CULTURE | 2019/06/11

「その炎上はどこから?」中高生向けのメディアリテラシー本を執筆した現役記者と一緒に悩む、上手に失敗するためのネット処世術

今年2月に発刊された新書『その情報はどこから? ネット時代の情報選別力』(筑摩書房)の著者、猪谷千香氏にインタビューする...

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今年2月に発刊された新書『その情報はどこから? ネット時代の情報選別力』(筑摩書房)の著者、猪谷千香氏にインタビューする機会を得た。同氏は産経新聞、ニコニコニュース、ハフィントン・ポスト日本版(現ハフポスト日本版)といったキャリアを経て、現在は弁護士ドットコムニュースで記者をしている、紙・ウェブの両方を渡り歩いたジャーナリストだ。

『その情報はどこから?』は主に中高生を読者対象とした、平易な入門書でありながら深い内容も垣間見えるラインナップのレーベル、ちくまプリマー新書から出版されており、悪質なデマやフェイクニュースも飛び交う現代の情報社会の海をどのように“航海”していくべきかをわかりやすく解説した一冊である。

こうしたインタビューでは新刊の話を中心に聞くのが通例だが、悲しいかなウェブメディア記事は「読みたい人しかクリック(タップ)しない」という性質から、「どうあるべきかをすでにある程度知っている人」ばかりが読み、得てして「真に記事の内容を知って欲しい人」には届かないことが多い。

そこで今回は趣旨を若干スライドさせ「どんどんと便利かつ高度化する一方、炎上時の被害もシャレにならなくなってきている、中高生のSNS利用はいまどんな風にあるべきなんでしょうか?」というテーマ設定をお願いした。

このインタビューには「フォロワーを1000人獲得する方法」も「やりたいことで飯を食っていく方法」も載っていないが、それでも頭の片隅に置いておいて欲しい重要な話がある、と思っている。

聞き手・構成・文:神保勇揮

猪谷千香(いがや・ちか)

文筆家

東京生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。新聞記者、ニコニコ動画のニュース記者を経て、2013年にはハフポスト日本版の創設に関わり、国内唯一のレポーターとして活動。2017年からは弁護士ドットコムニュース記者。『日々、きものに割烹着』、『つながる図書館』、『町の未来をこの手でつくる』、共著に『ナウシカの飛行具、作ってみた』がある。

メディア業界の人間も、ネットやSNSとの付き合い方に悪戦苦闘している

今年2月に発刊された新書『その情報はどこから? ネット時代の情報選別力』(筑摩書房)

―― 今の中高生にとってのSNSとの付き合い方って昔よりかなり難しいと思うんです。「たとえ炎上でもいいから話題になって承認欲求を満たしたい」「あわよくば稼げるようになりたい」みたいな欲望を原動力に、突っかかっていっては案の定批判され、本名や学校名など個人情報がカジュアルに晒され、効果的な嫌がらせの知見も共有・蓄積されてエンタメにすらなっている。そんな中で猪谷さんは『その情報はどこから?』という中高生向けのメディアリテラシー本を上梓されたじゃないですか。SNS社会で若い子がうまく失敗し、次につなげる方法を教えてもらえませんか?

猪谷:難しいですよね。大人でも失敗しまくりだと思います。

―― まぁそうですよね…。

猪谷:日々、ネットで情報を発信している私たちネットメディアの記者でも、記事に対する読者からの反応が完璧に読めるわけではありません。まずは書いて世の中に投げてみるけれども、リアクションは予想とは違ってて……。「これは良記事」と褒められる時もあるし、「これはおかしい」と厳しく突っ込まれる時もある。SNSで情報を発信するということはそういうことだと、みなさんに知ってほしいと思っています。

―― 確かにそうかもしれないですね……。

猪谷:できるだけ突っ込まれないよう、それなりに考えて発信した情報でもそうなのですから、どういうふうに物事が転がっていくのかを考えないままノリで発信してしまったりすると、全く予想だにしない反応が返ってくることは多々あります。その難しさですよね。メディア関係者は、いちおう「情報を出すことによって物事にどう影響するか」を考えて情報発信する訓練を積んでいます。それでも失敗しますから。

