EVENT | 2020/03/11

多くの企業で改革やデジタルシフトが進まない理由が判明した!【連載】令和時代のオープンイノベーション概論(2)


角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO
1972年生まれ。2015年より、新規事業開発支援のスペシャリスト...

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角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO

1972年生まれ。2015年より、新規事業開発支援のスペシャリストして、主に大企業において、事業開発の適任者の発掘、事業アイデア創発から事業化までを一気通貫でサポートしている。前職(公務員)時代から培った、さまざまな産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、必要な情報の注入やキーマンの紹介などを適切なタイミングで実行し、事業案のバリューと担当者のモチベーションを高め、事業成功率を向上させる独自の手法を確立。オープンイノベーションを目的化せず、事業開発を進めるための手法として実践、追求している。

聞き手:米田智彦 文・構成:庄司真美 写真:神保勇揮

日本の9割の中小企業が直面する事業継承の問題

昨年、弊社フィラメント主催のビジネスカンファレンス「QUM BLOCS 2」で話題となったのが、「事業承継」について。

同カンファレンスでは、家業である大正13年創業の大阪の石鹸メーカー「木村石鹸工業」を父親から継いだ木村祥一郎さんに登壇いただきました。4代目となった木村さんは家業を継ぐ前、インターネット黎明期からIT企業を立ち上げて検索エンジンを作っていた方です。

トークセッションでは、父親から事業を継承した時の苦労をお話しされていたのが印象的でした。会社を継いだ時点ですでに色々な財産に担保がついていて、数億円の抵当設定も含めて事業承継しなければならなかったそうです。

自分が起こした事業であれば覚悟もできますが、バトンタッチされていきなり数億円分のリスクも受け継ぐのはなかなかハードな話です。

僕の父は島根で無職の状態から裸一貫でガス会社やガソリンスタンドをおこした人です。幸い僕は三男だったので会社を継ぐという経験はしなくて済みましたが、創業経営者である父からは「銀行から金は借りるな!」と言われて育ちました。

僕はそれを「銀行からお金を借りるような羽目にはなるな」ということだと捉えました。冗談のようですが、フィラメントの資本金は89円です。取引先の経理の方から「御社サイトに記載の資本金は間違いではないでしょうか?」と問い合わせが来ることがよくありますが、実際、銀行などからの借金はなく、融資は僕が貸し付けた分のみ(それも現在は返済済み)という小さな会社としての身の丈経営になっています。

小さい会社ほどルールを減らして機動力を上げるべし

弊社フィラメントは常勤5人、非常勤メンバーを入れても10人ほどの小さい会社です。そういう規模であることもあって、デジタルシフトについてはあまり意識したことがないです。おそらく同規模の他社でも大部分はそうなのではないかと思います。

ただし、不合理な作業はどんどん改善すべく、あらゆるツールや取り組みを試し続けています。

たとえば働くスタイルでいえば、弊社ではリモートワークOKです。オフィスは大阪市内にありますが、日によって社員が奈良や京都で仕事をしています。僕自身、風呂に入りながら講演の原稿を書く時もあります。さすがにその時はPCは使わず、ノートとペンで書いていますが(笑)。

こうやって改善の積み重ねを続けていって、気づいたらすべてがデジタルシフトした状態にあるのが理想です。余計なルールに縛られることなく、「このツールを使ったらもっと便利かも」というふうに、柔軟に変えていくことが大事だと思うのです。

変えていくときに、社内に細かなルールがあると変えにくくなるので、ルールを複雑にしないことは意識しています。逆に言えば、ルールを減らし、できるだけシンプルにすることで変化しやすい柔軟な組織になるわけです。

せっかくデジタルシフトしても不合理に陥る会社の実態

うちみたいな小さな会社からすると信じられない話ですが、一部企業では、メールの送信前に文面をプリントアウトして上司に印鑑をもらってからメールを送信するところもあるそうです。

すごくムダな気もしますが、なぜそうしなければならなくなったのかが気になります。日本企業の場合、おかしなルールがある時は大概、過去の失敗や不祥事があったからです。企業に限らず、僕が以前勤めていた役所もまさにそういうところでした。

流れとしては、「不正や失敗が起こる」→「議会で追求される」→「謝る&再発防止に努めると弁明」→「何かルールを作らなければならなくなる」→「ルールが作られ、業務が複雑化する」というのが定番のシナリオです。

