『金色夜叉』の聖地巡礼から生まれた、熱海海岸を彩るアートスポット
熱海といえば温泉や海水浴を思い浮かべる人が多いだろうが、実はこの街には、文豪や彫刻家、建築家たちが遺した「作品」が路地のあちこちに息づいている。尾崎紅葉の小説の舞台になった海岸から、谷崎潤一郎も愛した別荘、世界的建築家ブルーノ・タウトが手がけた洋館まで、意識して歩けば出会えるアートが点在するのが熱海という街だ。熱海観光局は2026年9月24日、こうした街歩きの楽しみ方に加え、同年11月に開催される芸術・文化イベントの最新情報を公開した。
熱海サンビーチ前のお宮緑地に立つ「貫一お宮の像」は、尾崎紅葉の代表作『金色夜叉』の別れの場面をモチーフにした像である。この小説が生んだ「聖地巡礼」ブームによって熱海海岸には多くの観光客が押し寄せ、温泉地だけでなく物語の舞台としても知られるようになった。
海沿いをさらに歩くと、熱海出身の彫刻家・澤田政廣による「釜鳴屋平七像」に出会う。江戸時代に漁民200人以上を率いて代官所へ直訴した郷土の義人を題材にした作品で、隣接する澤田政廣記念美術館とあわせて巡るのもよい。
夜になると、熱海サンビーチは世界的照明デザイナー・石井幹子氏が手がけた「ムーンライトビーチ」に姿を変える。日没から22時まで、月明かりを思わせる淡いブルーの光がビーチを照らす、ビーチのライトアップとしては日本初の試みだ。熱海駅から徒歩約8分の高台には、ドイツの建築家ブルーノ・タウトが内装を手がけた国内唯一の現存建築「旧日向家熱海別邸」もあり、事前予約制で見学できる。
起雲閣から双柿舎まで、文人墨客が愛した熱海の別荘建築を歩いて巡る
熱海は明治以降、多くの文人墨客に愛される別荘地としても発展してきた。その代表格が起雲閣である。大正8年に建てられた和館は、その後旅館として太宰治や谷崎潤一郎ら多くの文豪に愛用され、和と洋が融合した意匠を随所に見ることができる。
熱海梅園にある中山晋平記念館では、『シャボン玉』などの名曲を生んだ作曲家・中山晋平が晩年を過ごした別荘を見学できる。愛用のピアノや直筆譜面が展示され、紅葉狩りのついでに立ち寄る人も多い。
西山町の「凌寒荘」は国文学者・佐佐木信綱の旧居で、庭には万葉集に詠まれた草木が植えられている。水口町の「双柿舎」は坪内逍遙が晩年の15年間を過ごした書屋と庭園で、逍遙はここでシェイクスピア劇の翻訳や戯曲を著した。建物内部が非公開の施設もあるが、庭園を歩くだけでも、それぞれの文人が愛した熱海の空気を感じ取ることができる。
現代アートと11月の芸術イベントが交差する、いまの熱海を歩く
歴史的な建築や彫刻だけが熱海のアートではない。かつて「糸川花街」と呼ばれた中央町の一角には、築70年ほどの元スナック「旧つたや」をリノベーションした「ヨルノアタミ」があり、現代アートの展示も行われている。海沿いの親水公園には南欧リゾートを思わせる遊歩道が整備され、海光町の石畳地区には野村徳七の別邸「野村塵外荘」など近代建築が今も残る。
2026年11月から12月にかけては、熱海市内の宿泊施設やレストランを会場に、芸術祭「ATAMI ART GRANT(RESIDENCE)2026」が開催される。会場のひとつ「Yutorie」は、義祖父のアトリエをリノベーションした宿泊施設で、期間中はアーティストが実際に滞在・制作した部屋にそのまま宿泊できる。部屋そのものが作品になるという、他にはない体験ができる。
このほか11月は、熱海芸妓の伝統をプロジェクションマッピングで彩る「熱海芸妓 光映絵巻」(10月10日〜11月1日、11月28日〜12月27日)や、坂東玉三郎丈の特別公演(11月13日〜16日)といった伝統文化の催しが続く。熱海海上花火大会(11月8日・23日)、網代温泉ひもの祭り(11月14日・15日)、熱海梅園もみじまつり(11月14日〜12月6日)と、季節の風物詩も見逃せない。
歴史の中に息づくアートを訪ね歩き、現代アートが生まれる現場にも触れる。芸術の秋、いつもとは違う視点で熱海のまちを歩いてみてはいかがだろう。
熱海観光局公式サイト
https://atami-tb.com/