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日本はいずれ「移動」もガラパゴス化?MaaS化するヨーロッパの移動事情【連載】オランダ発スロージャーナリズム(17)
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  • 2019.09.20
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日本はいずれ「移動」もガラパゴス化?MaaS化するヨーロッパの移動事情【連載】オランダ発スロージャーナリズム(17)

いわゆるモーターショーらしいコンセプトカー。でも、EVです。

過去の連載はこちら

トヨタや日産などが出展しなかったことで逆に話題を集めた世界最大のモーターショー「フランクフルトモーターショー」がドイツのフランクフルトで開催されました。そこで今回はこのイベントから透けて見える自動車業界の動向と併せて、ドイツのスタートアップの聖地とでも言うべきベルリンなどのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)事情など日本と世界のモビリティ業界の違いをレポートします。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「自動車メーカーのモーターショー離れ」の現実?

フランクフルトモーターショーでのダイムラーグループの巨大展示場

すでにお聞き及びの方も多いかもしれませんが、今年のフランクフルトモーターショーは、実はびっくりするほどの規模縮小だったというのです。

トヨタ、日産など日本の誇る自動車メーカーが出展しなかったばかりではなく、プジョー、シトロエン、フィアット、マセラッティ、フェラーリなどの欧州勢も見かけませんでした。

今回、フランクフルトのモーターショーを初めて訪れた筆者は、ダイムラー(メルセデス)のブースというか、もはや完全な建物である会場の大きさに驚きました。前職の広告代理店時代には、クルマメーカーを担当させてもらっていたこともあって、東京モーターショーには毎回参加させてもらっていました。その時の感覚からすると、明らかにフランクフルトのモーターショーはその規模が違ったのですが、聞くところによると、このダイムラーでさえ前回の展示と比べると会場こそ同じものの、中身がかなりスカスカだったというのです。やはりダイムラーのお膝元、ドイツ・フランクフルトで開催されたモーターショーだと規模が違うなあ…と思ったのですが、実はそれは大きな勘違いだったようです。

展示規模の大きさということでは、同じくドイツのフォルクスワーゲングループもかなりの規模で展開していました。この辺りは、さすがにドイツでの開催、世界一のモーターショーだな、と感じるところでしたが、今回は一様に、ほぼ全てのメーカーが、やはりEVへのシフトを明確に打ち出していたように感じます。

というより、いまさらコンセプトとしてEVへのシフトを打ち出すということ自体が遅いのでしょう。すでに実用ベースのクルマでも、各社EVをかなり積極的に展示しており、もしかしたら、いわゆる「モーターショー」という呼称さえ、時代にそぐわなくなってきているかもしれません。

数年前に、アメリカラスベガスで行われているCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)という電気機器の見本市とでもいうべき展示会に、クルマメーカーが参加を始めましたが、車という産業自体が溶けてなくなってきていて、もはやエレクトロニックという巨大な市場に飲み込まれつつある感じがヒシヒシとします。EVへのシフトが遅れているメーカーなどは、参加するのが難しいのでは?と感じるほどです。

未来のモビリティ。もちろん100%EV

例えば、オランダではすでにテスラを始め数多くのEVを街中で見かけますし、EVの充電ポイントも、いたるところにあります。アムステルダムでは、すでにゼロエミッションゾーン(化石燃料で走る車が通行できない区域)を設けるなどしていますので、EVシフトは相当進んでいます。またEVを使用した新しいモビリティサービスが普及していますので、むしろEVではない車(従来のガソリン車)の新型の展示などは、冗談に思えてしまうところもありました。

また、今回のモーターショーが縮小していると言われる要因の一つに、世界的な金融恐慌から持ち直して以来、続いていたドイツの経済好調が少し曲がり角にきているのではないか?ということがあるようです。経済諮問会議が2019年の国内総生産(GDP)の成長率を、下方修正したり(1.5%→0.8%)ダイムラーや、BMWなどの大メーカーも、2018年度にすでに利益率が下がり始めているというデータがあったりするからです。またドイツ車の最重要マーケットである、中国での消費が陰り始めている、という話も聞こえてきます。一方で、こうしたメーカーも売上高は上がっているので、EVなど新世代へのシフトのための先行投資だという見方もあります。

そういえば、フランクフルトのモーターショーでは中国系のメーカー(関連サービスや、パーツ供給会社を含む)も意外と多かった印象です。

賑わう「未来のモビリティ」カンファレンス 

カンファレンスゾーンのメインスポンサーはフェイスブック

モーターショー内で、いわゆる自動車メーカーが展示を行うゾーンとは違う一角で開催されていたのが、「未来のモビリティ」をテーマにしたカンファレンスです。驚いたのは、こちらのメインスポンサーがフェイスブック。そのほか、グーグルやマイクロソフトなどもスポンサーとして参加しています。一瞬、ここがモーターショーだと言うことを忘れてしまう顔ぶれです。もちろん、クルマメーカーは出展などしているので、こちらにまでスポンサーとして参加することはないかと思いますが、実はこの巨大なモーターショー会場の中で、自分がもっとも興味を持ったのが、こちらのカンファレンスでした。

ここはMaaS関係やEV化以降のサービス提供を行うスタートアップなどを中心に、スピーチやワークショップ、自社サービスの展示など、顧客との商談や、ネットワークづくりをしているような場でした。

例えば、IBMがMaaSに取り組んでいる例として、生活者の移動データを全てクラウドに集めて、そのデータをもとに、各個人の移動を最適化するための提案を行う、といったサービスをフォルクスワーゲンと組んで行なっている事例がありました。フォルクスワーゲンが車に限らず、自転車や、キックスクーター、公共交通機関などを含めた、「個人の移動」におけるプラットフォーム自体になろうとする試みのように感じました。

