CULTURE | 2019/07/31

今、AORを語る意味とは?【連載】西寺郷太のPop’n Soulを探して(11)

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さまざまなジャンルについてミュージシャン西寺郷太さんとFINDERS編集長の米田が語り合ってきた当...

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さまざまなジャンルについてミュージシャン西寺郷太さんとFINDERS編集長の米田が語り合ってきた当連載。今回は渋〜いところで、AOR、つまり、Album-Oriented Rock(アルバム・オリエンテッド・ロック)、もしくは、Adult-Oriented Rock(アダルト・オリエンテッド・ロック)の略語とも言われる音楽のジャンルの名曲を郷太さんがセレクト。さて、その選曲とはいかに?

聞き手:米田智彦 文・構成:久保田泰平 写真:有高唯之

西寺郷太(にしでらごうた)

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1973年、東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成し、2017年にメジャー・デビュー20周年を迎えたノーナ・リーヴスのシンガーにして、バンドの大半の楽曲を担当。作詞・作曲家、プロデューサーなどとしてSMAP、V6、岡村靖幸、YUKI、鈴木雅之、私立恵比寿中学ほかアイドルの作品にも数多く携わっている。音楽研究家としても知られ、少年期に体験した80年代の洋楽に詳しく、これまで数多くのライナーノーツを手掛けている。文筆家としては「新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち」などを上梓し、ワム!を題材にした小説「噂のメロディ・メイカー」も話題となった。TV、ラジオ、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在NHK-FM「ディスカバー・マイケル」、インターネット番組「ぷらすと×アクトビラ」にレギュラー出演中。

スーパー・シンガーじゃない人が好まれるジャンル

米田:少し前から「ヨット・ロック」というサブジャンルが持て囃されてますよね。AORや日本のシティポップなどもその範疇ですけど、これはまあ、日本でも海外でも盛り上がっているところで、今年は『ヨット・ロック AOR、西海岸サウンド黄金時代を支えたミュージシャンたち』っていう本も出版されました。

このジャンル名自体は、アメリカで2005年から10年にかけて制作された『Yacht Rock』という、モキュメンタリーの自主短編映画がきっかけで誕生し、2000年代から10年代にかけて徐々に再評価熱を高めています。近年、こうした音楽性を取り入れた作品としてはダフト・パンク『Random Access Memories』(2013年)、サンダーキャット『Drunk』(2017年)などが大きな話題となりました。

ちなみに映画の内容はドゥービー・ブラザーズやホール・アンド・オーツなどの名曲誕生秘話を面白おかしく描くというもので、現在でも全編YouTubeで視聴できます。ちなみにTOTOが参加したマイケル・ジャクソン「Human Nature」の回(第5話)もありますよ。

『ヨット・ロック』はボズ・スキャッグス、スティーリー・ダン、TOTO、アメリカ、ホール・アンド・オーツなど、AORシーンの重鎮を筆頭に総勢53名のインタビューが掲載されており、70年代から80年代にかけての音楽シーンを振り返った貴重な証言集となっている。

西寺:そうみたいですね。

米田:AORというと、僕なんかはボズ・スキャッグスとかスティーリー・ダンとか、幼い頃はそのへんぐらいしか知らなくて、パンク〜ニューウェイヴ少年だった自分からすると、割と大人が聴く音楽というか、思想的にちょっと違うなっていう感じがあったんですけど、20代後半ぐらいになってから聴いてみたら、すごくいいなあって思えるような部分があって。郷太さんは昔から好きでした?

西寺:ボズ・スキャッグスは中学時代からずっと好きでしたね。大学一年の頃は中野サンプラザでの来日公演にバイトとして入って。大好きです、ってボズに話しかけたこともあります。でもね、いわゆるヨット・ロックであるとかAORとかっていうのをすごくいっぱい聴いていたかと言えば、そういうリスナーではなかったですね。ネッド・ドヒニーも大好きですけど、それって自分がプロになってから、「郷太くんに声が似てる」って言われて聴き始めたんで。

米田:ああ、たしかに歌声は似ているかも!

西寺:「ネッド・ドヒ似〜」って言われたんですよ(笑)。「ドヒにいに」って発音するとイタリア人みたいですけど(笑)。確か、当時HARCOって名乗ってた青木慶則くんが言ってくれて。嬉しいなと。

このへんの音楽って、GREAT3の片寄(明人)さんとか、僕よりも年上の先輩たちが詳しかった気がしますね。90年代初頭、アナログを買い集めてたり。ノーナだと、奥田とか小松の方が詳しいです。ヨット・ロックって、なんとなくギラギラした「スーパー・シンガー」じゃない方が好かれるというか。例えばギタリストが歌ってみましたとか、キーボードがメインなんだけど歌いましたとか。演奏主体なものが割と多いような気がして。僕も例えば、ドナルド・フェイゲンみたいなスタイルにはもちろん憧れてるんですけどね。いわゆる「ヴォーカリスト」というよりは、作品主義というか。僕がソロ・アルバム(2014年作『Temple St.』)を作った時も、『The Nightfly』(1982年作)みたいにしたいなって。

米田:その『The Nightfly』は、音質とか音像という部分で「レコーディングの基準」みたいなことをよくミュージシャンの人が言ってますよね。やっぱり郷太さんからみてもすごいアルバムですか?

