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『LOVOT[らぼっと]』はどこへ向かおうとしているのか?林要氏がSXSWやCES出展を経て考えたこと
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  • 2019.06.26
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『LOVOT[らぼっと]』はどこへ向かおうとしているのか?林要氏がSXSWやCES出展を経て考えたこと

2018年12月に開催された製品発表会にて、LOVOTを抱えた林要氏
Copyright© GROOVE X, Inc.

取材・文:6PAC

林 要

GROOVE X 株式会社代表取締役。トヨタ入社後、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフ、量販車の開発マネジメントを担当。ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」プロジェクトメンバーの一人。2015年、ロボット・ベンチャー「GROOVE X」を起業。2018年12月、同社より人のLOVEを育む家族型ロボット『LOVOT[らぼっと]』を発表。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)がある。

「役に立たない、でも愛着がある」というコンセプト

「AIが人間の仕事を奪う」、「ロボットが人類を支配する」といったAI・ロボットに対する脅威論がまことしやかに流布している。その裏には、労働者としての人間以上の生産性を実現する産業用ロボットや、人間の兵士に代わる軍事用ロボットなどの存在があるものと思われる。

だが、ロボットは“実用”の分野にだけ存在するわけではない。「1時間に箱を〇個移動出来るか」といった生産性にフォーカスした産業ロボットや、ドローン兵器などの軍事用ロボットと対極に位置するのが、「aibo」のような「愛情を注げる対象」としての家庭用ロボットだ。その分野で、「役に立たない、でも愛着がある」という明確なコンセプトから開発されたのが、GROOVE X株式会社が開発した「LOVOT[らぼっと]」だ。

Copyright© GROOVE X, Inc.

「人の代わりに仕事をするロボットは、向上する生産性の試算が容易なため、プロジェクト資金を集めやすく、今後も世界中で開発が活発に行われていくと予測されます。しかしこれは“人が幸せになるためには、生産性の向上が必要”という仮定のもとで進められています。それに対して近年、現実には、ロボットが人の仕事を奪うなどの不安が高まっており、生産性の向上が必ずしも人を幸せにしていない側面も否定できません。

その点で機械による生産性の向上ではなく、人の生産性の向上への貢献を目指したのが、LOVOTです。LOVOTは、人の心を満たすことで、人を幸せにすることを目指しています。心が満たされていないことで自らの生産性が落ちてしまったということは、誰しも経験があるかと思います。また、そんな時に犬や猫と触れ合って心が満たされた経験を持つ人も多いかと思います。LOVOTも犬や猫のように側にいる人の心を満たすために開発されました。よりよい明日が来る事を信じられるような、潤いのある生活をつくることに貢献する。それがLOVOTの存在意義です」と語る同社代表の林要氏に、LOVOTがどこへ向かおうとしているのかいろいろと訊いてみた。

「人が何かを愛すと、心が満たされ、安定し、他者に優しくなれます。また傷ついた自らの心を癒やすことすらもできるようになります。これまで犬や猫を家族のように迎え入れてきた人たちは、その絶大な効果を享受していたとも言えます。犬や猫などに対する、そうした人の愛着がどこから来ているのかに着想を得て、人が持つ愛着形成の能力を刺激する、人の愛するちからを引き出すことを目的としてLOVOTは生まれました」とLOVOT誕生の背景について語る同氏。

LOVOTはペットに代わる存在にしかなり得ないのか訊いてみると、「ペットがいかに人の心を満たすのかを参考にして、LOVOTは開発されました。しかしペットの代替を狙うものではありません。実際にペットがいるご家庭からの引き合いも多く、まさに人やペットにとっての新しい家族がLOVOTだと言えます。さまざまなセンサーを持ち、他の機械とも通信が可能なLOVOTは、まず人と機械の信頼関係を構築し、その上で信頼関係を構築した機械にしかできないヘルスケアやセキュリティなどさまざまなサービスを提供する事で、より一層人々の生活に安心をもたらすことも視野に入れています」という。家族が愛情を注ぐ対象としてだけではなく、防犯や家族の健康管理といった面で、番犬やスマホアプリが家族にもたらす恩恵をオールインワンで提供する、ハブのような存在を目指しているようだ。