そうして失敗や不祥事の数だけ社内にローカル・ルールができて縛られていきます。そしてそれが増えるほど汎用的なツールが使いにくくなり、デジタルシフトが難しくなっているわけです。

工場的な安全第一のカルチャーでルールに縛られる日本企業

一度起こった不祥事に対して対症療法的にルールを作ってしまうこと、それで「仕事した感」が出てしまうこと、これが問題です。これでは、不祥事を起こさないことの方が目的になってしまいます。

こういう「再発防止ルール」が教条化され、なによりも優先されてしまう日本企業全般に通底する空気感は、工場的な文化から来るものではないかと思ってます。工場にとって一番大事なものは安全。その徹底のためには相当なエネルギーをかけなければなりませんし、そういう「安全第一」が不可侵なものだという認識は社会全体に染みわたっています。

日本は、高度成長期に「世界の工場」としてものづくりで名を馳せ、その成功体験ででき上がっている国とも言えます。そして「安全第一」の考え方をベースにゼロリスク主義が社会全体でさまざまなものに適用されているのが今ではないでしょうか。何かあたらしいことを起こすことを許容せず、わずかなリスクも逃さず予防するルールがすべてに優先されているのが現状です。

製造業が強い時代が長かった日本全体が工場的な考え方に偏った結果、元々工場とはカルチャーが違う会社含めて社会全体が、安全第一の「ゼロリスク主義」になっているのだと思います。

一方で、世界のIT事業を牽引するGoogle社では考え方が根本的に違います。Googleマップのストリートビューが導入された時、日本では「人が写り込むことで嫌な気持ちになる人がいるはずだから、まずいだろう」などの反応が多くありました。

Googleはそれでも実行して、やがてストリートビューに写った人物の顔は自動的に消される仕組みになりました。このように批判を受け止めながらも実行するといった始め方ができるのは、失敗を恐れずトライ&エラーを繰り返すスピリッツがあることに加え、「ゼロリスク主義」ではないからだと思います。

組織の改革やデジタルシフトを進めるには?

僕はデジタルの専門家ではないので「デジタルシフトを進めるために…」という観点では発言しにくいのですが、「時代の変化に適応していくためには」という問いに置き換えて考えると、過去にとらわれないようにすることが必要なんじゃないかと思います。

一言でいうと「アンラーン(Unlearn)」の視点です。

企業というものは、過去に獲得した成功体験とそれに付随するノウハウや知識、有形無形のアセットの集合体であると言えます。そうしたアセットの中には前述のように工場や社員といったわかりやすいものもあれば、会社がつくったルール、あるいは強烈なカリスマ創業者の偉業そのものといった場合もあるでしょう。

そうしたアセットを教条化してしまっていないか、神聖視してそれらに反することはしてはならないと自らを縛ってしまっていないか、そこを気をつけるべきではないかなと思います。

僕は歴史が好きで、大学も歴史を学んでいたのですが、人類の過去の振る舞いには後世から見たら必ず、正すべき点、改めるべき点があるものです。

歴史上、偉人と言われる人であっても、後の世の常識からすると強く非難すべき点があったりもする。

企業においても同様で、過去に獲得したアセットの中には、必ず改めるべき点があるし、あるいは一から構築し直す必要がある場合もあるでしょう。

まして現代のように、膨大な量の情報が飛び交い、そしてあっという間に揮発していくような時代においては、過去に獲得したアセットの価値の陳腐化も加速しています。少なくとも、昔と比べるとアセットの賞味期限というものが驚くほど短期化している。

そんな前提を持てば、経営者はまず自社の過去のアセットに縛られずに未来に向けて自由に発想しやすくなるんじゃないかと思います。

過去に縛られず、新たに積み上げる。それがまさにアンラーンの視点です。

また、アセットの賞味期限が短くなっているということは、会社の構成要素としての社員(人間をアセットということに、個人的には抵抗がありますが、会社から見て)の賞味期限も(個人や職種によっても違うと思いますが、ざっくり大局的に見れば)短くなりやすくなっているということは言えると思います。

ですので、被雇用者も常にアンラーンの視点をもって学び続ける必要があると思います。

そうやって、過去に縛られず新しいことにどんどんチャレンジしていこうとする、チャレンジすることに喜びを見出すような経営者や社員が増えていけば、デジタルシフトに限らず、環境の変化に対応していきやすいのではないでしょうか。