CULTURE | 2020/02/06

骨の軽量化、遺伝子の変化、体温の低下。人間の身体は今なお進化し続けている

文:chopsticks
太古の昔と今では人々の暮らしがまったく異なるものであるということは、誰もが知るところだろう。...

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文:chopsticks

太古の昔と今では人々の暮らしがまったく異なるものであるということは、誰もが知るところだろう。しかし、身体の違いについてはどうだろうか。

実は人間の身体は絶えず進化を続けており、1万年前の人間と現代の人間の身体は大きく異なるものだと『INVERSE』が報じている。

人間の体温は下がり続けている

1868年、ドイツの医師により37度が「正常な」人間の体温と定められた。しかし、この体温の基準はもはや時代遅れになりつつある。

今年1月、『eLife』誌に発表された研究によると、人の平均体温は36.6度である可能性がずっと高いという。研究チームは、温度測定を含む過去200年間の医療記録を分析。その結果、記録を平均すると、人間の体温は10年ごとに華氏0.05度ずつ下がっていることを突き止めた。

本研究の統括著者でスタンフォード大学医学部教授のジュリー・パーソネット氏は、人間の体温低下は慢性的な炎症の減少と生活水準の改善に関連している可能性が高いと語る。また、多くの人が室内で快適に暮らすようになったことも、体温低下に大きな影響を与えている可能性があるとのこと。

ところで、体温低下は私たちの健康にどのような影響を与えるのだろうか。パーソネット氏によると、1日生活するために必要なカロリーが、19世紀に生きた人々より150kcal少なくて済むようになった、すなわち低燃費になったようだという。しかし、低燃費になったとはいえ、人々の食べる量は減っていないとのこと。必要以上の量を食べ、太りすぎてしまわないよう、十分注意したいところである。

遺伝子が常に変化している

プリンストン大学教授のジョシュア・アキー氏は、人間は、そのときどきの環境に適したものが他の個体よりも多く子を残していくという「自然選択」の影響を受けていると語った。「私たちの環境は1世紀前とは確実に異なっており、遺伝子と文化の共進化のようなものが、人類の進化の未来において重要な役割を果たすことになるだろう」とアキー氏。

例えばDHAを作るのに必要なFADS2遺伝子は、その集団の食事のベースが肉か野菜かによって複数の種類がある。例えば、何世代にもわたって菜食主義を続けているインドのプネーでは、FADS2遺伝子の突然変異の頻度が高まり、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸を効率的に処理し、脳の健康を促進しているという。

また、遊牧民が農民に、農民が産業従事者に私たちの生活が変化する中で、遺伝子の適応が起こっている。歴史的に都市化が進んだ地域では、結核耐性遺伝子の出現頻度が高いことが2010年の研究で明らかになった。この進化が過去8000年以内に起きた可能性があるという。

私たちの骨は軽くなり続けている

人間の骨は、ゴリラやチンパンジーなど他のヒト科の動物と比べて弱く、密度も低い。2015年の研究によると、ホモ・サピエンスの骨が弱くなり始めたのは約1万2000年前、つまり人々が農業を始めた頃だという。農業によって、人々の食事や身体活動が大きく変化し、その結果、骨格は軽くもろくなったというのだ。

また、2014年の論文でも、農業の台頭以来、人類の骨格がはるかに軽くなったことが明らかにされている。こちらの論文では、食事内容の変化ではなく、身体活動の低下こそがヒトの骨強度低下の根本原因であると主張している。そして、ヒトの骨強度低下は今後も続く可能性が高いという。

これらの研究に鑑みて、人間は自らの発明によって進化の速度を飛躍的に向上させるだろうという仮説を立てている科学者もいる。しかし、実際ところ、進化の速度が上がるかどうかは未知数だ。

ただ1万年後の世界では確実に、私たちの食事やライフスタイルは大きく変化していることだろう。その時の人間の身体は、現在の私たちとは大きく異なるものになっているのは間違いないだろう。