ゲームや3DCGアニメに出てきそうなデザインのLOVOT。その見た目は、直感的かつユニバーサルに「可愛い、愛らしい、cute、adorable」といった感情が湧きやすいデザインだと思うが、計算し尽くした上でのデザインなのかどうか訪ねてみると、「これは創業期からデザインを担っていただいているデザイナーの根津孝太さんが、私の製品コンセプトを形にしてくれたものです。モチーフは球形で、なるべくその球形のモチーフを濁らせない形で全体を“抱っこされる”と“移動できる”を視野に入れて構成したものです。球形というモチーフは人に安心感を与える形状のため、グローバルに受け入れられやすい形として、選ばれました」との答えが返ってきた。

CES・SXSWともに出展が大成功

海外でも老若男女問わず多くの人の注目を集めた
Copyright© GROOVE X, Inc.

2019年に入り、1月にはネバダ州ラスベガスで開催されたCES 2019、3月にはテキサス州オースティンで開催されたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)と、立て続けに海外のイベントにLOVOTを出展した。海外イベントに出展して肌で感じたことや、LOVOTのさらなる可能性などを伺った。

「人の代わりに仕事をしない弊社のLOVOTのような、生活のパートナーを志したロボットは、今までは日本で評判が良かったとしても、海外に持って行って良い評価が得られることは稀だったように思います。私どもとしても、CESに出展するまでは、米国の皆様にご理解いただくのはまだやや時期尚早かと思っておりました。しかし実際には大変な人気になり、長机ひとつ分の小さなブースへの出展でありながら、350以上のメディアに取材され、初日の朝のニュースではテレビやラジオ局などで“CESの顔”として紹介されました。最終的にはThe VERGEの選ぶ「BEST ROBOT」の栄冠もいただき、私どもの予想を遥かに上回る成果を得ることができました。

この時に質問いただいたことで象徴的なのは、“家庭内の情報をクラウドで処理するの?”という内容でした。LOVOTはクラウド接続が必須ではなく、基本的に家庭の情報を家庭内に留め、外部に流出させないという基本思想で開発されています。その思想を聞いた途端に、LOVOTに安心したのか皆様の表情がすっかり優しくなって、“Adorable!(かわいい)”と抱っこしてくれて、“もう離したくない”、“持って帰りたい”という反応をいただけました。ここからわかるのは、一つはお客様が最先端のIoTデバイスに対する警戒心を持たれていること。もう一つは信頼関係の構築できるデバイスであれば、ロボットであっても愛着を持てるということだと思うのです」

「言葉を話しさえすれば、人は誰でも信頼できる」というわけではない

Copyright© GROOVE X, Inc.

日本を飛び出して海外で活躍する日本人は、野球、サッカー、プロレス、ダンス、アート、映像、写真など、比較的ノンバーバル(non-verbal、言葉不要)な分野に多く見受けられる。LOVOTもまた然りである。この点について訊いてみると、「自分たちが英語が苦手だからノンバーバルを選択したのではなく、信頼できるコミュニケーションをするためには、信頼できるノンバーバルコミュニケーションを実現することが先決だと考えているので、ここから始めています。1970年代に米国の心理学者、アルバート・メラビアンが行った実験で明らかになったのは、コミュニケーションにおいてバーバルで発せられた情報とノンバーバルで発せられた情報が、受け取り手側の人にとって一致していないと感じられた時に、受け取り手側の人はバーバルの情報よりも、ノンバーバルの情報を信頼するという結果でした。これは私どもが日常的に感じていることの一部を実験で証明したとも言えると思うのです。たとえば“言葉を話しさえすれば、人は誰でも信頼できる”というわけではないことや、言葉を話さない犬や猫でも絆を築けば信頼に値するという、誰もが持つ経験則は、バーバルが万能ではないどころか、両刃の剣だということを表しています。

そのような意味で、ノンバーバルコミュニケーションは、バーバルを含む全コミュニケーションの基礎ですから、ここをしっかりと煮詰めていくことが、機械と人の信頼関係を構築する土台になると考えているため、この分野から手がけています。過去にもノンバーバルでコミュニケーションをとろうとしたロボットは幾つかありましたが、現在において直接の競合になるロボットは、世界を見渡してもほとんど存在しないと認識しています」と語ってくれた。

