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VRで変わるエンターテイメント、心に火をつけるリアルなコミュニティの価値 |水口哲也(エンハンス代表/EDGEof共同創業者)【後編】
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  • 2018.05.24
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VRで変わるエンターテイメント、心に火をつけるリアルなコミュニティの価値 |水口哲也(エンハンス代表/EDGEof共同創業者)【後編】

前編より続く

コミュニティラウンジ、イベントスペース、メディアセンター、キッチン、茶室など、イノベーションを起こすための機能を備えた「EDGEof TOKYO(以下、EDGEof)」が、2018年4月に東京・渋谷で稼働を開始した。

それぞれの得意領域を持つ共同創業者6名によってつくられたこの場所で、彼らは「渋谷から世界をアップデート」することを企てる。今回は創業者のひとりである水口哲也氏に話を聞いた。

前編では「お金とクリエイティブが同一化していく」という水口氏が見つめる未来について伺った。続く後編では、同氏の本業ともいえるゲームクリエイターの観点から見た、クリエイティブシーンの今後をはじめ、EDGEofという場の持つ魅力を聞いていく。

聞き手:米田智彦・長谷川賢人 文・構成:長谷川賢人 写真:神保勇揮

水口哲也

エンハンス代表/EDGEof(エッジ・オブ)共同創業者兼CCO

プロデュース作として、『スペースチャンネル5』(1999)、『Rez』(2001)、『ルミネス』(2004)、『Child of Eden』(2010)など。2016年には『Rez Infinite』をリリース。米国The Game Award、ベストVRアワード(2016)を受賞。同年『Rez Infinite』の共感覚体験を全身に振動拡張する『シナスタジア・スーツ』を発表。 2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 (Keio Media Design) 特任教授。

ゲームにも映画にも「戻れない」瞬間がくる?

―― 水口さんご自身も、このEDGEofという場所で新しい働き方やビジネスに取り組まれるわけですね。これまで取り組まれてきたゲームについては、どのように構想されていますか?

水口:「Rez Infinite」をVRで作ってみて、やっとこの時代がきたかぁ、と思ったんです。僕はVRがやりたくてこの業界に入ったようなものだから、まあ嬉しかったし、楽しかった。

VRを試してみて「これはただの一人称じゃない」って思ったんです。例えば、主人公という「ぼく」は三次元にいて、3Dですごくリアルな世界で主人公を操作している。それは操作しているものを「客観的」に見ているわけだけど、そのリアリティって今までの比じゃない。主観と客観が入れ子のような状態っていうか、そこの境目が溶けている感じ。これからは、映画的なものも、ゲーム的なものも、「体験」として溶けていくでしょうね。

もっとすごい作品が出てくるのは、これから先なんですよ。映画だって、僕らの知ってる映画になるまでは時間がかかった。つくるのは僕なのか、別のクリエイターなのかわからないけれど、「次」が出来た瞬間に「いやぁ、もうゲームには戻れないんだよね。昔の映画にも戻れないなぁ」というポイントがくると思う。

―― 構造変革が起きて、受動的なゲームもあり得てしまうかもしれない。

水口:そういうのもあるでしょうね。それを、「受動的に体験するゲームです」といえばそうなっちゃうし、「映画の新しい形です、体験できる映画です」って言えば、そうなっちゃう。VRは入り口だろうから、この先ARなんかで、とんでもないエンターテイメントが必ず出てきますよ。構造的にまだまだ進化すると思います。

―― 音楽のライブも変わりそうですね。

水口:絶対変わる。目の前には5000人の観客がリアルにいるけれど、バーチャルではそのアーティストのまわりに世界中の20万人がアクセスして感動している、なんて感覚は当たり前になるでしょう。

―― エンターテイメントそのものが変わりつつあると言えそうですね。水口さんが進めている「シナスタジアラボ」での挑戦も、そこへ接続されていくんですか?

水口:そうなるでしょうね。

たとえば、ハプティック(触覚)でいえば、「柔らかい」や「固い」といったテクスチャーはもちろん、ベースやギター、ドラムといった音でさえも触覚として再現したり、伝送したりできます。たとえば、「Rez Infinite」のためにつくったシナスタジア・スーツも、「体全身がドラムで叩かれる」とか「ベースではじかれ続ける」ということも表現可能ですから。

―― とはいえ、VRでは感じ得ないものも、やはりあるのでしょうか。

水口:あるでしょうね。先ほどの音楽ライブでいえば、熱気や湿気といった肌感覚はそう。ステージの上で演者が汗だくになっていてムンムンしているんだけど、その“ムンムン”とした空気や「汗臭さ」といった匂いや、味のような接触して化学反応を起こすのはそう簡単には実現しないと思う。

でも、逆に簡単に実現しなくていいんじゃないかな。だからこそ実際のライブに行きたくなるはずで、そこはトレードオフの関係で良い。もし、VRが万能になって現実への興味がなくなっちゃったら、たぶん、世の中っておかしいことになると思うんだよね。

―― それはもう映画『マトリックス』の世界ですよね。

水口:そう。脳に電極を挿すとか……僕としては、それは人間の進化としては間違っていると思う。なんというか、脳ばかりに集中して、肉体を置いてきぼりにするような進化は、自分は望まないですね。ただ、「それによって身体機能や感覚を失った人が幸せな気分になれる」みたいなものなら話は別なんだけど。

リアルなコミュニティは心のエネルギーに火をつける

―― バーチャルには超えられないものがあるという点では、この“EDGEof”をつくったことも、そのひとつなんでしょうか?

