CULTURE | 2019/05/24

バンドはリズムとグルーヴの「画素」で決まる!【連載】西寺郷太のPop’n Soulを探して(9)

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前回の対談では、音楽におけるリズム、グルーヴの「画素」について言及した西寺さん。今回はそれを引き継...

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前回の対談では、音楽におけるリズム、グルーヴの「画素」について言及した西寺さん。今回はそれを引き継ぎ、本格的にグルーヴィーな音楽とはなんぞや? どうしたらそんな音楽が生まれるのか? 長く続くバンドにおけるベースとドラマーの重要性などについて語り合ってみました。

聞き手:米田智彦 文・構成:久保田泰平 写真:有高唯之

西寺郷太(にしでらごうた)

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1973年、東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成し、2017年にメジャー・デビュー20周年を迎えたノーナ・リーヴスのシンガーにして、バンドの大半の楽曲を担当。作詞・作曲家、プロデューサーなどとしてSMAP、V6、岡村靖幸、YUKI、鈴木雅之、私立恵比寿中学ほかアイドルの作品にも数多く携わっている。音楽研究家としても知られ、少年期に体験した80年代の洋楽に詳しく、これまで数多くのライナーノーツを手掛けている。文筆家としては「新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち」などを上梓し、ワム!を題材にした小説「噂のメロディ・メイカー」も話題となった。TV、ラジオ、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在NHK-FM「ディスカバー・マイケル」、インターネット番組「ぷらすと×アクトビラ」にレギュラー出演中。

リズムの画素、質を共有できていればバンドは生き延びる

米田:前回、グルーヴやリズムの画素っていう話がありましたけど、「画素」って表現がすごくパンチラインだなあと思って、今回もその続きで始めたいなあと。良いグルーヴを生み出す秘訣っていうのがあるとしたらどんなことなのか、であるとか。

西寺:「なんでこの人の音楽は今も愛されてるのに、当時同じぐらい人気のあったこっちの人はまったく聴かれなくなってるんだろう」って話をしましたけど、同じような感じで、ずっと続いていくバンドと、天下をとった後に解散してしまうバンドっていうのがありますよね。例を挙げれば、ビートルズは解散しちゃったけどローリング・ストーンズはなんでいまだに続いてるんだっていう、これについては前回の対談の後にもちょっと考えてて。

米田:うんうん。

西寺:結局、ビートルズが解散したのはメンバーの演奏のノリが合わなくなったんだろうなあってことなんですけど。その理由の最大の鍵は、ドラマーであるリンゴ・スターがデビュー直前に入れ替わったという事実。つまりは、ドラム中心の座組みじゃないってことなのかな?と。

米田:そうですね、結成時のドラマーはピート・ベストでした。

西寺:デビュー直前に、リズムの問題を指摘されてリバプールの腕利き、リンゴにドラムを交代してますよね。そこは重要で、例えばザ・フーであればキース・ムーン、レッド・ツェッペリンであればジョン・ボーナムが亡くなって、TOTOにしてもジェフ・ポーカロが亡くなって、リアルタイムのグルーヴを更新してゆくバンドとしては空転し始めるわけじゃないですか。やっぱバンドってね、ドラマーなんですよ。ストーンズは、なんだかんだ言ってチャーリー・ワッツありきのバンドなんですよね。日本で言えばBOØWYは高橋まことさんだし、X JAPANは当然YOSHIKIさん。ポリスはスチュワート・コープランド。

米田:U2だとラリーがいますね。

西寺:そう、U2は80年代はある意味イナタいロックバンドと思われてたけど、リズムの画素が4K、8Kに対応できていたからこそ、『Achtung Baby』(1991年)でダンス・ビートも飲み込めましたし、今ケンドリック・ラマーとも共演できてるんですよね。U2は、そのリズムの画素の細かさ、質っていうのを、メンバー全員が共有して、アップデートしているから長続きしてると思うんです。ストーンズはずっとその点を模索し続けるパイオニアで。キースやミックやチャーリー、ロンは鬼のように鮮やかなリズム像を探し求めた。本来最も意識的じゃないといけないベーシスト、ビル・ワイマンにはその世界が見えなかった。もう、ビル・ワイマンが脱退してから20年以上経ってるでしょ。

米田:実質的には91年にバンドを離れてたので、ストーンズの歴史の半分以上は、もうビル・ワイマンじゃないですね。

西寺:キースにしてみれば、ソロで『Talk Is Cheap』(1988年)を作って、「やっぱこれだよ、生のグルーヴだよ」って思ったはずですよ。あのアルバムのバンド、エクスペンシヴ・ ワイノーズって、スティーヴ・ジョーダンがドラムで、チャーリー・ドレイトンがベースっていうリズム隊でしたけど、曲によってはお互いパートを入れ替えたりもできちゃうぐらいぐらいすごい2人で。

