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茨城生まれのアフリカ系アメリカ人、ティファニー・レイチェルさんのストーリー
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  • 2019.08.26
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茨城生まれのアフリカ系アメリカ人、ティファニー・レイチェルさんのストーリー

2019©Tiffany Rachel

取材・文:6PAC

日本、アメリカを経由し大学進学で再び日本へ

2019©Tiffany Rachel

文化的にも宗教的にも多様な移民の国、アメリカに住んでいると、肌の色の違いはあるものの、“イントネーションも自然な普通のアメリカ英語”を話せれば特に外国人扱いはされないものだ。ところが、日本で生まれ育ち、“普通の日本語”を話すことができても、両親が外国人である場合、見た目の違いから高確率で外国人扱いをされてしまう現実がある。

アフリカ系アメリカ人のティファニー・レイチェル(Tiffany Rachel)さんは、英語の教師として来日したアメリカ人の両親のもと、1998年に茨城県で生まれ12才まで公立小学校に通った。2011年にアメリカのノースカロライナ州に引っ越して中学・高校に通い、高校卒業後の2017年に大学生として日本に戻ってきた。「茨城弁は“だっぺ”以外、忘れました」と笑いながらも、ごく普通の日本語を話す日本生まれの外国人、ティファニーさんのストーリーをご紹介する。

英語で取材する中、時々日本語が混ざって出てくる彼女が日本に戻ってきたのは単純に「日本が恋しかった」からだ。現在21才の彼女は、ペンシルベニア州フィラデルフィアに本校のあるテンプル大学のジャパンキャンパスで日本語を専攻している。日本語が母国語となっている彼女が大学で日本語を専攻している理由は、「アメリカに引っ越した後、日本語能力をほとんど失いかけたので、それを取り戻すため」だという。

幼少期は茨城県で地元の小学校に通い、成人した現在は神奈川県から都内の大学に通うティファニーさん。同級生は彼女を含めてたったの7人で、全校生徒合わせても60人しかいない小学校だったこともあってか、「茨城県にいたときは、地域の人ほとんど全員と顔見知りでした。人間関係が密だったので、どこに誰が住んでいて何をしている人かを知っていました。今は、知らない人だらけです」と、田舎での生活と都会での生活の違いを語る。しかし、「田舎で過ごした幼少期も楽しかったですし、成人してからの都会生活も楽しんでいます」とも話す。

日本時代は見た目の違いから疎外されたり、特別扱いをされたことはない

ティファニーさんのお兄さんの小学校入学は新聞記事にもなった
2019©Tiffany Rachel

ご両親、お兄さん、ティファニーさんの4人家族が住んでいたのは、当時人口2000人程度の茨城県城里町(旧七会村)。ティファニーさん一家が唯一の外国人居住者でもあった。ティファニーさんとお兄さんは、先述の通り共に地元の公立小学校へと入学。「自分が周りと違うなと感じたのは見た目だけでした。両親がアフリカ系アメリカ人なので、見た目の違いは明らかです。でも、文化的な面や行動的な面では、他の子どもたちとほぼ同じでしたし、周囲の人たちも同じ扱いをしていたと思います。見た目の違いから疎外されたり、特別扱いをされたことはありません」と語る。

とかく異物を排除しようとする力学が働くのが日本社会だが、ティファニーさんは日本の公立小学校でいじめられた経験はないという。ただ、彼女も同級生たちもお互いに、異なるものに対する興味・関心はあったようだ。「日本人の子たちは、私に英語について聞きたい、髪の毛に触りたいと思ったりしたと思います。アメリカでは“アフリカ系アメリカ人の女性の髪の毛に触れてはいけない”というルールがありますが、日本で女の子同士が仲良くなる手段の一つに、お互いの髪の毛をいじって遊ぶというものがあります。だから、髪の毛をいじられても不快な気持ちにさせられたとか、恥ずかしい気持ちにさせられたとかいうことはありませんでした。私もクラスメートの女の子の髪の毛をいじって遊んでましたし」と当時を振り返る。

2019©Tiffany Rachel

日本で小学校、アメリカで中学・高校を過ごした彼女に、同じ公立の学校でも違いはあったのか訊いてみた。すると、「まず、小学校と中学・高校はそれぞれ違うので、一概には言えませんが」と前置きしたうえで、「日本の学校の方がより“つながり”を感じました。小学校では、とにかく課外活動が多かったのを覚えています。書道大会、縄跳び大会、農作業、運動会、発表会、雪合戦、リコーダーを使った演奏会、学校の掃除、夏祭りなど。一方、アメリカの学校では、課外活動に参加することを考えることさえ、あまり気が乗りませんでした。他の生徒と馴染めるようにチアリーディングをしたり、バスケなどのスポーツをしたりしましたが、暇つぶし感覚でもあり、あまり楽しくはありませんでした。馴染んでるなとか、つながってる実感はなかったです」と、胸の内を語ってくれた。

好きな日本食は、ひじき、ごぼうサラダ、肉じゃが、納豆、そうめんなど

アメリカで生活していた時は日本の何が恋しくて、日本で生活している今はアメリカの何が恋しいのか訊いてみると、「(日本で生まれ育った)私にとって当たり前だった日本文化全てですね。日本食、地域の人々、自由、安全、清潔感などたくさんありすぎます。アメリカのものだと、Chipotle(メキシカンファストフード)、アップルソース、感謝祭が恋しいです」との答え。ちなみに彼女の好きな日本食は、「ほぼなんでも好きですが選ぶとしたら、ひじき、ごぼうサラダ、肉じゃが、納豆、そうめんです」とのこと。中でも、そうめんは「一年中食べられます」とのこと。アメリカの食べ物では、「チキンポットパイ、バナナプリン、七面鳥などの感謝祭の料理が大好き」だそうだ。

