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文:岩見旦
アメリカに蔓延する自己責任論を否定
アメリカの大手金融・経済メディアである『Bloomberg』に掲載されたオピニオン記事が、日本国内で大きな注目を集めている。
タイトルは「Stop Blaming America’s Poor for Their Poverty(アメリカの貧困を自己責任にするな)」。執筆したのは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の准教授のノア・スミス氏だ。
アメリカの保守派は「人々が一生懸命働き、薬物や暴力に依存しなければ貧困にはならない」と自己責任論を展開するが、スミス氏はこの意見に、日本を例に挙げ異論を唱えた。日本人は真面目であるにも関わらず「日本は貧困な人で溢れている」と訴えた。
日本人の勤勉さを数字で解説
スミス氏はまず世界各国の10万人当たりの殺人件数を比較。アメリカは5.3である一方、日本は0.3。日本は暴力から縁遠い国であることが分かる。
また、日本で薬物の訴追は年間1万3000件に過ぎず、しかもこの内3000件は海外で合法化が進む大麻によるもの。片親の世帯も少なく、シングルマザーは約71万2000人で全世帯の2%未満。一方、アメリカは約850万人だ。就業率も77%以上であり、アメリカを上回っている。
真面目な国民性の日本は貧困率が低いと保守派は考えているかもしれないが、実際は真逆であるとスミス氏。日本は国民所得の中央値の半分未満しか稼げない人の割合、つまり相対貧困率が15.7%もあると指摘。この数字はアメリカ(17.8%)より多少低いものの、カナダ(12.4%)、オーストラリア(12.1%)、ドイツ(10.4%)、と比較するとかなり高い水準だ。
日本の抱える貧困問題がSNS上で話題に
スミス氏は「日本の貧困は静かな問題」と明かす。街を見ると一見清潔だが、貧困で苦しんでいる人が大勢存在していて、全体の約14%にあたる350万人の子供が貧困状態にあると述べた。
また、社会福祉に充てる国内総生産の割合を世界で比較すると、日本はほぼ中央にランクインしているものの、その多くは健康保険制度によるもので、福祉に関して日本はヨーロッパに大きく遅れを取っているという。
スミス氏は「アメリカの高い貧困率に対する解決策は、自己責任や道徳的な誠実さとは関係ないでしょう。アメリカは解決策のアイデアをヨーロッパやオーストラリア、カナダに求めるべきです。強力なセーフティネットに代わるものはありません」と結論づけた。
この記事は日本国内でも大きな話題を呼んでおり、SNS上には「貧困は自己責任じゃない」「日本は一部の富裕層を除いて、貧困国に入りつつあると思い知らされた」「こういう取り上げられ方をされる国になってしまったか」「貧困を根性論で片付けたい人もいますが、根本的な元凶は構造の問題」などの意見が挙がった。
世界第3位の経済大国である日本にとっての貧困問題は、とどのつまり格差社会の問題だ。大企業や高所得者優遇の政策は、問題をさらに深刻化させるだろう。貧困問題は政治が真っ先に対策を講じなければならない問題だ。