FINDERS

差別の少ないオランダで「日本人差別」を受けて初めて気づいたこと【連載】オランダ発スロージャーナリズム(31)
  • GLOBAL
  • 2020.12.24
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!

差別の少ないオランダで「日本人差別」を受けて初めて気づいたこと【連載】オランダ発スロージャーナリズム(31)

Photo by Shutterstock

中国・武漢発と言われた新型コロナウィルスが世界に蔓延してから、あっという間に一年。今年は世界中で新型コロナに始まり、新型コロナで終わった年だったのではないでしょうか?

ここオランダでは、クリスマス休暇を狙い撃ちしたかのようにハードロックダウンに入りました。こちらでは非常に大事にされているクリスマス関連の行事もそこそこに、子どもたちの学校も一斉に早めのお休み?に入りました。ただ、わずか人口1700万人の小国で、毎日の感染者数が一時は1万人に迫る勢いだったので、それも仕方ないのかもしれません。さらに追い討ちをかけるように、ロックダウン後に連日1万人をゆうに超える過去最高の感染者数、また変異ウィルスの出現の可能性が出てきたりと、実はこのコロナ禍が始まって以来最悪な状況を迎えています。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「あれ? もしかして自分、避けられている?」

Photo by Shutterstock

さてさて、思い出すのは今年の3月あたりでしょうか。当初、新型コロナが猛威を奮ったのは中国をはじめとしたアジア諸国。ヨーロッパでは完全に対岸の火事状態でした。新型コロナは完全にアジアの感染症と思われていました。

当時ヨーロッパで頻繁に起こり始めたのがアジア人差別。「新型コロナ=中国発=アジア人」という連想が多くのヨーロッパ人の間で起こり、それはそれは、多くのアジア人差別が起こりました。普段はまったくといって良いほど差別のないオランダであっても、頻繁に起こり、それはニュースにもなったほどでした。

自分自身も、電車の中で明からさまに口を抑えて席を立たれたり、奇声を発する若者グループに指をさされてからかわれたり、「あら、ヤダ! あなたコロナじゃないわよね?」と買い物中に言われたり、挙句の果てには自分の子どもが市役所の職員に「コロナだ! あっちいけ!」とまで言われる始末。当然、どれも気持ちの良いものではないのですが、本人としては「差別ではなく区別だ」という意識だったのかもしれません。

というのは、世界ではその後、新型コロナをきっかけに普段は表に出ていない差別意識が、むくむくと湧き上がっていきました。

始めこそ、こうした「いつもと違う」「あれ? もしかして自分、避けられている?」と言った違和感は小さなものでした。しかし、ヨーロッパでの新型コロナが爆発的に広がってからは、ロックダウンで自分も外に出なくなったこともありますが、あまり見かけなくなりました。

人種差別問題に関する今年の大トピックは、みなさんご存知のBlack lives Matter(BLM)。アメリカが発祥になり、あっという間に世界を席巻しました。コロナ禍にも関わらず。まあ、それだけこの問題が世界中で起こっていたという証でもあるでしょう。小さな違和感は、いつの間にか世界中の大問題に成長しました。いや、もともとあったものが、やっと表に出たということかもしれません。春先のヨーロッパで、散々差別される側にいたアジア人としては、他人事とは思えませんでした。

そういえば、昨年あたりから、ヨーロッパのサッカー界でも黒人選手への差別がしばしば起こっていましたし、もっと前にはアメリカンフットボール界でも起こりました。先にも述べたように、普段は差別がないオランダでさえ、黒人サッカー選手が観客から差別的なヤジを飛ばされるという事件もありました。イタリアやイングランドでも頻発しました。

幸いにも今年はサッカー無観客試合が多かったりと、なかなか人が集まる機会が少なかったので、あまりスポーツ観戦の場での人種差別はなかったようですが、極め付けの事件がつい先日起こってしまいました。

サッカー試合中に審判が差別発言

それはサッカーの世界的な大会、チャンピオンズリーグでの事件でした。今年はこの大会が日本で放映されていないと聞いていますが、世界では時にワールドカップ以上に視聴率を稼ぐこともある、世界最大のスポーツコンテンツです。

事件は、この大会の予選最終節フランスのパリサンジェルマンVSトルコのイスタンブールBBとの試合中に起きました。なんと審判が試合中に差別発言をしたことにより、抗議として両チームの選手が試合をボイコットしたのです。

サイドライン側にいた第4審判がイスタンブールBBの黒人のアシスタントコーチを指して、いわゆる「Nワード」を言い放つ差別発言をしたのです。それを聞いた当のアシスタントコーチが激怒して、その審判に詰め寄りました。そして、抗議に賛同した両チームの選手が試合をボイコットして、ロッカールームに去ってしまったのです。