―― 情報を出すことによって物事にどう影響するか。そこをもう少し詳しくお願いします。

猪谷:最近の大きな炎上だと、幻冬舎の見城徹社長が、百田尚樹さんの『日本国紀』(幻冬舎)に批判的な作家の作品の実売数をツイートして、大炎上しました。ネットメディアだけでなく、大手メディアも取り上げ、結果、見城社長はTwitterを去り、幻冬舎は公式に謝罪しました。経営者や社員のちょっとした発言が、企業のブランドにまで影響を与えるというのは以前から言われていますが、まさにセオリー通りの炎上でしたね。

――場合によっては、会社の命運に関わることもあると。

猪谷:企業だったら、不買運動が起きたり、株価に影響したり、リアルにまで影響することは少なくないです。「みんなが容易に情報発信できる」ということは、そういうことだと思います。一方で、その力は社会を動かす原動力にもなりえます。たとえば2016年の「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログなんかは顕著だったのではないでしょうか。

これまで新聞やテレビで散々、「保育園が足りない」と待機児童問題を報じてきたわけですけど、事態はほとんど変わりませんでした。ところが「保育園落ちた~」で当事者であるお母さんの生の声が、直にみんなに伝わった。それによって人々が動き、国会でも話題になって政治も動き始めるわけです。ネットでは、誰もが一人ひとりそういう可能性を実は秘めていて……という側面もありますよね。

また、最近だと、Twitterでカネカ社員の妻が、夫が育休を取ったら即転勤というパタハラを受けて会社を辞めたとツイートし、カネカが大炎上しています。法的な見解を述べたコメントを出しましたが、ますます火に油を注ぎました。あれも、カネカは少しSNSの発信力を見誤っていたのだと思いますし、法的な白黒よりも、人々がその言葉をどう受け取るかが社会に影響するのだと実感させられました。

この炎上は政治にも影響を与えていて、自民党の国会議員有志が、男性の育児休暇義務化を考える議連が発足したのですが、そこでもカネカは厳しい批判を受けたそうです。

「正義」と「また別の正義」が終わりなき争いを繰り広げる

猪谷千香氏

―― ただ、その発信力が裏目に出ると炎上する。この前、毎日新聞の望月衣塑子記者を支援する署名をネットで集めた中二の女の子がTwitterで炎上したじゃないですか。“なりすまし疑惑”が出たりして、誹謗中傷がひどかったですね。

猪谷:あの炎上は、私もどう理解したらいいのかと考えながら見ていました。望月記者は右派からは攻撃されているし、左派からは熱烈に支持をされている。その人をとの関わりを持ってしまったがためにその毀誉褒貶の渦に巻き込まれたような印象を受けていて。

―― 確かに。ただ、良し悪しは別として、憎悪に近い感情をぶつけてくる人、過去に批判を浴びたトピックを持ち出して「あれについてはどう思うんだ」と詰め寄る人、揚げ足取りのようなことをしてくる人が出てくるであろうことは、これまでの同様事例から予想できたのではとも思ってしまうんです。やるにしてもある程度の理論武装というか、自衛のようなことができる部分もあったんじゃないかというか。

猪谷:まず、みんな「自分たちは正しいんだ」という思いが強い。今のネットは、それぞれのクラスタの分断が進んでいるので、そもそも反対意見が存在していても、普段から視界に入っていない人も多いのかもしれません。エコーチェンバーという現象があります。自分と同じような考え、価値観を持つ人たち同士がコミュニティを作り、その中でどんどん自分の思いを増強させていきます。そういうことが、あちこちで起きている。

そして最近のTwitterは、政治イシューに関してとても発言しづらい空気があります。初期はそうでもなかったはずでした。牧歌的というか、おおらかだった。中学生であれ、政治家であれ、肩書きは関係なく政治的な話を対等に交わせる場だ、そういう期待感が私たちにはありました。ところが、クラスタが分断され、一般の人でも容赦なく炎上したり、攻撃されたりするようになってからは、みんな「自分はああなりたくない」と思って発言を控えますよね。……で、最初にサーッと退いていったのは、リアルで社会的に信頼度が高く、かつ良識的で良質の情報を発信してくれる、いわゆる「識者」の人たちでした。

