CULTURE | 2019/06/18

世界レベルでバズってしまうとどうなるのか。人肉小銭入れがニューズウィークを筆頭に世界中をザワつかせているDJのdooooさんに訊いてみた

取材・文:6PAC

doooo(ドゥー)
DJ/プロデューサー
岩手県出身。13歳の時、兄の部屋から流れてきた...

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取材・文:6PAC

doooo(ドゥー)

DJ/プロデューサー

岩手県出身。13歳の時、兄の部屋から流れてきたアイスキューブを聴きHip Hopと出会う。クリエイター集団CreativeDrugStoreに所属し、様々なアーティストにトラック提供を行う。2016年、自身初となる12inchレコード「STREET VIEW / PURPLE FLOWER」をリリースし、シングル曲ながらも2,000円という高値で販売した為に各方面から批判を浴びる。
2017年11月に1stアルバム『PANIC』をリリースし、ジャケットに人肉MPCを使用した為、リスナーの皆様から引かれる。その他に嫁の肩もみ、買い物の手伝いなど、精力的に活動を行っている。

「人肉小銭入れ」のツイートが約1450万回再生され、海外メディアも取り上げる

doooo氏
©Yohji Uchida

仕事柄、英語圏のインターネット上で話題になっていることを追いかけることが多いのだが、本当に話題になっているのかを測る目安として、SNSの「いいね!」の数などを参考にすることがある。Twitterであれば10万単位の「いいね!」、YouTubeならば再生回数で1,000万回以上といった感じだろうか。この数字はあくまでユーザー数が軽く日本の10倍以上と言われている英語圏の話なので、日本国内では10分の1程度に考えるのが妥当かもしれない。

規模の小さい日本語圏からは、言葉や文化の壁もあってか、世界中で話題になる事案は多くない。感覚としては、Twitterで1万程度の「いいね!」でも、「バズっている」と認識されるようだ。それでも年に数件程度は、世界レベルでバズる日本発の事案が出現する。最近も、精巧な作りの人肉(風)小銭入れを動画付きで紹介する日本語ツイートが世界レベルでバズった。

『ニューズウィーク』が記事にするなど、Twitterだけではなくメディアにも飛び火し、世界レベルでバズってしまった人肉小銭入れを制作した張本人である、DJ/ビートメイカーのdoooo(ドゥー)氏に話を訊いた。

MADだけどキャッチー。怖いけどついついまた見てしまう

2017年にリリースされた1stアルバム『PANIC』のジャケット

「怖いもの見たさですかね」と、世界レベルでバズってしまった要因を自己分析する同氏は、「僕はホラー映画を観るのが大好きなのですが、観た後に風呂やトイレに行くのが怖くなったりして、観たことを後悔してしまいます。でもまた観てしまう。今回皆さんに楽しんでいただけたのは、人肉小銭入れという名前とビジュアルに加えて、そんな中毒性があったからなのかなと思います。あと僕は音楽でもアイテムでも、MADな要素を入れつつキャッチーにモノづくりをすることを心がけています。今回の小銭入れも、気持ち悪いのにどこか可愛げがあり、親しみを持てるように制作したつもりです。可愛いと思うのは僕だけかもしれませんが(笑)そういうさまざまな要因が結びついた結果、色々な方に見ていただけたのかなと思います」と語る。

実は、人肉小銭入れはdoooo氏が自作したものではない。「アイデア、見た目のイメージなどのディレクションが僕で、実際形にする作業は自由廊さんという特殊造形の会社に依頼しました。皆さんがご存知の映画やゲームの特殊造形もこの会社が制作しています。人の肉で日用品を作りたいという無茶なお願いにも二つ返事でOKして下さる、素晴らしいけどちょっとヤバい人たちです」と同氏が語るように、その道のプロが制作したもので、精巧なのも当然というわけだ。なお、同氏は人肉小銭入れ以外にも、人肉シリーズとして人肉MPC、人肉iPhone、人肉印鑑を制作している。