西寺:ジャケットやコンセプトも含めて、最高ですよね。僕は世代的にまず『The Nightfly』を入口にして、その後、スティーリー・ダンにハマった感じで。大学生の時は、音楽サークルの周囲が皆やっぱりスティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲン好きで。1993年に、11年ぶりにセカンド・ソロ・アルバム『カマキリアド』が出たのも大きかった気がします。再ブームというか。当時は、プラスティックで冷たい音に驚きましたけど……。『Kamakiriad』は、特に。高校時代には、スティーリー・ダンのマニアなんてもちろん周りにはいなくて。バンドブーム全盛でしたから、当時は邦楽ロックバンドかパンク、ハードロックばかりで。ただドナルド・フェイゲン『The Nightfly』には、MTV的な観点もあったんで僕だけが夢中だったって感じでした。

米田:ですね。僕らの世代はだいたいそうだと思いますよ。

80年代のポップス・アルバムにちょくちょく紛れていたAORの香り

西寺:あとはその、僕らが高校生の時にタバコ、「パーラメント」のCMでボビー・コールドウェルの曲が効果的に使われてて。そこで流れてた「Heart of Mine」っていう曲は、元々ボズ・スキャッグスに書いた曲だったんですけど、80年の『Middle Man』(1980年)以降しばらくお休みしていたボズが『Other Roads』(1988年)っていう「Heart of Mine」が入ったアルバムで復活する。しばらく沈静化していたAORというジャンル自体もちょっと巻き返したタイミングが、80年代後半から90年代初頭。僕もその頃、熱心に聴きましたけど、「AOR 」というより、いわゆる「ブルー・アイド・ソウル」として聴いてたんじゃないかな。ボビー・コールドウェルやボズ・スキャッグスは。ボビーは、僕の地元・京都にもコンサートに来てくれて。その時、話しかけました。すぐしゃべる(笑)。

米田:へえ〜、郷太さんはいろんな人にしゃべりかけてますね(笑)。U2もそうでしたけど。

西寺:U2は、新宿駅で偶然でしたけど(笑)。今度、来日公演一緒に行くことになりましたね!米田さんと(笑)。誘って下さってありがとうございます。

米田:いえいえ、とんでもない。郷太さんと一緒に行けるのが楽しみです。

西寺:まぁ、ともかくそんな感じで、今振り返ってみると自分の中での「AOR」最初の体験は、たとえば『フットルース』って映画のサントラのなかにカーラ・ボノフの「Somebody's Eyes」ってめっちゃ好きな曲があって。あの曲の世界観は、かなりAORな気がしますね。『ウィ・アー・ザ・ワールド』のコンピレーション・アルバムに収録されていたスティーヴ・ペリーの「IF ONLY FOR THE MOMENT GIRL」とか。あとはワム!『メイク・イット・ビッグ』に入ってる「LIKE A BABY(消えゆく想い)」とか。アダルトなスパイスをまぶした曲が80年代のポップス・アルバムの中にはちょくちょく紛れていて。シングルより全然好きになったり。なので、「AORが好きなんです!」「ヨット・ロック」のファンですっていうのとは違うんだけど。

今回、改めて質問されたんで考えたんですけど、やっぱり基本はスーパースター、エンターテイナー、絶対的なシンガーの存在や、派手なパフォーマンスって強いな、と。ただ、「Adult-Oriented Rock」、「ヨット・ロック」って「音楽そのものが主役」っていう気がして。ライブにしてもダンスとか照明、舞台装置やメイクアップでなく、あくまでもミュージシャンの演奏を味わう、というか。

そういう意味で今にして振り返ると、僕の聴き方や好きなアーティストって「リズム感の良いヴォーカル」と「良いドラム」に執着してるなぁ、と。カレン・カーペンターしかり、マイケルやプリンスやスティーヴィー、レニー。ドラムやパーカッション出身だったり、実際ドラムが上手いヴォーカルが多いんですよね、僕は好きな歌手は。リズミックかつ、沁みてくる。なんでいわゆる「AOR」愛好家の方とはズレてると思います。 ただ、僕なりの観点で大好きな「Adult-Oriented Rock」を選んでみました。ぜひ聴いてみて下さい!