―― 社会にとって有用な意見が出せる人たちから、真っ先に口を閉ざしてしまう……。

猪谷:Twitterから去っていった人たちの声こそ、耳を傾けなければならないのに、と思います。でも、今はそれが難しい場になってしまったのかなと。

―― クラスタ同士の争いがひどいですからね。

猪谷:スマホやSNSの登場は、各クラスタの存在を際立たせたところがあると思うんです。たとえば「自分は政治的に保守だ」「ジャニーズが好きだ」「PokeGOのヘビープレーヤーだ」……最後は私ですけど(笑)、今までバラバラだった人たちそういう括りでつなげて、ある種のクラスタとして行動させる。その中ではものすごい勢いで情報伝達が行われるから、展開も早い。だからよけいに先鋭的になりがちです。

例えば、一部の弁護士さんたちに届いた大量の懲戒請求書。あれはあるブログで呼びかけが行われ、不特定多数が応じたものでした。弁護士さんたちは裁判で、彼らに損害賠償を求めましたが、その一人一人は年齢層がやや上で、真面目そうだったそうです。純粋で、弁護士さんたちを「悪である」と信じ込んでしまっていた。

―― わかります。多くの人が正義感でやっていたりする。

猪谷:そうそう。「世の中をよくしよう」「自分が行動を起こさなければダメだ」という正義感に基づいて行動する。そういう正義感が懲戒請求といった他者への攻撃に向いてしまうのは残念ではあります。みんながもう少しお互いの考えを認め合い、意見を交わせるようになればいいですよね。

なぜ現在のSNSは殺伐としているのか

―― 炎上ネタといえば、軽犯罪を自慢するヤンチャ自慢系やバイトテロなんかも定期的に出てきますよね。

猪谷:いわゆるバイトテロをやる子たちだって、そんなに悪気はないのだと思います。初めから、「店を潰そう」と思ってやっているわけじゃない。だけど、結果的に店を潰してしまう。最初にお話しした、物事がどう転がるのか見えてないのですよね。内輪だけで楽しんでると思い込んでいますが、実は世界に発信されていることに気づいていない。

それから、もちろん、彼ら自身の行動は反省すべきですが、彼らを「炎上させた人たち」の存在も決して無視はできないと思っていて。彼らのプライベートを暴き、学校や就職が内定している企業に電凸しますよね。店の責任者や経営者が彼らを責めるのはわかるのですが、過剰な正義感で突っ走ってしまうと、他人の人生をリアルに変えてしまう。オーバーキルになりがちなことが多く、心配です……。

―― どうすれば、これが解決に向かうのでしょうか。

猪谷:自分と違う考え方で発言・行動している人がいたとしても、ある程度はそれを許容する。それはたぶん、学校でも会社でも大切なのでしょうね。小さい頃からの多様性に関する教育って、すごく必要なんだろうなと思います。全ては教育に行き着くのかなと。

―― 厳重注意ぐらいで済まされるレベルの馬鹿をやっちゃう子たちをも「まあ、みんな多かれ少なかれああいう時代を通るよなあ」とスルーできないのは、みんなグレーゾーンを許容できなくなっているからなんじゃないかと思うんです。でも、それを突き詰めると自分の首をも絞めることにつながるんですよね。自覚がなくともグレーに抵触してしまったら、自分も盛大に炎上するわけで。

猪谷:やっぱりみんな、ツールとしてのSNSの使い方は知っていても、その先の影響まで想像が働いていないのかもしれないですね。自分とは流派が違う人がいたら、よほど迷惑をかけられているのでもない限りスルーすればいいのに、攻撃したり、排除しようとしたり。

―― どうすれば「正しいSNSの使い方」が覚えられるのでしょうか?

