文:角谷剛
今年7月中旬に北カリフォルニアで発生した山火事「ディクシー・ファイア」は、1カ月近く経った今でも鎮火の兆しが見えず、同州史上2番目の大きさにまで拡大。多くの建物が焼け落ち、数万人が避難するという大きな被害をもたらしている。
このところ毎年のように繰り返される大規模な山火事の被害に胸を痛めた1人の高校生が、ある発明でこの自然災害に対抗しようとしている。
クラウドファンディングで190万円相当を調達
サンフランシスコの高校に通うアルル・マサー君は、火災を感知すると自動的に起動する金属製の消火器「Fire Activated Canister Extinguisher(F.A.C.E.)」を発明した。本体上部に空気弁、側面に空気圧ゲージ、下部にスプリンクラーヘッドが備え付けられている。
F.A.C.E.は山火事が家に近づいてくる状況を想定しており、屋外のベランダや壁などに設置して使用。大気の気温が68度以上になると自動で起動し、内部に貯えられた水と難燃剤「コールドファイア」を半径1.2m~1.5mほどの範囲に360度散布し、燃焼の広がりを防ぐ働きをする。また使用する難燃剤「コールドファイア」はエコ・フレンドリーな素材で構成されており、自然環境への影響に配慮している。
F.A.C.E.は現在試作品の段階であり、アルル君は今年7月、クラウドファンディングサイト『Kick Starter』でさらなる開発のための、資金調達を行った。その結果、64人から1万7183ドル(約190万円)もの支援が寄せられた。
山火事は他人事ではない。少年の心に刻まれた出来事とは
アルル君がこの発明を思いついたきっかけは、自分自身が山火事に遭遇し自宅からの避難を余儀なくされた経験。
アルル君は『New Atlas』の取材に「毎年のように何万人もの人が山火事から逃れるために避難していたニュースは見聞きしていました。でも、自分がその1人になることは想像もしていませんでした」と明かす。そして「2019年の夏、山火事により、私たち家族は自宅から避難しなくてはいけなくなりました。それ以来、山火事は自分自身の問題になりました。それについて、自分も何かをしなくてはいけないと思いました」と続けた。
幸い火が封じ込められ、アルル君の自宅は無事だった。しかし、アルル君一家のように幸運に恵まれた人ばかりではない。その年の10月だけでも、その山火事により20万人以上もの人が避難を余儀なくされた。
カリフォルニア州はこれからが本格的な山火事シーズンを迎える。今年は例年に比べて降雨量が少なく、大気が乾燥し、気温も高い。またしても山火事による被害が危惧されている中、アルル君の発明が多くの人の命を救うことになるかもしれない。