米田:シングルカットされた「Take It So Hard」では、そうでしたね。

西寺:キース・リチャーズって、ギターのテクニックに関しては上手いだ下手だっていろいろ言われますけど、この人のすごさはリズムのスポット、キマった瞬間の快楽というものを誰よりも理解してるところなんだと思います。80年代、ミックはリズム・マシンやプログラミングにその答えを探した。で、うまくいった場合もあるけど、迷走に見えた部分も大きい。で、ストーンズに戻った。リズムの旅を経ての「Mixed Emotions」(1989年)ですね、まさに。ビル・ワイマンが参加した最後のアルバムですけど。ともかく、バンドって快楽なんで、その部分がヴォーカルとギター、ギターとドラム、ベースとドラムってところで一致していれば、どんだけ仲が悪くたってその座組みは続くんですよ。やめられないんですから(笑)。

ジョン・レノンのビートって世界共通言語のノリ

西寺:で、ビートルズは……って話なんですけど、僕がずっと思っていたのは、ポールって誰もが認める史上最高の音楽の天才のひとりではあるけれど、ポールのリズム感ってポールのものでしかない気がするんですよね。「Goodnight Tonight」(1979年)とかディスコにも対応できたりしてすごいんだけど、あの感じっていうのはポール・マッカートニーしか使えない言語みたいなものというか。たとえば、皆は英語やフランス語、中国語で話しているのに、彼はジョージア語の方言をめちゃめちゃ上手にしゃべってるみたいな感じというか(笑)。もっと言えば「究極の宅録野郎」ですよね。あらゆる楽器がひとりで演奏できちゃうわけですから彼自身のテンポ感を重ねた方が心地よく感じてしまう。

米田:なるほど、なるほど。

西寺:で、バンドになるとポールは自分が正しいと思っているし、とんでもない天才ですから「オレに合わせろ、君たちは下手だなぁ」っていう風にメンバーには伝わってしまうんですよ。ドラムも基本叩けちゃいますし。だから、リンゴも一回「やめてやる!」ってなりましたし(「Back in the U.S.S.R.」のレコーディング中に起きたエピソード)。その点、ジョン・レノンはリズム感がすごく良くて、デヴィッド・ボウイと組んで作った「Fame」(1975年)なんかにしてもそうですけど、ジョンのビートって黒人的で、世界共通言語のノリなんですよね。だから、誰とでも合わせられたりするんですよ。もし、ジョンが80年代も生きていたら、RUN DMCやビースティ・ボーイズや、それこそマイケル・ジャクソンとも共作してた可能性は多いにあると思いますよ。そのメッセージ的にも、グルーヴ的にも、アパルトヘイトに反対した1985年の「サン・シティ」でもリーダー格のひとりになっていたでしょうしね。

米田:ポールといえば、ウイングスもドラマーがよく替わってましたよね。

西寺:そう、なかなか定着しなかったでしょ。ポールもドラムが上手いんですけど、良し悪し置いといてポールのリズム言語で。ドラマーが「俺の存在意義ある?」ってなってしまうというか。もっと言えば、ポールは元々ギタリストで、映画にもなってましたがスチュワート・サトクリフがベースが下手だから、スイッチしたわけですよね。最初からベースの面白さにノックアウトされて、ベースを選んだ人間じゃない。だから、めちゃくちゃベースがメロディックで目立ってはいるんだけど、やっぱりビートルズは「リズム・セクション」という概念から生まれたバンドではない。もちろん凄いんですよ、ポールのベースとリンゴのドラムは。「Tomorrow Never Knows」や「Rain」の例を挙げるまでもなく、様々な意味で「ロック・バンド」のビートを革新しました。ただ、彼らふたりが幼馴染というわけでもなく。ちょっといびつなバンドっていうか。あくまでもジョン・レノンというカッコいい先輩ありき、サポートする天才ポールと、年下のジョージ。街で一番の腕利きだった年上のリンゴが最後に加入している。(デビューから)7年半ぐらいで終わったっていうのは、ポールのベーシストとしては珍しいほどの「わがままさ、常に低音域の『ハーモニックな美味しさ』を求める感」がポイントだったんじゃないかな、と。ベース抜きでレコーディングして最後にベースを録音したりね、それがビートルズの魅力なんですけどね。ポリスのスティングとスチュワートも恐ろしいほどカッコいいですけど、やっぱりスティングも「攻め」、スチュワートも「攻め」なんで長続きはしませんでしたね。