猪谷:う~~~~ん……。たとえば自動車の運転は、法律もあるし、免許も必要だから、教習所に行って走り方を教わって、テストに受かってから走り出し始めますけど、ネットにはそれがありません。勉強する場もなければ、免許もない。でも、使い方によっては人の人生を変えてしまう、自分の人生を変えてしまうような「大事故」が起こり得る、実は扱いに注意が必要なツールです。

それから、「大事故」にならなくても、ちょっとギスギスした攻撃的なやりとりくらいなら、そのまま放置されるわけですよね。スポーツの試合じゃないから、終わりもなく延々続けることができる。そうすると、ネット上の場の空気がどんどん悪くなっていきます。確かに法には触れないかもしれないけど、「ここはそういう場だ」という空間が形成されてしまい、議論が健全な方向に向かわないことによるデメリットは、社会にとってものすごく大きいと思うのです。

―― いつからSNSがこんなにギスギスするようになったのか。mixi時代が懐かしくなりますね。あの頃はみんなで日記に足跡を付け合ったり、サンシャイン牧場で畑に虫を放ち合ったりして笑っていられたのに。

猪谷:2006年に出た梅田望夫さんの著書『ウェブ進化論』(筑摩書房)の頃を思い出しますね。当時のインターネットは本当に希望を与えてくれました。誰もがブログやSNSで情報発信できるようになった。一人の力ではできないことも、ネットでいろんな知恵を出し合えば解決できる。これからは集合知の時代だ――。「あ、そうなのか。今後はそういう社会がくるんだ~」と期待していたんですけど……。

―― まさか十数年後にこんな社会になるとは。Twitterも今思えば、2010年ごろまでは良い意味でお花畑でしたよね。

猪谷:「ドロリッチなう」とか流行りましたよね。今はなき飲み物「ドロリッチ」を飲んだ人がそれを実況するという……。ああいうしょうもないツイートをみんなでキャッキャ楽しむ文化があった。かと思えば、それまではマスメディアがインタビューしに行ってやっとコメントを取れたような専門家が気軽に一般の人の疑問に答えてくれるとか。「前向きで建設的なネット社会がこれから築けるだろう」という楽しい夢がありましたね。

―― ありましたね、そういう時代が。

猪谷:でも、今の状況は必ずしもユーザーの責任じゃないとも思います。この前、子どもを持っている親御さん向けの塾の宣伝のポスターを見て衝撃を受けたんですね。「お子さんをここに通わせれば、飯が食える大人になります」みたいな。調べてみたら、他にも教育系のコンテンツに「こうすれば、飯が食える」系がたくさんありました。

―― 「よりよい未来」とかじゃなくて「飯が食える」ことが希望なんですね……。

猪谷:そこまで我々大人は追い詰められているんだとショックを受けました。子どもに明るい未来を導くのが大人の責任で、少し前まで社会に出て真面目に働いていれば、「飯が食える」のは当たり前の話だと思っていたんですけど。それくらい社会全体が逼迫している。

Twitterは自分の不満や辛い思いをぶちまける場でもありますから、経済状態が悪く、少子高齢化が加速し、過労死も多く、幸せな未来を描けないという話が毎日のように流れてくる……。そういうあちこちで行き詰まっている感がある中で、私たちは追い詰められています。でも、そういう現状だからこそ、「Twitterという場で建設的な議論をしよう」「課題を解決してみんなで協力して少しでも幸せな未来をつくろう」と訴えたいです。少し、楽観的すぎますかね…。

「半年ROMれ」まで戻らずとも「丁寧なコミュニケーション」を見直すこと

―― いちユーザーとして見ていると、Twitterからはいい意味でのユルさが失われていっている感じがします。「ドロリッチなう」を許容する空気が失われ、「意味のある情報を発信しなきゃ」みたいな強迫観念に少なくない人たちが取り憑かれているというか。

猪谷:ユルさはある程度必要ですよね。今、「サードプレイス」が大事だと言われています。サードプレイスとは、家庭や学校や職場ではなく、ふだん演じている会社員や母親といった役割を脱ぎ捨て、自由にふるまえる場のことです。そうした場が存在するか、しないかとでは、社会の豊かさは変わってくるそうです。