【西寺郷太さんによるプレイリスト全24曲への一言コメント】
TOTO「Waiting For Your Love」
TOTO、個人的ベスト3は「Georgy Porgy」と「Africa」とこの曲ですね。

フィル・コリンズ「I'm Not Moving」
フィル・コリンズって過少評価されてますけど、いい時は本当にいいんですよね。最初に観たのがジェネシスの「インヴィジブル・タッチ・ツアー」で。なにげなく影響されている気はします。

ボズ・スキャッグス「A Clue」
ボズの中でも指折りに好きな曲。

カーラ・ボノフ「Somebody’s Eyes」
下手したら50回くらい連続で聴いてしまいます。今でも、たまに。

サンダーキャット「Show You The Way」
2010年代で好きな曲ベストテンに必ず入りますね。ベースの響きやリズムが悔しいぐらいにクール。

ノーナ・リーヴス「Sad Day」
サンダーキャットのイメージを自分たちでもできないかなと思ってトライした楽曲。ドラムとベースの「画素」の絶妙に心地よいズレを目指しました。

エルトン・ジョン「Bennie and the Jets」
僕の中では最高のAORですね。エルトンで一番好きです。かっこ良すぎる。

U2「Stay(Faraway, So Close!)」
U2はFINDERSと切っても切れない存在なので(笑)。「Stay」は作詞家としてセブンイレブンというワードを冒頭に持ってきたボノのセンスに痺れます。

ボビー・コールドウェル「What You Won’t Do For Love」
この1曲だけでも歴史に残るでしょう。ボビーは。

ワム!「Like a Baby」
自分でもNONA REEVESでカバーしました。大好き過ぎます。

マイケル・ジャクソン「Baby Be Mine」
『Thriller』には、AOR的なムードな曲が意外に多くて。これはブラック・コンテンポラリーでもあり、カリフォルニアっぽさがちょうどいいんですよね。

ディオンヌ&フレンズ「That's What Friends Are For」
バカラック最高。ライブで観た時、泣きました。

ケニー・ロジャース「You're My Love」
プリンスが提供した曲を、ジェイ・グレイドンがプロデュースしてます。最近、プリンス版のデモが『Originals』に収録され発表されました。

ドナルド・フェイゲン「Snowbound」
『Kamakiriad』で一番好きな曲ですね。大学時代の空気感を思い出します。

キース・リチャーズ「Make No Mistake」
いわゆる「ヨット・ロック」の概念からは外れるかもしれませんが、キースの『Talk is Cheap』は、僕にとって最高のAORです。

レミー・シャンド「Take A Message」
モータウンからリリースされた1stアルバムは、夢中になって聴きました。2000年代ベストテンには入る曲。

チャイルディッシュ・ガンビーノ「Redbone」
この曲も2010年代ベストテンに必ず入りますね。悔しいやら羨ましいやら。

ボブ・ディラン「You're a Big Girl Now」
ディランのアルバムで最も好きなのが『Blood On The Tracks(血の轍)』。特にこの「君は大きな存在」は、僕のフェイバリットです。

ザ・ポリス「Wrapped Around Your Finger」
1番好きなバンドは?と聞かれたら、ザ・ポリスと答えるかもしれません。ラストアルバム『Synchronicity』は、さまざまなリズムに満ちた金字塔。

ジャミロクワイ「Stillness in Time」
92年に上京し、大学生になった自分にとって、ジャミロクワイは学生生活の思い出の中に完全に刻まれています。恵比寿ガーデンホールで観たジェイ・ケイとバンドの衝撃は忘れられません。

ガイ「Dancin'」
西寺的2000年代ベストテンにこの曲も必ず入ります(ヨット・ロックの概念からは完全に外れますが、ガイが好きなので選んでしまいました)。

スティービー・ワンダー「I Love You Too Much」
80年代のスティービー・ワンダーは過小評価されていて、その理由ももちろんわかるんですが、この曲は彼のオールタイムキャリアの中でも僕はベストのひとつだと思ってます。ノーナ・リーヴスのアルバム『未来』では、同じアルバムから「ゴー・ホーム」をカバーしました。

ダフト・パンク「Fragments of Time」
2013年にダフト・パンクが『Random Access Memories』をリリースしてくれたことが、それ以降のポップミュージックを豊かにしてくれたと感じています。『Off The Wall』期のドラマーであるジョン・ロビンソンや、ギタリストのポール・ジャクソンJrなど、マイケル人脈も多数起用されています。

ジャクソンズ「Fragments of Time」
ファレル・ウィリアムスが、マイケル生前に電話インタビューした際、大好きな曲だと伝えたグルーヴチューン。マイケルがファレルに「そんな曲よく知ってるねえ」と嬉しそうだったことをよく思い出します。


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次回の公開は8月20日頃になります。