米田:僕らがリアルタイムで体験したバンドで言えば、ビートルズの後継と言われたオアシスなんかも、ドラムで苦心しましたよね。

西寺:リンゴの息子のザック・スターキーもサポートで参加してましたよね。オアシスの場合、ノエル・ギャラガーがリズムに対してもっとも理解して遊んでて。ビートルズよりギャラガー兄弟は、マンチェスターの先輩、ストーン・ローゼズのレニとマニみたいな、とんでもないリズム・セクションに憧れて探し求めた気がするんですけどね。そりゃ、最初にあれだけ売れたら弱いリズム・セクションはやめさせたくなるよね、と。レニとマニと比較しちゃうわけですし。

まさに、レニのドラムこそが「ザ・ストーン・ローゼズ」だったはずですし。そういう意味で今回のノエルのシングル「Black Star Dancing」は、グルーヴィーでいいですよね。

でもノエルは、僕にとっては相当ポール・マッカートニー的だとは思いますけどね。さっき話した「Goodnight Tonight」みたい。メロディが結果勝ってると言うか、ノエル・ルールというか。だから、オアシスのリズム・セクションが落ち着かなかったのとウイングスの状況は似てますよね。リンダがリアムと思うと(笑)。個人的にはリアムのヴォーカル圧倒的に兄よりも大好きですけど。そうやってリズムの把握、咀嚼について考えれば、他のいろんなバンドのことでも納得できるというか。

米田:言われてみればたしかに、っていうバンドがいくつか浮かんできますね。

西寺:2003年前後に日本でもいろんなバンドが解散したり、ドラマーが脱退したり、って連続したんですけど、ヴォーカルやソングライターと、ドラマーとの感覚がその頃、プロトゥールズやデジタル・レコーディングが完全に主流になったんで、「目」で見えるシビアな関係になったことも大きいんですよね。身体や感覚で感じてた直感ともいうべき心地よさが「波形」で見えるようになってしまった。NONA REEVESのドラマー小松シゲルとも、2000年、2001年頃は、スタジオであーだこーだやりあったこともあります。で、時代の変化の中でメンバー間のスキル、リズムの画素が合わないバンドは解体するしかなかった。本来は以心伝心でやるべきことを、ヴォーカルやソングライターが「これは違う」と神経質に司るようになるとバンドとしては結構つらいことになる。シェフ同士で鍋料理の塩加減とかをミリグラム単位で説明して料理を作るようなものというか。

米田:料理人にレシピまでいちいち指示させてるみたいなことですよね。

「こち亀」はコミック版ローリング・ストーンズ

西寺:性格の良さとか、相性とはまた違う。

米田:画素、リズムのルールが合ってないバンドは解散する、と。

西寺:リズムに対して、真摯であればあるほど、解散せざるを得なくなるんですよ。もっと言うとリズムさえ合えば、例えば漫画で言えば「こち亀」みたいに、ダラダラとあの心地よいグルーヴが続く快感に突入する。電気グルーヴのふたりには最初から今まで、その共有を感じますよね。何巻からでも読めるし、20巻ぐらい飛ばして読んでも楽しいみたいな。逆に「20世紀少年」のような謎解きの漫画は、どうなるのどうなるの?って、スリルが大切。フリッパーズ・ギターは、「この後、どうなるんだ?」ってそちらのタイプだったんでしょうね。

米田:お面の下が誰なのかだんだんわかってきた時点で気持ちが冷め始めますもんね。「こち亀」はグルーヴィーですよ!(笑)。ストーンズみたいなものですよね。

西寺:「20世紀少年」スタイルと「こち亀」スタイルのどっちが良いっていう話じゃなくて、ずっと続いてるっていうバンドや物語には理由がある、もしくはバンドの歴史の途中で、ロングラン・スタイルに意識的に変わったんだって。

米田:たしかに。

西寺:でまあ、音の話に戻ると、リズムの探究、リズムの画素を合わせて、細かくして、味わって、時代が変わってもそのリズムの楽しみをいろんな人が発見できるような音楽、ちょっとした間と間のスパイシーな刺激に答えを求めて人たちはずっと生き延びるなぁ、と。その究極が前回触れたエルヴィス・プレスリーやボブ・ディラン、ローリング・ストーンズだったりするのかな、と。若いとか、新しいか、古いかではなく、ね。


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次回の公開は6月20日頃になります。