プロフィールにもあるように、doooo氏はヒップホップをメインとしたDJでありプロデューサーでもある。人肉小銭入れのような人肉アイテムが誕生した背景には、同氏のアルバム『PANIC』が関係している。

「そもそも人肉アイテムを作り始めたのは、僕の1枚目のアルバム『PANIC』の制作がきっかけでした。アルバムを作っていた時に、音楽以外でも“僕はこういう人間なんです”ということを伝えたいと思って、ホラーやSFの要素を入れたアイテムの人肉MPCをアルバムのアートワークに使いました。ちなみにこの人肉MPCはミュージックビデオにも登場しています。音楽でも人肉アイテムでも映像でも、とにかく自分が好きなモノを伝えたい、好きな要素を入れたいと強く思っています。人肉小銭入れをはじめ他のアイテムに関しては、これから色々ありますので楽しみにしていてください」。

ちなみに人肉MPCが登場するMVは以下となる。

doooo氏が扮する宍戸マザファカが、音を追及するあまり人間の肉を使った機材、人肉MPCを作って曲を作ってしまう1本目のMV。

人肉MPCが原因で指名手配ののち逮捕、ニュースとして報道されてしまう2本目のMV。

刑務所から脱獄する3本目のMV。

ビジネスオファーはすべて断った

©Yohji Uchida

世界中でバズったことで、具体的にどういった変化が起きたのか訊いてみると、「僕や作品のことを知ってくれる人が凄く増えました。とても嬉しいですね。駅のホームで、“本当に小銭入れと印鑑下げて歩いてるんですね”と声をかけて下さる方や、クラブで会った海外の方が“あの小銭入れはクールだ、アメイジングだ”と声をかけてくれたりします。あと僕がdooooだということを知らない友達から、“お前が好きそうな小銭入れ見つけた”ってメールが来たりしましたね(笑)。今までの作品もこんな風に楽しんでもらえることはありましたが、今回の人肉小銭入れはケタ違いに多くの方に楽しんでもらえていると思います」と話してくれた。メジャーリーガーがわかりやすい例でもあるが、日本の外に出ると報酬や影響力などさまざまな面で、日本国内での話とはケタが違ってくるものだが、人肉小銭入れも例外ではなかったようだ。

問い合わせや引き合いも急増した。「“売って!”、“どこで買えるの?”という問い合わせがぶっちぎりで1番多いですね。もう何件来たか把握できないぐらい来てますし、“えっ、この人まで知ってくれてるの?”っていう方たちからも連絡が来てます。“動画をシェアさせて”という連絡も来ますね。色々な動画を投稿するSNSのアカウントだったり、9GAGなどの映像プラットフォームやソーシャルメディアウェブサイトが問い合わせしてくれてます。あとは海外のテレビやネットニュースサイトなどからの取材の依頼だったり、コラボしようみたいなお話だったり。とにかく世界各国色々な方たちに楽しんで頂けているみたいで嬉しい限りです」と、反響の大きさを包み隠さず話してくれた。「ウチと組めば世界中で売れますよ、みたいなビジネスオファーもありました」と言うが、すべて断ったそうだ。

人肉シリーズの販売および新作に関する質問をすると、「内緒です」という返答。通常この「内緒です」という答えの裏側には、「動きが進んでいる途中なのでまだ公表できないんですよ」といった意味が隠されているケースが多々ある。ということで、期待感を持って人肉シリーズの新作を待つこととしよう。

ホラー好きなプロデューサーとして、ホラー映画『ハロウィン』のテーマ曲をサンプリングしたヒップホップの曲を作って、人肉MPCを作るためだけに人を殺し続ける、マイケル・マイヤーズのような殺人鬼が登場するMVを公開するつもりはないのかも訊いてみた。この問いに対しても「内緒です」という答えが返ってきた。間違いない。次の新曲と絡めて人肉シリーズの新作を世に出す腹積もりなのだろう。

最後に創作者としてのゴールを訊ねてみた。すると、「僕が死んでからも、皆さんが僕の作品を楽しんでくれたら幸せだなと思ってます」と言う同氏であった。


doooo