つことになる。お店は、階段を上がった二階だ。

ただしこの日は平日の、しかもお昼営業終了前だったので、待つことなく入ることができた。

「店内撮影禁止です お料理の写真はどうぞ」

一階のメニューにそう書かれていたので、残念ながら写真撮影はここまで。ともあれ階段を上がり、ガラスの入った格子の木製ドアを開くと、ゆったりとした空間が目の前に広がる。

なぜだろう? 30年ぶりなのだから記憶は曖昧で当然なのに、不思議なくらい懐かしい。感覚的には、数カ月ぶりにお邪魔したというような感じだ。ともあれ左奥の席に座り、2組ほどのお客さんが食事をしている店内を見回してみる。

白い壁に太い梁ががっしりと通った、頑丈そうな建物である。大きな木のテーブルがいくつか並んでいて、大きな薪ストーブも存在感をアピールしている。冬場になれば、きっと大活躍するのだろう。

古いシャンデリアやランプ、剥製など、一階と同じようにこちらにも装飾物が所狭しと並ぶ。なのに散らかった印象はなく、むしろ統一感がある。この場所にあるものすべてが、同じ時間を共有してきたからなのかもしれない。

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