クルマメーカーも、飛ばします。写真はダイムラーやインテル、ボルボの親会社のジーリー(吉利汽車)などが出資したドイツのスタートアップ、Volocopterが開発するドローンの模型。現在2人乗りで垂直離着陸できるドローンを開発し世界各国で実証実験を進めており、近い将来ドローンタクシー事業を始めるとか

一方、日本の現状に目を向けてみると、皆さんご存知のUberや電動キックボードを始め、シェアバイクなどのライドシェア系サービスは、今までのところかなり規制が厳しく、日本の市場にはなかなか入ることができていません。

しかし、アムステルダムやベルリンなどは、この手のサービス、いわゆるMaaS系は大流行です。ところで、MaaSとは日本語でいうと「サービスとしての移動」。「ITを用いて移動の最適化を図り、様々な交通手段を用いて移動の利便性を高めるサービス」といった感じでしょうか。ITとの親和性や、サステイナブル的な観点から、上記都市ではEVがこの手のサービスでメインに扱われることが多いのも特徴です。また、すでにMaaSは公共交通機関に変わるもの、あるいはその不便さを補うものとして機能しています。

アムステルダムやベルリンでMaaSが発展している理由として、都市の規模や、公共交通機関とのバランス、サステイナブルなサービス設計があった上で、住民の移動の利便性を圧倒的に高めていることが理由かなと感じました。もちろん様々な規制をクリアした上での話であるのは言うまでもありません。

一方で、日本のように規制が厳しすぎると、MaaS自体が発展することはなく、結果として自国発の企業が育たないだけでなく、そもそも新技術やサービスが提供されなかったりするなあと実感しました。

スタートアップのメッカ・ベルリンではMaaSも大盛況 

筆者が体験した相乗りタクシーサービス「CleverShuttle」。こちらも100%EVカーで、日産のEVをよく見かけました

今回訪問したベルリンでも、MaaSはまさに百花繚乱状態。もうベルリンに存在するサービスを把握することだけでも大変です。選択肢が多すぎるのです。日本の「○○ペイ」乱立状態に近いといえばわかりやすいでしょうか。

例えば、きちんとスーツを着たドライバーが高級車や大型車に乗ってやってくる配車サービスのBlacklane。市内のみで相乗りができるため、料金が通常のタクシーに比べてかなり安い相乗りタクシーのClevershuttle(クレバーシャトル)。こちらは料金が安いこともあり、終電を気にする機会が減ったことで若者の夜のライフスタイルを変革中です。

また、オールEVのみの少人数(2人)専門のシェアカーのCar2go、1分0.19€で乗れるEVシェアサービスのWe share、さらには電動キックボードのシェア、電気自転車のシェア、もちろん普通の自転車のシェアなどなど、ありとあらゆるサービスが乱立しています。ちなみに、どうやらベルリンっ子は利便性や金額の観点から、もはやUberは使わないという話も聞きました。

Clever Shuttleに乗ってみると、ドライバーの本職は警察官。こちらの運転手は、いわば副業。はい。かなり安心できます。

100%EVカーのシェアリングサービス「We share」

筆者もベルリンにて深夜帰宅の際にCkeverShtuttleを利用してみたところ、途中から女性が乗ってきて、先に降りて行きました。確かに多少の回り道はしたのですが、運賃はおそらく通常のタクシー移動に比べて、1/3くらいだったと思います。ドイツのスタートアップのメッカでもあるベルリンの場合、公共交通機関がイマイチ、という事情も相まってこれらのサービスが発展しているようです。

そして、すでにこうしたサービスに付随するサービス、例えば、前述のモーターショーで見たIBMとフォルクスワーゲンの試みである複数の移動手段を組み合わせて、選択できるプラットフォームなど)も生まれてきており、利用者としても新しい体験ができます。こうした技術革新やサービス革新がもたらす、新しい生活や体験が豊かなのが、今のベルリンやアムステルダムなのです。

おそらく、中国の深センなどでも同じようなことが起こっていると思いますが、こうなってくるとガチガチの規制や、強力なパワーを持っている既得権益層が強すぎる市場では、なかなか新しい技術・サービス革新が生まれないのだろうなあと思います。実際、オランダには元々自動車メーカーが存在しないので、楽々とテスラの誘致に成功したとも言われています。そして、こうした規制や、既得権益層が、そこに住む人たちの新しい経験をする権利を奪っているようにも感じました。そういう意味では、アムステルダムやベルリンは未来の都市かもしれません。

そして忘れてはならないのは、こうしたMaaSにBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンなど既存の大手自動車メーカーがこぞって出資、場合によってはサービス提供自体をしている点です。こうした動きは、日本の自動車メーカーにもなくはないのですが、トヨタがソフトバンクと共同でMaaS事業展開を「模索する」MONET Technologiesを立ち上げたのが2018年3月で、現在も実証実験を進めているフェーズですので、若干出遅れていると言えそうです。

BMWグループが完全子会社化したカーシェアリングサービス「Drive now」。街中で見かけます

こうした状況を鑑みるとこれらの分野でも、過去、幾度となく日本で繰り返されてきたガラパゴス化への道が見えるような気がしてなりません。縮小したとはいえ、フランクフルトのモーターショーで感じた日本の車メーカー不在もしかりで、今回のモーターショーや、MaaS周りでは、結構、世界との違いがあるなあと感じました。ガラケーから一気に世界がスマホに移行したように、ガソリン車からEVへ、あるいはMaaSへの移行が起こった時、日本はそれをリードする、あるいはついていける状態にあるのか?? 快晴の元、訪れたフランクフルトのモーターショーの規模に圧倒されつつ、なぜか少し暗い気持ちになりました。これらが全て杞憂に終われば良いのですが。


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