CULTURE | 2021/05/04

コスパ抜群の「手作りハンバーグ・しょうが焼・カレー」、親子二代・36年続く「にな川(武蔵境)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(4)


印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て...

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印南敦史

作家、書評家

1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
著書は新刊『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)。他にも『読書に学んだライフハック』(サンガ)、『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)など著書多数。

今年で36年目を迎える老舗「洋風食堂」

10数年前、中央線の三鷹に住んでいた。

自転車移動が楽なロケーションだったため、隣の吉祥寺へもよく行き来していたのだが、同じようにしばしば訪れていたのが反対側の武蔵境だ。

亜細亜大、日本獣医生命科学大など、周辺に複数の大学が点在するとはいえ、基本的には地味な街である。

地味とはいえ、当時、東館と西館に分かれているイトーヨーカドーは売上日本一だと聞いたことがある(現在は知らないが)。ヨーカドー並び、図書館など4つの機能を併せ持った「武蔵野プレイス」も、公共施設としてはかなり成功している。

そういう点においては“地味”を“暮らしやすい”ということばに置き換えることもできそうだ。

そんな武蔵境で営業を続ける「にな川」は、正面に書かれている「ごはん処」「手作りハンバーグ・しょうが焼・カレー」という表記からもわかるとおりの“洋風食堂”。今年で36年目という老舗である。

近隣にはなにかとクセの強い店も点在しているのだが、ここはいい意味で普通。長きにわたって“普通”なことを貫き通してきたからこそ、長く支持され続けてきたともいえる。

お邪魔したのは、昼の営業時間が終わる間際の14時近く。ということで最後のお客さんもすぐに帰っていたが、基本的にはいつ見てもお客さんがいる印象がかねてからあった。

入って右側には、2卓の4人がけテーブル席。そして左側には、L字型のカウンターが厨房を囲んでいる。カウンターのいちばん奥の席から店内を眺めると、南向きの大きなガラス窓から外光が注ぎ込んでいるのがわかる。

決して新しくはないが、店内は掃除が行き届いていて、厨房もピカピカ。全体的に清潔感があって心地よい。

ボリューム満点、コスパも抜群の定食たち

ランチタイムのメニューは3種。そのなかから、「焼肉 ベーコン玉ねぎ」と書かれたAランチを注文してみる。

壁に貼られたPOPによると、定食を注文した人は通常400円の生ビール(中)が300円で飲めるらしい(1杯目のみ。緊急事態宣言中は酒提供を休止)。だいぶ気持ちを揺り動かされたが、ここはぐっと我慢することにした(偉そうに書くほどのことでもない)。

ものの数分で提供されたAランチは、見た目にもなかなかのボリューム感だ。大きめの皿に豚バラの焼肉、ベーコン、玉ねぎ、ピーマンのソテー、千切りキャベツの上に目玉焼き、そしてスパゲティが並んでいる。

これにライス、わかめと豆腐の味噌汁、お新香がついて650円だというので、コスパはかなりいいのではないだろうか。

全体的に濃い目の味つけで、ご飯がどんどん進む。出汁の効いた味噌汁は、どこかホッとする味だ。

壁には「学生さん ライス大盛りサービス中」とあるが、この味とボリュームは、たしかにお腹を空かせた学生にはたまらないだろう。

次ページ:かつて存在した「同名のラーメン店」にまつわる親子二代のストーリー

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