LIFE STYLE | 2018/07/04

なにげに世界で有名な日本人:立体錯視アートの第一人者、明治大学の杉原厚吉特任教授

制作:杉原厚吉
錯視と言えば「エッシャーの騙し絵」で知られるオランダの画家、マウリッツ・エッシャーが有名だが、彼の作品...

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制作:杉原厚吉

錯視と言えば「エッシャーの騙し絵」で知られるオランダの画家、マウリッツ・エッシャーが有名だが、彼の作品はあくまで2次元(2D)の世界で表現されていた。2Dが主流だった錯視を立体的な3次元(3D)で表現し、世界中の人々を驚かせている日本人が実は存在する。

そして彼はアーティストではない。明治大学の杉原厚吉氏(研究・知財戦略機構 特任教授。以下、杉原教授)がその人である。一体どんな目的でこれらの作品をつくってきたのか、話を訊いた。

文:6PAC

杉原厚吉

明治大学研究・知財戦略機構 特任教授明治大学先端数理科学インスティテュート所長

1973年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、電子技術総合研究所、名古屋大学、東京大学などを経て、2009年4月より現職。専門は数理工学。ロボットの目を開発する研究の中で、不可能図形のだまし絵を立体化する手法を見つけ、立体錯視の分野へも研究を広げてきた。さまざまな不可能立体を創作し、立体錯視アーティストとしても活躍している。国際ベスト錯覚コンテスト優勝2回(2010年、2013年)、準優勝2回(2015年、2016年)。著書には、「だまし絵のトリック」(化学同人)、「エッシャー・マジック」(東京大学出版会)、「錯視図鑑」(誠文堂新光社)、「大学教授という仕事」(水曜社)、「理科系のための英文作法」(中公新書)、「スウガクってなんの役に立ちますか?」(誠文堂新光社)などがある。
http://www.isc.meiji.ac.jp/~kokichis/Welcomej.html

何度回転させても矢印の向きが変わらない、ナゾの動画

以前、各種SNSでもバズったこの短い動画に見覚えはないだろうか。右を向いた矢印の模型は、何回回転させても右にしか向かない。そして、この模型を真上から見ると矢印の形ですらないのだ。

この動画はカリフォルニア州立大学で物理学を教えているレイ・ホール教授が公開したものだが、制作したのは杉原教授である。同氏によれば、「鏡に映すと形が変わる”変身立体”という新しい”不可能立体”の作り方を発見したのですが、それを利用して鏡に映すと向きが変わる矢印を作ってみたら、これができました」とのこと。

数学者でもあり、「立体錯視アーティスト」でもある杉原教授は「錯視を起こす立体を作りたいと思ったら、それを表す方程式を見つけ、それをプログラムに書いて、計算させます。使っているのは主に連立一次方程式というもので、大学の1、2年次ぐらいで習うものです」。

国際的な錯視作品コンテストで二度優勝

杉原教授の立体錯視作品は一目見ただけでわかるインパクトがあるが、作品を数学的アプローチで創りあげていくプロセスもユニークなことから、CNNからも取材を受けるなど、海外からも注目されている。ミネソタ大学の講演会に招待されたり、アメリカのニューヨークにある国立数学博物館で作品が展示されたりしたこともあるという。

海外からも注目されるきっかけとなったのが、錯視の新作を競う国際コンテストである「Best Illusion of the Year Contest」への参加で、杉原教授は2010年と2013年に優勝している。

2010年の優勝作品「Impossible motion: magnet-like slopes」

2013年の優勝作品「Rotation Generated by Translation」

見ることの不思議さ、危うさ

同氏は錯視作品を研究する目的を「目でものを見る仕組みを探るためです。錯視作品はその副産物です」と語ってくれた杉原教授の専門は数理工学だ。「数理工学は、世の中の諸問題を数学を使って解決しようとする方法論です。若い頃、数理工学の手法を使って、絵を理解するコンピュータを作る研究をしていました。その時、“不可能図形”と呼ばれる絵の中に、立体化できるものがあることに気付き、人の視覚にも興味が広がったんです」と語る。

不可能図形とは、「本来は実現不可能だが、目の錯覚によってそのように見えてしまう立体」を指す。従来、これらは2次元の図形として研究・制作されてきたが、近年は3次元の立体物を制作する試みもみられてきた。だが、杉原教授のように数学の知見を用いて研究している人はほとんどいないという。

錯視、騙し絵、トリックアートなど、人間の目が錯覚を起こしてしまうのはそもそもなぜなのか?という問いに対し、杉原教授は「網膜に写った画像には、奥行きの情報がありませんから、脳で奥行きを作らなければなりません。脳が作った奥行きと、見ている物の奥行きと違うときが錯覚なのです」と解説してくれた。

同氏は立体錯視作品を通じて、「見ることの不思議さ、危うさなどを考えるきっかけにしていただけると嬉しいです。私自身は、なぜこのような錯視が起きるのか、この錯視を起こす目の機能は普段の生活で役立っているのか、錯視の強さが作品によって差があるがそれはなぜか、などを考えながら、もっと新しい錯視作品も作っていきたいと思っています」と語ってくれた。

Ambiguous Garage Roof(変身するガレージ屋根)

ちなみに、この動画の立体錯視作品は、英語ではあるが作り方がネットに記載されている。興味のある人は、ぜひ自作にもトライしてみて欲しい。


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