CULTURE | 2020/02/28

「巨大スモッグ掃除機」が北京の大気汚染を救う!?オランダ人アーティストが世界中で進める「SMOG FREE PROJECT」とは何か

ダーン・ローズガールデ氏と世界最大級のスモッグ掃除機「Smog Free Tower」All Rights Reserv...

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ダーン・ローズガールデ氏と世界最大級のスモッグ掃除機「Smog Free Tower」
All Rights Reserved © Studio Roosegaarde

取材・文:6PAC

ダーン・ローズガールデ

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オランダ人アーティスト。ベルラーヘ・インスティチュート(The Berlage Institute)で美術を学び、建築学修士課程を卒業。2007年、スタジオ・ローズガールデ創設。代表作は、SMOG FREE PROJECT、VAN GOGH PATH、SPACE WASTE LAB。

高さ7mの「Smog Free Tower」でPM10から極微小なPM2.5粒子まで回収

地球温暖化や大気汚染など、環境問題に対する関心は高まる一方だ。大企業や各国政府などが主導して、さまざまな環境問題対策が取られているが、そうした動きとは違う角度からアプローチしているオランダ人アーティストがいる。アートを使って環境問題に一石を投じる作品を生み出し続けているのは、ダーン・ローズガールデ(Daan Roosegaarde)氏だ。

同氏は現在、世界各国で大気汚染を軽減するための「SMOG FREE PROJECT」を進めている。

北京のPM2.5による大気汚染を目の当たりにした同氏は、「Smog Free Tower」の開発に着手した。これは高さ7メートルのアルミニウム製のタワーで、風力発電で稼働し、1時間あたり3万立方メートルの空気を清浄するという装置だ。同氏は、「Smog Free Towerは、特許取得済の陽イオン化技術によりPM10から極微小なPM2.5粒子まで回収します。これを使えば、北京市内の他の地域に比べて20~70%以上きれいな空気を生み出すことができます」と話す。

2015年にクラウドファンディングサイトのKickstarterで資金調達を開始。5万ユーロ(約600万円)の目標額だったが、最終的には倍以上となる11万3153ユーロ(約1370万円)の支援を獲得した。

オランダのアイントホーフェン工科大学などと協力してSmog Free Towerの機能が検証された後、2015年にオランダのロッテルダムで初披露され、翌2016年には中国政府機関の協力を受け北京でテスト運用された。以降、天津、大連、ポーランド、オランダ、韓国、メキシコで設置されている。

これらのプロジェクトは、先述のクラウドファンディングで調達した資金に加え、環境問題に敏感な企業や世界各国の自治体からの金銭的援助、Smog Free Towerが回収したスモッグの粒子を圧縮し作った指輪「Smog Free Rings」の売上などで運営されている。

回収したスモッグの粒子を圧縮し制作した「Smog Free Rings」
All Rights Reserved © Studio Roosegaarde

その他にも、中国の大連では自転車のハンドルに取り付けたデバイスが汚染された空気をろ過する「Smog Free Bicycle」、メキシコでは空気をきれいにする屋外広告の「Smog Eating Billboard」が、プロジェクトの一環として実施された。

地球環境は汚染されたまま放置されている

自転車のハンドルにプラグインデバイスを取り付けて空気をろ過する「Smog Free Bicycle」。自転車は中国の大手シェアサイクル事業者のofoのものを利用。
All Rights Reserved © Studio Roosegaarde

「SMOG FREE PROJECT」の成果について訊いてみた。すると、「環境問題に関する議論は活発ですが、環境問題が自分の問題というよりは他人事化しているようで今のところあまり成功しているとは言えません。Smog Free Towerで私たちは大気汚染戦争に参戦しました。これは大気汚染に悩む地域の解決策です。人々がきれいな空気に対する関心を示し、共感し、違いを感じることができる場所でもあります。またSmog Free Towerは、きれいな空気をどうやって手に入れるか、またその重要性について語れる場所になるよう設計しています」という答えが返ってきた。

アーティストとしての信念を訊いてみたところ、「私たちは技術が不足している世界ではなく、未来がどうあって欲しいかという想像力が不足している世界に生きていると思っています。未来像をイメージできなければ到底それを実現することはできません。未知のものに対する恐れから立ち止まっているのが現状です。SMOG FREE PROJECTに代表される私たちの作品は、変化し続ける世界を可視化し、人々を活動的にし、解決策の一部になるために存在しています。私がどのように世界を見たいかの提案でもあります。ユートピアではなく、プロトピア(昨日より少しでも今日を良くしようとするあり方)として私たちを取り巻く世界を見せ、学び、失敗し、アップグレードしていくこと。なぜなら、人々は事実や数字では変わらないからです。しかし、新しい世界に対する想像力をかきたてることは可能です。それが人々を活動的にする方法です」と語ってくれた。

光触媒によって、日光に当たると汚染された粒子を引きつけるコーティングを施された「Smog Eating Billboard」
All Rights Reserved © Studio Roosegaarde

最後に日本人および日本社会に対してなにかメッセージがないか訊いてみた。

「私は理科の先生だった父のもとで成長しました。そのせいか、私は物理学の原理の虜になりました。ことあるごとに、私は父に“どうしてこうなるの?”とよく質問したものです。多くの子どもたちがそうするように。自分の夢に忠実であり続けてください。怖がらずに好奇心を持ってください。他の誰かが問題を解決するのを待つのはやめましょう。何事も可能だと信じて世界をよく見ましょう。私たち全員が好奇心を持ち、将来を思いやるのであれば、私たちの未来はより良くなるでしょう」。


スタジオ・ローズガールデ公式サイト

なお、3月29日(日)まで森美術館で行われている「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」において同氏が制作した、光に反応してスマートフラワーが開く「LOTUS MODEL」という作品が展示されている。興味のある人は観に行ってみてはどうだろうか。