CULTURE | 2023/10/05

「二次創作グッズ」はビジネスになる?YOASOBIやタツノコプロなどのファンアート作品が流通するサービス「MashRoom Cafe」の目論見

江川昌宏氏
ソニーミュージックグループの子会社であるソニー・クリエイティブプロダクツは、今年5月に二次創作(ファンアー...

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江川昌宏氏

ソニーミュージックグループの子会社であるソニー・クリエイティブプロダクツは、今年5月に二次創作(ファンアート)グッズの流通サービス「MashRoom Cafe」を立ち上げた。

同サービスは、権利元の許可を得たキャラクターやアニメ、音楽アーティストなどの「二次創作イラスト」をサイトにて募集し、審査が通った作品の缶バッジ、Tシャツ、クッションなどさまざまなアイテムを公式に販売・購入できるサービスだ。

2023年9月末現在では、YOASOBI、タツノコプロ作品、TM NETWORK、BOOM BOOM SATELLITESなどの二次創作グッズが販売されており、販売利益はイラスト作成者、権利元の双方にあらかじめ決められた料率が支払われる。

そもそも「二次創作グッズのプラットフォーム」はビジネスになるのか?オフィシャルグッズと競合してしまわないのか?同社は何を目的としてサービスを始めたのか。

サービスの責任者を務める江川昌宏氏に話をうかがった。

聞き手・文・構成・写真:神保勇揮(FINDERS編集部)

江川昌宏

ソニー・クリエイティブプロダクツIP営業本部 開発営業部 兼 IPマーケティング本部 開発部 部長

1995年、ソニーミュージックグループに入社。
4年間の音楽宣伝業務を経て、1999年より音楽制作に従事。2013年に株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツに異動。
IPライセンス営業を経て、2023年にSNSクリエイターレーベル「UNI(ウニ)」を立ち上げる。
エージェントや営業サポートの他、公式ファンアートオンラインストア「MashRoom Cafe」やショートコミックサイト「キャラコミWalker」などを運営。

「IP運用の会社」がやるサービスだから権利元に信頼してもらえる

MashRoom Cafeで実際に購入できるプロダクトたち

ーー サービス誕生のきっかけを教えてください。

江川:ソニー・クリエイティブプロダクツのメイン事業はIP(知的財産)の運用です。大きな柱はピーナッツ、セサミストリートなどの海外キャラクターで、キャラクター以外ではラグビー日本代表の商品化窓口、フランスのシェフのジョエル・ロブションのブランドのエージェントもやっています。

ただ、我々も属するソニーミュージックグループとしては、レコード会社からスタートして、現在はアニメを主とした映像制作を手掛けるアニプレックスや、お笑い芸人や俳優、声優が所属する事務所もある。このように様々なエンタテインメントビジネスを展開するグループにおいて、当社としても常に「新しいキャラクタービジネス」を生み出していきたいという思いがあります。

さらに、今年6月にはイラストレーターや漫画家、アニメーター、デザイナーのビジネスを様々な角度からサポートし、展開していくクリエイターレーベル「UNI(ウニ)」を立ち上げました。クリエイターの「企業広告や商品デザインを手掛けたい」「自分の作品を商品化したい」「海外進出に興味がある」といった願いをサポートしつつ、ゼロイチのプロジェクト立ち上げもいずれ行っていきたいと思っています。

MashRoom Cafeについては、ファンアート・二次創作がカルチャーとしても市場としても非常に大きなものになっているにも関わらず、権利的にグレーな部分があるのでクリエイターと権利元が分断せざるを得ない状況が長年続いてきました。ですが当社のようなIP運用を長年手掛けてきた会社であれば、その橋渡しができるのではないかと考え、立ち上げました。

ーー 単純に法律面をクリアすれば終わりではなく、権利元の考えや作品ファンの感情も絡んでくることになるため、とにかく調整が大変そうだということは誰もが感じるかと思います。事前のリサーチも行われたかと思うのですが、反応はいかがでしたか?

江川:IPの権利元に相談した時は「面白そうだし、ビジネス上の可能性も感じるけれど、不安要素が多い」と言われることが多かったですね。

例えば応募作を承認しなかった時にSNSでやり取りを晒されてしまう炎上リスク、規約で明確にしていなかったものの「これはさすがに社会的にNGでは…」という作品を応募されてしまった時にどうするかなど、基本的にリスクを100%事前に把握しきれないということは怖いと。

加えて「そもそもファンアートや二次創作は、公式が介在しないから楽しい」ということは権利元も十分理解しています。だからこそ踏み込みたくないんだという方もいらっしゃいました。我々としても「これが絶対に正しいあり方だ」とは思っていません。常にユーザーと権利元にとって何が大切かを意識し、理想的なつながりを築き上げていくことを考えていきたいです。

ーー ファンアートを募集する対象は基本的にソニーミュージックグループが関連するIP限定になるのでしょうか?

江川:全くそんなことはありません。オリジナルイラストの投稿も可能ですし、今後はもっと外部の企画が増えていく予定です。

クリエイターは在庫リスク無し

作品販売までの流れ

ーー 類似サービスもいくつかある中で、誰が在庫を持つのか、クリエイターへの取り分をどれだけに設定するかは結構異なります。御社はどのような考えでこれらを設定しましたか?

