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文:coolpolaris
寿司や天ぷらなど、日本人が最もよく食べる魚介類として知られるイカ。このイカに関する驚きの研究結果を、オーストラリアクイーンズランド大学の研究チーム(QBI)が発表した。
イカの脳は犬の脳と似ているというのだ。
イカと犬のニューロン数は猫の2倍
この研究は、2種類の高解像度MRI検査と染色技術を使用して、アオリイカの複雑な神経回路をマッピングして調べたもの。これにより、すでに知られている282の主要経路の99%以上を確認することができ、145の新たな神経経路を発見したとしている。
QBIの神経生物学者であるウェン・ソン・チョン氏は、「イカなどの頭足類は複雑な脳を持つことで知られており、それは犬に近い。ある種の頭足類は、5億個以上のニューロンを持っている。ネズミは2億個、正常な軟体動物は2万個程度なので、イカはそれらをはるかに凌駕する」と語る。
では、犬の実際のニューロン数はどのくらいなのだろう。これに関しては、2017年12月に学術サイト『Frontiers in Neuroanatomy』に掲載された研究が参考になる。米ヴァンダービルト大学教授の神経科学者、スザーナ・エルクラーノ=アウゼル氏ら、6カ国の学者が携わった研究だ。発表では、「大きさ・犬種の異なる2匹の犬の脳から、およそ5億個のニューロンが見つかった」としている。つまり、チョン氏が言うように、犬のニューロン数はイカのそれと同数だ。ちなみに、これは猫の2億5000万個の2倍に相当する。
もちろん神経系の複雑さが、知能の高さと正比例するわけではない。しかし、大脳皮質がかなり密集していることが知られている犬に、頭足類が勝るとも劣らないのは驚きだ。
視覚で得た情報が行動を左右している?
今回の研究で新たに見つかった145の神経経路のうち、60%以上が視覚系と運動系に関係していることも分かった。「これらの神経回路の多くが、敵から逃げ狩りをし、ダイナミックな色の変化で仲間とコミュニケーションをするために使われている。研究を進めることで、イカの巧妙なカモフラージュの技術を解明できるかもしれない」とチョン氏は期待を寄せる。
例えばイカは、上下どちらから見ても背景に溶け込むように、体の上下の色を変えてカモフラージュができる。これは、視覚に誘導されてできる、行動を司る新しいニューロンのネットワークによるものかもしれない。イカ同士が色を点滅させてコミュニケーションをとることも、この発見で謎が解けるかもしれない。
イカは好物のために食事を調整する
イカの頭脳の高さについては、別の驚きの研究報告もある。雑誌『BIOLOGY LETTERS』に掲載された研究によると、イカは好物が後で食べられることが分かれば、食事を調整してお腹のスペースを空けておくというのだ。
実験では2種類の水槽を用意した。イカに毎日エサである同量のカニを入れ、その他に好物であるエビを与えるというもの。1つの水槽には毎晩決まった時間にエビを1匹ずつ入れるパターンで、もう1つは時間を決めずにランダムに与えるパターンだ。
その結果、エビをもらえる時間が予測できる前者の場合、日中に摂取するカニの量が減少した。一方の、必ず与えられるとは限らない後者では、カニの消費量は変わらなかった。つまりデザートがあるときは、イカはその分の余地を残しているということだ。
また別の実験では、たっぷりのカニを与えた後に、好物のエビを入れる日と入れない日で比べた。結果は、翌日にエビがもらえると予測される日中のみ、カニの消費量が減ったのだ。これはイカの、適応能力の高さを証明する。変化する採餌条件に応じてフレキシブルに行動を変えることで、厳しい環境の中で生き抜いているのだ。
前述のアウゼル氏らの研究によると、ヒトのニューロン数は160億個にのぼる。イカより優れた知能の持ち主であるはずなのに、食べ物の調整や自制ができないヒトが多いのはなぜだろう。「デザートは別腹」で言い訳をしている人は、イカを見習った方がいいかもしれない。