この審判の発言は、無観客だからか放送用のマイクにもバッチリ拾われており、明らかに誰からもわかる状態でした。結局、試合は前半14分辺りで正式に中止が決定し、その後、翌日に続きが再開されることが発表されました。無観客だったからこそ事態が「この程度で済んだ」と言えるのかもしれませんが、もしスタジアムを埋め尽くす満員の観客がいたら、どんなことになっていたのでしょう。元代理店勤務の人間としては、完全に想像したくない最悪な状況です。

真偽のほどは分かりませんが、この試合の審判を担当していたルーマニア人の間では、差別意識がなく単純に「黒人」という意味合いでしか言っていないのだ、という投稿もSNSでは見られました。ただ、この審判に抗議をしていたある選手は「その場にいる白人選手を指すのに白人とは言わないだろう。なぜ、黒人選手(コーチ)にだけ、あえて黒人と言うのだ?」という抗議をしていました。いずれにせよ、審判として、例え悪気がなかったとしても、こういうご時世にあまりにも配慮がなさすぎた感じもします。翌日の再試合には、このルーマニア人審判団は全員交代させられました。

こんな大きなヨーロッパの大会でさえ、しかも主催側に近い立場、つまり差別には絶対反対だと宣言している側が、サラッとこういう発言をしてしまうのが、今の世の中なのかもしれません。

「何気ない一言が他人を傷つけていたかもしれない」と改めて気付かされる

Photo by Shutterstock

でも、ヨーロッパでは、というか「差別がない」と言われているオランダでさえ、こうした差別の影をチラチラと見かけることがあります。

例えば、先に挙げたサッカーは、オランダでは完全にすべての人種に開かれているスポーツです。黒人率は結構高いですし、イスラム系の選手も多くいます。

しかし、オランダのサッカーと並ぶ2大人気スポーツの、もう一つ。グランドホッケーに関しては、ほぼ黒人選手はいません。ホッケーは白人のスポーツとなっているように見えます。幼少期からホッケーをやっていて、差別を受けてきたと話す黒人選手のインタビューも聞いたことがあります。

ヨーロッパでは、なんとなく黒人が多い住居エリア、白人が多い住居エリアといった感じに分かれています。もちろん、その中にイスラム系の人が多く住んでいるエリア、日本人が多いエリアなんかも存在しています。それらは政府や自治体が強制的に定めたエリアなのかというと、まったくそんなことはありません。ただ、なんとなく自分に近い人種の方が結局は安心するのかな?ということや、人種ごとにまとまって住んでいるように見える住宅街が、そのまま階級社会に結びついていることもあります。

住居一つをとっても、世界ではこうなっているところが多いのではないでしょうか? 日本でも、同じ人種がまとまって住んでいたり、働いていたりするエリアもありますよね。別にこれが差別に直結するわけではありませんが、結果的には生活習慣の違いや、所得の偏りなんかはあるかもしれません。

コロナ禍においては、こうしたなんとなくみんなが分かってはいたこと、あえて触れなかったようなことも、なぜか明らかになってしまったような気がします。まあ、それはいつか必然的に明らかになってしまうものであったのかもしれませんが。

こういうことも含めて、つくづく今年は、コロナに始まりコロナで終わる年だったなあと思うわけです。

中国での感染確認から世界に瞬く間に広がったウィルスに呼応するかのごとく広がった、あるいは表出した差別意識。今でもヨーロッパでは猛威を奮っています。それと比べると、感染者数は増加しているとはいえ、世界での相対的な数だけみれば沈静化しているように感じる日本。オランダ人が、冗談で「もう、みんなで日本に行こうぜ!」と言った時に、「いやいや、お前らは頼むから行かないでくれ!」と喉元まで出かかって寸前で言うのを思いとどまったのですが、これってやっぱり差別に当たるのでしょうか?

一年前であれば、自分自身考えも及ばなかったような状況になっていると実感しています。そう、もしかしたら「差別」をしているなんて微塵も思っていなくても、実は気づかないうちにしているのかも? もしかしたら自分がされてきたのも、こんな何気ない気持ちから発せられた言葉だったのかも?と思ったりしました。

当の本人でさえ気づかない、心の中に存在しているかもしれない差別意識。ダイバーシティの中で暮らしていると、自分のアイデンティティを意識することが多いのですが、その反面、今まで無意識のうちに「差別」や「区別」をしていたのかもしれません。

もうぶっちゃけ、オランダではワクチンがないと、コロナは終息しないのではと半ば諦めてしまうほど感染が拡大しています。いっそのこと人種差別などの問題も、新型コロナと一緒に一掃されないかな?と思ったり。差別される側の経験をしたアジア人としては、ステイホームしながら考えています。


  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!
  • 温泉会議

SERIES

  • 高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」|高須正和|Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
  • 「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書|山出淳也|NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事 / アーティスト
  • 阿曽山大噴火のクレージー裁判傍聴|阿曽山大噴火|芸人/裁判ウォッチャー
  • JKA Social Action × FINDERS
  • テレビの窓から
  • あたらしい意識高い系をはじめよう|倉本圭造|経営コンサルタント・経済思想家