日本育ちのアフリカ系アメリカ人女性が、アメリカで感じたカルチャーショックの話は面白かった。「カルチャーショックはちょっとありすぎて、どこから話せばいいでしょうか。まず思い出すのは、子ども時代にアメリカに行った時の話です。母にお金を貰って兄と一緒にマクドナルドにいったのですが、ハッピーセットを注文したら店員さんに“何それ?”と言い返されてしまいました。日本では〇〇セットと言って注文しますよね。日本語の“セット”は英語からの外来語なので、当然通じるものだと子どもながらに思っていました。でも、英語では“ハッピーミール”なんですよね。“この店員さん、ちょっとおかしいかも”と、兄と顔を見合わせてしまったのですが、おかしいのは私たちの方でした」というエピソードを語ってくれた。その他にも、食べ物や飲み物のサイズ、体を使った愛情表現、アメリカの第二言語はスペイン語、皮肉、チップ、年長者に対する尊敬語の欠如、汚い言葉のカジュアルさといった点でカルチャーショックを感じたという。

仲の良い日本人の友人が2人、親友と呼べるアメリカ人の友人が2人いるという彼女に日米のガールズトークについて訊ねてみた。「日本人の友達とは、子どもの頃の昔話とか海外に行った時のカルチャーショック、深い内容の話もしたりします。アメリカ人の友達とは、レイシズム(人種差別)、野心、夢、5~10年後の将来について話したりします。悩みなどを本音ベースで話すのは、日本人の友達のほうが話しやすいかな。それでも、学校や教会が一緒だったということもあって、聖書の教えとか深い内容の話に関しては、アメリカ人の友達の方が話しやすい気がします」と話してくれた。

日本とアメリカ両国で、周囲の人たちからステレオタイプ的なレッテルを貼り付けられたことがあるだろうと思い、率直に訊いてみたところ、「ステレオタイプではありませんが、足が速かったので日本では身体能力が高いと見られていたと思います。一方、アメリカでは、見た目とか肌の色でレッテルを貼り付けられている感じがしました。アメリカでは、アフリカ系アメリカ人=声が大きい、口汚い、常に怒ってる、態度が大きい、知能が低い、文字が読めない、ゲットー、貧困、泳げない、スイカが大好き、フライドチキンしか食べない、皆ドラッグディーラー、犯罪者というレッテルが一般的でしょうか」という答えが返ってきた。

「国籍」と「アイデンティティ」のはざまで

2019©Tiffany Rachel

法的にアメリカ国籍で、自分でも日本人だと定義出来ないと言いつつ、自分のことを「アメリカ人というよりは日本人だと感じる」と話すティファニーさん。「なにより地元が茨城なので、日本を故郷と言ってしまうと思います」と言う彼女は、「日本の方が居心地が良い」とも言う。「アメリカにいると、さも大ごとかのように、私が誰かを定義付けするために“黒人じゃない”、“白人みたいに話す”、“お前は日本人だ”、“日本人じゃないくせに”などと言われます。私は“日本から来た黒人の女の子”として知られていました。それは確かにそうなのですが、レッテルを貼られている感じが嫌でたまりませんでした。私が私自身でいるという自由が奪われた気分になります。アメリカ人はアメリカのことを“人種のるつぼ”だと良く言いますが、“見た目=出身地”という思い込みが強いと思います。アジア系アメリカ人は、“生まれも育ちもアメリカ”ということを言っても、“本当の出身地はどこ”という質問を常にされます。私とアジア系アメリカ人のケースは逆ですが、同じようなものです。見た目は重要で、なぜなら、“真実”の多くが肌の色を通じて語られるからです。そして、それはレイシズムの一部です」と語る。

続けて、「アメリカで経験したことを茨城では経験しませんでした。見た目が明らかに他の人と違うので、アメリカで私が経験したこと以上のことが茨城で起きてもおかしくなかったと思っています。だから、日本に住んでいられることを、これまで以上に感謝しています。私の故郷は日本だと喜んで言うこともできます。基本的に、私がしたいように生きていられるのは日本の方です。アメリカで生まれ育った日本人にも同じことが言えると思います。生まれ育った文化が異なろうと、見た目が日本人の場合はそれ相応の社会的なプレッシャーがあるでしょうから、アメリカの方が居心地が良いと言う人もいると思います」と話す。

国籍に関して日本は父母両系血統主義(父母どちらかが日本国籍を有していれば子も日本国籍を選択できる)を採用している国なので、ティファニーさんのように日本が「自分が生まれ育った国」であるにも関わらず、両親共に日本国民でないがゆえに、アメリカ国籍となってしまうケースは彼女に限った話ではないだろう。ティファニーさんの話を訊いてみて、テニスの大坂なおみ選手や、元ミス・ユニバース日本代表の宮本エリアナさんのような人達が出てくるたびに、「日本人か否か」といった議論が出てくることを思い出した。肌の色や見た目ではなく、言語を含めた文化を共有できるか否かのほうが重要ではないかと、改めて感じた次第である。


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