NetflixやSpotifyなど、主に映像や音楽といったデジタルコンテンツ分野で普及しつつあるサブスクリプションサービス。この波を受けて日本の飲食業界でも取り入れる動きが続いている。
だが、商品のコピーコストがゼロに近いデジタルコンテンツと違って、1つ1つの商品に原価が存在する(そして他の産業よりも原価率が比較的高い)食べ物やお酒の分野で、果たして上手くいくかは未知数だ。
中国では早速、「サブスク倒産」とも言えそうな事例まで登場している。
文:6PAC
月額制サービス開始後2週間で閉店に追い込まれた中国の火鍋レストラン
香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストが伝えるところによると、今年6月中旬に中国南西部の四川省成都市にある火鍋レストランが閉店した。この火鍋レストラン、19ドル(約2,100円)を払えば1カ月間食べ放題という、最近よく聞くサブスクリプションサービスを始めたまでは良かったが、利用者が殺到し開始から2週間で想定外の結果を迎えることとなった。
レストランの前には朝8時から行列ができるなど、1日に500人以上の客が殺到し、深夜まで客が途絶えることがなかったという。レストランのオーナーは1日2、3時間の睡眠しかとれず、従業員も1日10時間以上の労働を余儀なくされた。
レストランのオーナーによると、食べ放題の月額制サービスを始めることで「ある程度損失が出るのはわかっていた」そうだ。だが「ロイヤルカスタマーを増やしたかった」ことと、「多くのお客さんが来店するレストランになることで、ビールなどを仕入れる際の交渉を有利にしたかった」ことなどが、食べ放題サービスを始める動機だったようだ。
日本でも広がる月額制サービスの波
日本では時間制限のある食べ放題や飲み放題が主流だが、株式会社フードリヴァンプが運営する「野郎ラーメン」では、2017年11月に「1日一杯野郎ラーメン生活」という月額制サービスを開始した。780円の「豚骨野郎」、830円の「汁無し野郎」、880円の「味噌野郎」の3種類から、1日1杯食べることができるサービスで、価格は月8,600円。決済は野郎ラーメンの専用アプリで全て完結するという。ただし、「野郎ラーメン」が定義する18~38才までの“野郎世代”限定のサービスとなる。
また今年2月には、『柚柚 ~yuyu~』『なごや香』などを展開する居酒屋チェーンのアンドモワ株式会社が飲み放題の月額制サービスを始めている。月額制ということで、最低1カ月から最長6カ月単位で購入可能(3,000円~1万3,000円)。まずは30店舗限定となるこの月額制サービスは、250種類のドリンクメニューがすべて120分間飲み放題というものだ。来店回数の制限がないので、「来店すればするほどお得」というのが最大の売り。減少傾向にある来店者数に歯止めをかけたいというところが本音だろうか。
株式会社ダイヤモンドダイニングが運営する「ザ・ステーキ六本木」では、今年4月からステーキ定額パスポートの発売を開始した。専用アプリでパスポートを購入すると、1営業日につき1枚のステーキが1カ月間食べられるという月額制サービス。価格は1ポンドステーキ用パスポートが6万4,800円、ハーフポンドステーキ用パスポートが2万9,800円となっている。
小規模事業者にとって月額制サービスはツライ!?
消費者からすると“お得感”満載の月額制サービスだが、仕掛ける企業側は緻密に損益分岐を計算していることに疑念の余地はない。
例えばドリンクメニューが飲み放題であれば、「飲み代がタダ」という錯覚からくるフードメニュー単価の上昇×増加した来店者数という計算式を想定して、リスクヘッジしているだろう。ステーキの食べ放題であれば、逆にドリンクメニューやサイドメニューで利益率をカバーしようと画策しているのではないか。月額制サービスという切り札をきって大やけどしそうなら、即サービス中止するという覚悟も必要ではあるが、そもそもある程度の店舗数と客数を抱えている企業でないと、なかなか月額制サービスに踏み出せない現状があったりするのではなかろうか。
中国の失敗事例である火鍋レストランのように、小規模事業者にとっては諸刃の剣になりかねない月額制サービスだが、我々一般消費者にとっては魅力的なものも多い。今後ますます増加すると言われている飲食業界の月額制サービス。賢く使いこなしていくようにしたいものだ。