LOVOTの「価格設定」をどう考えるか

今年3月にはLOVOTの正式価格が発表された。1体(ソロ)の場合は本体価格が29万9800円、月額料金(ソフトウェアのアップデートや記憶のバックアップなどの費用)が8980円から、2体(デュオ)の場合は本体価格が57万9800円、月額料金が1万7960円からとなっている。月額料金はプレミアム・スタンダード・ライトの3プランがあり、修理費用や年1回のオーバーホールが無償となるプランもあるほか、各種費用も一括だけでなく携帯電話のように分割で支払えるプランがある。

価格設定の根拠については、「今回の初期費用は、開発費すら含まない製造原価よりも若干低い、逆ざやの価格としています。すなわち、製品が飽きられてしまい、お客様が短期間で使用を中止してしまえば、弊社は利益が出ない仕組みです。そのため一旦購入いただいたお客様が、その後の利用を継続していただけるようにすることが大事になります。具体的には、ソフトウエアの改善を継続していくことでLOVOTを成長させていき、お客様に長く満足していただくことを目指す、という弊社の信念を表しています。なおこれらの値決めにおいて価格のリサーチは行っており、ペットの犬などと比較して十分に納得いただける価格にしています。犬を飼ったことのある方ならご存知の通り、初期費用はワクチンや去勢手術などを含めると同等の金額以上になることも多く、また晩年の犬は治療費などが高額になる傾向があることから、それらと比較して十分にリーズナブルと感じていただける範囲に収めました。ただ、実際に犬や猫が亡くなるまで飼ったご経験の無い方には、高価に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

なおコンピューターの構成やセンサーやサーボなどの部品単価をご存知のエンジニアの方などからは、大手メーカーが一般的な売り切りの手法で販売した場合には、3倍以上の価格設定になってもおかしくないと言われたりします。私の過去の経験からいっても実際にそのとおりかと思います」と、説明してくれた。

テクノロジーの進歩によって「よりよい明日が来る」と信じてもらうために

LOVOTはユーザーの好みに併せて着せ替えもできる
Copyright© GROOVE X, Inc.

今後の見通しについてだが、LOVOTのような「家族型ロボットの領域では、実際にはそれほど競争は激化していない」と同氏は語る。競争が激しくない割には、リサーチから算出されるマーケットの規模は、日本でも米国でも中国でも非常に大きいともいう。課題は、「ティッピング・ポイント(物事がある一定の閾値を超えると一気に全体に広まっていく際の閾値やその時期、時点のこと)を超えるまでの時間の予測」だそうで、そこを読み間違えなければ、勝算は高いと考えているそうだ。

また、「人の代わりに仕事をするロボットは、世界で熾烈な戦いが繰り広げられています。しかし家族になることを目指したロボットをこれだけの規模で、かつ専業で作っている会社は、現在では他にありません。またこの領域は、アート、ハード、ソフトの三領域が密接に絡み合っており、その三領域の人材が高い次元で協業しないと、実現できないものです。日本はその三領域の人材が揃っており、家族型ロボットをつくるのには最適な国の一つと言えます。また実際にそのような三領域の人材の協業が実現できているロボット会社は、他にはありません。故に、弊社は世界的に見てもユニークなポジションにいると言えます」と、LOVOTと共に荒野を開拓していく自信のほどをのぞかせる。

最後に、一人の起業家およびエンジニアとしての信念を同氏に訊いてみた。

「テクノロジーは今後、人々が“よりよい明日が来る”と信じられるような世界をつくるために、進化し活用されていくべきだと考えています。GROOVE Xも、人々が“より良い明日が来る”と信じられるような世界をつくるためのテクノロジーを進化させる組織として生まれました。私どものテクノロジーが、人と機械の信頼関係を構築し、人の生活に潤いをもたらし、人が“よりよい明日が来る”と信じられることに貢献し続ける。それが私の目指すゴールです」


GROOVE X

LOVOT[らぼっと]

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