水口:バーチャルやデジタルは、何を表現しても自由だし、制約がないフリーダムがあるんですけどね。SNSもスカイプのようなテクノロジーも進化したし、実際に会わなくても、遠隔でコミュニケーションできちゃうし。だけど、やっぱりリアルな場所があって、いつもいろんな人が出入りしているコミュニティっていうのは、いいもんですね。毎日ワクワクします。僕も大人になったってことなんですかね?(笑)

―― ワクワクしているという意味では、逆に子どもに戻ったのかもしれないですね(笑)。

水口:たしかにここへ来ると、みんな全然「大人」な感じではないな(笑)。

やりたいことをどんどん実現しちゃう人たちが集まっているから、その熱気にあてられて加速している感じもあると思う。それがEDGEofの「場のマジック」であり「パワー」なのかな。

デジタルになればネットワークだけで便利じゃん、と思っていたけど、実際にリアルなコミュニティとして集まれる場所がある、というのは、心のエネルギーに火をつける感じがあります。

―― ここで改めて、EDGEofが立ち上がった経緯を教えてください。

水口:イノベーションプロデューサーのケン・マスイと、TEDxTokyoのCo-founderでもあるトッド・ポーターが、アメリカのVR系エコシステムの日本ブランチを立ち上げようと計画してたんですね。僕もその相談をよく受けていて、何か協力しようとしてた。でも、その話はアメリカ側の事情で、途中で立ち消えになってしまったんです。

僕は、「逆にチャンスだと思って、全く新しいものを自分たちでつくっちゃおうよ」って言って、そこに孫泰蔵、アレックス小田嶋が集まってミーティングしたら、瞬間的にスパークしちゃった。全然バックグラウンドが違う5人が集まって、同じようなヴィジョンを瞬時に共有できて、すごく盛り上がったわけです。

VRだけでなく、AIや自動運転なども含めたライフスタイル全般において、日本の中でイノベーションを起こすにはどうすればいいのかと話し合ったんです。ほら、日本からはFacebookやGoogleのようなイノベーションが生まれない感じ、長くあるじゃないですか。

―― ありますね。

水口:工業製品においては日本も頑張れたんだけど、そこから先がどうしても続かない。良くも悪くも、Made in Japanをどう乗り越えていくかという話でもあるんですよね。

EDGEofのメンバーは、それぞれの強みがあり、世界中にネットワークを持っている。それを全部持ち寄って、東京・渋谷のど真ん中にリアルな場所をつくったら面白いことができるんじゃないか……というのが発端だったんです。

後に、「シムシティ」の初期開発メンバーでエンジェル投資家のダニエル・ゴールドマンも参加することになって、6人で約1年かけて準備してきて、2018年4月1日にスタートすることができました。まだルールをつくっている途中なんですけれど、EDGEofは、いわゆるコワーキングスペースのようなものではありません。クリエイターやエンジニア、学生や企業、テクノロジーやアイディア、そして世界中の投資家やスタートアップと結びついて、プロジェクトやベンチャーが立ち上がっていくコミュニティです。世の中の仕組みを変えていくという意味で、ゲームチェンジャー・スタジオという言い方もしていますね。

―― EDGEofという名称もその目標に関わっていますか?

水口:EDGEofに込めた思いは「世界は、端からくつがえる。」ということです。これからいろんな所に、いろんなEDGEofが生まれるかもしれません。

―― 企業のオフィスもあり、プレスルームもあったりと、さまざまなスペースがありますね。

7階の「EDGEof Media Lab」。記者会見などもできるようになっており、プレス用の個室も用意している。

8階の「EDGEof Club」。キッチンや料理を囲むためのテーブル、DJ用のターンテーブルや、ゆったりミーティングできるスペースなども用意されている。

水口:起業家志望から、アーティスト、クリエイター、エンジニア、メディア、それらを支援したい投資家……そういう人たちにとっての交差点のように集いながら、日本だけじゃなくてグローバルに会話しながら、プロジェクトの最適化や事業化を考えていけるコミュニティを構築している、という感じですね。

たとえば、プロジェクトが進んでいくと何かしらの助けが欲しいときがある。1人で考えていると、思い浮かぶのは1人か2人がせいぜい。でも、一緒に考えてくれる人が10人がいれば、何十人という候補が浮かぶじゃないですか。そうすると、選択肢が広がりますよね。

―― しかも、つながりのある人が世界中から集まってくる現象が出来ると、その選択もより多様になると。

水口:そういうことですね。ここを訪れてみんなが言うのはそれなんです。「やっぱりリアルな場所っていいよね」って。

―― 水口さん、もう「ゲームクリエイター」、辞めちゃうんじゃないですか?

水口:うーん……ゲームはゼロから全ての構想をつくれるから、クリエイティブ的には楽しいんだよね、完全なフリーダムがあって。常にグローバルに開かれてるし、やっと面白い時代に入ったし。だから、しばらくは、やめるってことはしないと思う。まだ挑戦したいテーマもあるし、一緒につくっているスタッフとの楽しさもあるからね。ただ、EDGEofをはじめ、ほかのことにも挑戦します。

―― 先ほどおっしゃった「社会実装」の動きが大きくなったりはするけれど、ということですね。

水口:たぶん、いろんなことを含めて、新しい「体験」のデザインをして、社会に実装していくことになるんだと思います。自分の中では、全部同じことです。全ては「体験」の拡張というコンセプトでつながっているんですけどね。


EDGEof

公式サイト: https://edgeof.co/

エンハンス

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