CULTURE | 2022/05/31

メディア業界人なのに120円の新聞を盗んで逮捕。何度も繰り返してしまう犯行を止められるか【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(37)

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阿曽山大噴火
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月曜日...

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阿曽山大噴火

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月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

「たまたま持ってたので挟んだだけですね」

全くニュースとして報じられてないですけど、5月2日に東京の検察審査会が移転されてたんですね。東京高裁・地裁が入っている合同庁舎から東京簡易裁判所墨田庁舎に。東京地裁の案内板の張り紙で知りましたけど、皆さんはこういう情報をどうやって得てるんだろうかと気になったのでした。

さて、本題です。

罪名 窃盗
F被告人 会社員の男性(53)

起訴されたのは、今年の2月18日21時11分に東京都港区のコンビニでF被告人が新聞1部(120円)を盗んだという内容。

罪状認否でF被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、F被告人は大学を卒業後に会社員として働いていたが、犯行の2週間前に仕事を辞め、無職だったとのこと。犯罪歴として前科3犯、前歴(捜査を受けたものの不起訴処分となった経歴)は2犯。2019年に窃盗歴で罰金刑を受けたのが最終刑です。前述の通り犯行当時は無職でしたが、次の職が決まっていたからか人定質問で被告人が会社員と言っていたため、今回の記事でもそう記載します。

犯行当日。F被告人は1万3610円を持ってコンビニに入ると、手に持っていたパンフレットの間に東京新聞を挟んで、レジを通さずに店を出たそうです。犯行に気づいた店長が店の外でF被告人に声を掛けたというのが事件の詳細です。

取り調べに対しF被告人は「新聞を読みたいと思ったが仕事を辞めたばかりで、出費を減らそうと思って盗んだ」と供述しているそうです。新聞は図書館に行けばタダで読めるし、1万円以上の所持金があったんだから120円くらい払っていただきたいところですけどね。

今時、ネットで最新情報が無料で入手できてしまうわけで、取材したり記事を書く人の苦労を知らない、そういう人たちへのリスペクトがない人なんだろうなぁと思っていたのですが…。

被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「検察官が先ほど読み上げた起訴状に間違いないですね?」
F被告人「あ、はい」
弁護人「盗みをするつもりでこのコンビニに入ったんですか?」
F被告人「いや、歩いていてたまたま入っただけで、どこの店舗かもわかってませんから」

目的を訊いているので答えはちょっとズレてるんだけど、狙って入店したわけではないというアピールです。

弁護人「逮捕されたとき、所持金いくらでした?」
F被告人「いくらなのか正確には把握してませんでしたけどね。警察官の目の前で一緒に数えたので、それでわかりました」
弁護人「要するに新聞買えましたよね?」
F被告人「あ、はい」
弁護人「盗むときに、防犯カメラの映像を見るとパンフレットに新聞を挟んでますけど、これはバレないようにするためですか?」
F被告人「いや、たまたま持ってたので挟んだだけですね」

たまたま入った店でたまたま持っていたパンフレットに挟んだだけらしいです。

弁護人「被害額は120円なんですけど、その分の利益の為にどれだけ売らなきゃいけないかわかってますか?」
F被告人「当時は考えてなかったんですけど、今はわかりました」
弁護人「金額だけじゃなく、警察に話を訊かれたりして時間を取られてますよね、店長は」
F被告人「弁護士さんにそう言われてから、そういう被害もあるんだなぁと思いました」
弁護人「盗ったのが東京新聞だったのは何か理由があるんですか?」
F被告人「北京オリンピック開催中で、どの新聞のオリンピック一色だったんですね。東京新聞はそんな中で五輪批判の内容が書いてあるってネットで知ったので」

何か問題意識を抱いていたようですが、そんなに読みたい物を盗むとは。

弁護人「窃盗の前科もありますけど、また同じことやりますか?」
F被告人「このようなことはしないと思います」
弁護人「この店にも行きませんね?」
F被告人「そもそもどこにあるかわからないんで」
弁護人「私が店長さんに連絡取ったら、謝罪に関しては門前払いだったわけですが、謝る気持ちはあるんですよね?」
F被告人「謝れるもんなら謝りたいです」

この言い方…。胸の内まではわかりませんが、心底申し訳ないという感じが伝わってこない態度と言い方なんですよね。

一体なぜ「新聞」を盗み続けてしまうのか

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その後、F被告人はメディア関係の会社から内定をもらっており、「新聞はそこで読めますし、定期購読しようと思っています」と再犯防止案を述べて質問終了。ってか、新聞盗んだ後にまたメディア業界で働くってのが不思議な気もしますけどね。

続いて検察官からの質問。

検察官「あなたの経歴を見ると今までずっと新聞社とかマスコミ関連の仕事ですよね。前回も新聞を盗んでいると」
F被告人「毎日新聞の夕刊ですね」

新聞社で働きながらも新聞を盗んでいた人物なんですね。新聞を作ることの苦労や売上が減っている現実も知ってるはずなのに。

検察官「マスコミで働く者にとって新聞って?」
F被告人「売って収入を得るものですね」
検察官「それを何故盗んだんですか?」
F被告人「勉強しようと思って」
検察官「買わなかったの何故ですか?」
F被告人「収入なかったから」

そして検察官としては、情状証人がいないことや誰一人として上申書を書いてくれていないのが気になったようで、

検察官「事件を知ってる親族は?」
F被告人「いません」
検察官「伝えることで犯罪防止になるんですけど」
F被告人「前の時には伝えてたんですが、心配掛けたくなくてですね」
検察官「またやるんじゃないかと心配なんですけど大丈夫ですか?」
F被告人「次は刑務所だと自覚を持つことで歯止めになると思います」

と、今回は罰金刑が執行猶予付きの判決だから刑務所に行くことはないと思っているようです。

最後は裁判官からの質問。

裁判官「う~ん…新聞一部で逮捕されて、拘留もされて。なんでここまでとか思いません?」
F被告人「過去に勤めていた新聞社をトラブルになって辞めさせられて。それが全国ニュースにもなったんですけど、食べ物を盗むとかはないんですけど…」

と、またもや質問の食い違う返答をすると、

裁判官「ん? 恨みみたいな気持ちもあるってことなのかな。新聞は買いたくない?」
F被告人「はい!」

職がなくて収入がなかったという動機もあったんだろうけど、新聞そのものに怒りや怨念みたいな想いを持ってるが故の犯行でもあったんですね。力強いF被告人の答えを聞いた裁判官が、

裁判官「じゃ、なんで定期購読するの?」
F被告人「んん…次やったら刑務所行くことになるので」

と訊いたところで被告人質問は終了です。

新聞を買いたくなった男が定期購読することで再犯防止になるとはね。またメディア業界で働くというのも復讐みたいな意味合いもあるんでしょうかね。

このあと、検察官が懲役1年を求刑して閉廷となりました。

そして初公判から1週間後の5月17日に判決が言い渡されました。結果は懲役1年執行猶予2年でした。F被告人の予想通り刑務所に行く必要はなさそうです。

自分で伝えることもできそうなもんだけど、メディアでこの裁判が伝えられることはないかもしれませんね。


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