江川:他社のサービスですとクリエイターが在庫を保有するケースが多いですが、MashRoom Cafeは受注生産方式ですので、クリエイターは在庫保有の必要がありません。

ある程度在庫リスクを回避する中で、その分クリエイターに利益を還元したいと思っています。グッズ販売に対して、クリエイターの取り分は10%と設定しています。

ーー 具体的にはどんなアイテムが売れ筋なのでしょうか?

江川:例えばYOASOBIやMAISONdes(メゾン・デ)といったZ世代に人気のアーティストですと、お小遣いでも買える価格帯のステッカー、缶バッジ、キーホルダーなどが人気です。もちろんTシャツは普遍的な人気がありますし、我々の想定を超えた売れ行きだったのはアクリルブロックです。アート的に飾りたい需要も少なくないのだと思います。

ーー ちなみにどんな方がクリエイター登録をしてくださっているのでしょうか?

江川:本当に千差万別だと思います。イラストを仕事にしている方とそうでない方の割合は半々ぐらいです。

X(旧Twitter)で万人単位のフォロワーを有する絵師さんもいらっしゃれば、アメリカ在住の10歳の女の子が登録してくれて驚いたこともありました。8月にテレビ東京の「WBS NEXT」でYOASOBI特集が放送された時にMashRoom Cafeのことも少し取り上げていただいたんですが、番組で取材されていたのは16歳の高校生でした。

先日からTM NETWORKのファンアート募集も始まりましたし、より幅広い年齢層、そしてSNSにあまり接点のない人にもぜひ参加いただきたいなと思っています。

ーー 御社も含め、大抵こうしたサービスは作品募集期間や販売期間が決まっている「期間限定イベント」的な位置付けになっているかと思います。これはなぜでしょうか?

江川:「終わりが決まっているからこそ権利元が参加しやすい」という理由が一番大きいですね。最初にお話しした「不安」を少しでも解消できる材料にもなりますし。

中には「無期限でもいいですよ」とおっしゃってくれた権利元もあるのですが、基本的には募集2カ月、販売4カ月とさせてもらっています。より多くの方が参加しやすくなる、参加したくなる期間を検討した結果ですが、今後も期間については企画によって柔軟に対応する予定です。

裏テーマは「より多くのクリエイターとのネットワーク構築」

YOASOBI「夜に駆ける」のストリーミング10億回再生を記念したファンアート募集企画では、MVを担当したイラストレーター、藍にいなの描きおろしイラストを用いたグッズ販売も行っている

ーー 「公式グッズ」と「二次創作グッズ」の関係性について、実際に事業をやってみて思うことは何かありますでしょうか?

江川:全く別のものだと思いますね。公式グッズの価値は言わずもがなですが、公式ではなかなか実現しづらい表現方法がある一方で、その敷居を軽々と飛び越えた魅力的なアートが生まれる可能性が二次創作にはあると思います。 

では二次創作を許可して何が得られるのか。それは正に、「公式では表現できないアートを通じて、新たなIPの魅力をファンとともに共有できる」ことだと思います。それを黙認するだけでなく、公式も参加することで、これまでとは違うファンコミュニティを形成することが可能となります。一方通行ではない、参加型の双方向性ファンコミュニティはIP価値を継続していく上で、非常に大切な取り組みだと感じています。

そしてその中から次世代を担う才能あふれるクリエイターが誕生してほしいと思っています。

最近では公式が「歌ってみた」「踊ってみた」を許可するケースも増えてきましたが、そこから新たなクリエイターが出てくるかも、と期待するのと同じ考え方ですね。もちろんそうした企画からオフィシャルの魅力を再発見するということも同様にあると思います。

ーー 作品が販売される前に審査が行われていますが、これはどのようなフローになっているのでしょうか?

江川:監修は二段階で行っております、一次監修は、まず当社が規約違反がないか、作品の「形式」に不備がないかを中心にチェックしています。例えば色を塗り忘れている箇所がないか、版ズレを起こしてしまうデータになっていないか、NG事項に設定している「楽曲の歌詞の使用」が無いかなどです。

二次監修は各権利元の監修となります。どういった観点でチェックするかは各社お任せにしています。ただ個人的な印象として、当初の想像以上に多くの作品が承認されているなと感じています。もう少しシビアな監修になるのではと思っていましたが、各権利元とも「ファンアートの楽しみ方とは何か」という点を非常に理解いただいているように思います。

ーー 今後のラインナップ展開、事業展開についてのお考えを可能な範囲で教えてください。

江川:10月2日からはガチャピン&ムックの50周年を記念したファンアート募集が始まりましたので、ファンの皆様は奮って応募していただけると嬉しいです。これからも続々とファンアート企画を準備していますので、是非楽しみに待っていていただけたら嬉しいです。

それに加えて当社としての裏テーマは「より多くのクリエイターとのネットワークを構築する」です。そのうえで最終的には新たなオリジナルヒットIPを作っていきたいと考えています。

実は既に、MashRoom Cafeに作品を投稿していただいたクリエイターに対して、別プロジェクトで制作依頼をしたケースがあります。イラストもマンガも音楽もダンサーも、二次創作や「◯◯してみた」で知名度を上げ、その後活躍している方々が今でもいくらでもいますよね。

ソニーミュージックグループにはさまざまな表現者が集まる中で、当社としても才能豊かなイラストレーター、漫画家、デザイナー、アニメーターを発掘していきたいと思います。