2015年夏に鎌倉市図書館のTwitterアカウントが、「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。」とツイートして大反響を呼びました。今、そういう図書館みたいな場が必要とされているのでしょうね。

―― でも、今のSNSでは「何者でもない」ことは「注目されない」とほぼイコールでもあると言われているじゃないですか。だから、ハンドルネームの後ろに「@○○な女子高生」とか「@○○なマーケター」みたいなのをつけて、自分の個性ではなくて「わかりやすい属性」を打ち出さなくちゃいけないんだと思っている文化が確実に広がっている。起業家とかスタートアップ勤務ならまだしも、皆がそれを半ば強いられるのってすごく苦しいことですよね。

猪谷:本当にそうですね。どうしても肩書きで判断されるがちだから、肩書きがほしいし、肩書きを駆使してネットで発言する。それでいかに自分の影響力があるかを示したい、というところですよね。承認欲求の充足とネットの拡散作用がうまく合致してしまう。甘美な誘惑から逃げるのは、大変なことだと思います。

―― 難しいなあ。「実は私たちも、対話や情報発信の仕方をよく知らなかった」という事実が、本日明らかに……。

猪谷:私たちは失敗しまくりですよ。みんないろんなことを言うけど、SNSの使い方に正解はないと思っています。

―― 教習所に行かないまま公道を走って事故を起こす。そういう自分たちをまずは認識しよう、と。SNSでの情報発信においては、まだ「失敗もあるかもしれないけど、いろいろ考えてやってみよう」くらいの段階なのかもしれないですね。

猪谷:私がやっているの、自分とは違う意見の人を一定数フォローすることです。けっこう勉強になりますよ。普段から、彼らはどういう思考をして、どうふるまっているのか。自分が情報発信しようとした時、「待てよ、仮に彼らが見たら、こんなふうに受け止めるんじゃないか」と考えたりもできる。そういう機会を自分の中で意識的に作っていくといい練習になると思います。

昔は半分冗談、半分本気で「半年ROMれ」なんて言われてましたけど、あれはあれで一定の意味があったとも思います。今はどんなウェブサービスやアプリでも「すぐに始められるよ!早速コミュニケーションしてみよう!」っていうチュートリアルが入っちゃいますよね。ROMる時間がない…。

―― 確かに。丁寧なコミュニケーションで言うと、少し前に署名サイトのChange.orgで「電気グルーヴのCD回収を撤回してください」っていう署名募集を見て、感動したんですよ。Q&Aがすごく充実していて、長文なんです。炎上後の対応として「自分が間違っていたなら謝れ」「経緯を説明しろ」「ちゃんと伝えろ」みたいなことが教科書的に言われるけれど、なかなか全員はやれない。でもこの署名募集では、そういう丁寧なコミュニケーションをそのまま実践しているんですよ。

猪谷:(Change.orgのQ&Aを見て)この方、すごいですね。質問に対して真っ向からきちんと答える。これはすごく大事ですよね。広告なんかが炎上して取り下げられた時、「皆さまのお気持ちを害してしまい…」ってよく企業側が言うじゃないですか。本当は、「そもそもこういうプロセスを経て、この広告は作られました。ここが足りてなかったです」「しかし、こういう理由で自分たちは中止しました」と事実を明らかするのが本当は正しい方法なのですけど、みんな「お気持ちを害して」の一言でごまかしてる。で、謝って取り下げても炎上するという……。

―― 今はリスクマネジメントがあらゆる人に求められてしまっている時代。でも、それはそんなに簡単なことじゃない、ってところが今の時代の厳しさなんだろうなと思いました。

猪谷:若い人たちには大人たちの騒ぎを見て、学んでいただきたいですね。反面教師として。そうして、若い人は若い人なりに自分で正解を見つけていってほしい。ただ、大人は大人で、若い世代の人たちが希望を抱けるような社会をリアルで築いて、ネット空間がギスギスしないよう、してほしいですね。それは大人の責任だと思います。私はネットが大好きなので、できるだけ居心地のよい空間になってほしいです。