7回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。
今回のテーマは「郵便ポスト」。僕たちの日常に当たり前のようにある、あの赤くて四角い郵便ポストについて普段どれくらい意識していますか? 僕は小学生のころ、郵便ポストにとっても憧れました。だって、あのポストに手紙を入れたら、遠く離れたおじいちゃんの家に届くんですよ? 不思議すぎますよね。
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高橋 晋平 (たかはし しんぺい)
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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。
構成:北村有
ポストに不思議な魅力を感じるのはなぜ?
小さい頃、郵便ポストに手紙を入れるとおじいちゃんのところに届くのが不思議だったんです。脚の部分からマリオの土管みたいに地下を通っていくのだろうか、とかいろいろと考えてたんです。でも大人になった今でも郵便ポストって全貌が掴めない、魅力的な存在だと思うんです。これには大きく2つの要素が関係しています。
まず「取り返しのつかなさ」。一度投函してしまうと自分では取り出せません。切手を貼り忘れたり、宛名を間違えようものならいっかんの終わりという、やたら緊張感があります。この投函時のドキドキといったら、大人になった今でも変わりません。ついでに言えば、中に入れた手紙を回収する瞬間とかも、偶然見かけたらやたらと嬉しい。 見ようと思えばいくらでも見れるのに、どこか”裏側”を覗き見しているような感覚があります。
そしてとにかく色が赤い。古今東西ゲームで「赤」と言えばまず出てくるほど赤いわけで、街中にこれだけ赤いものって他に無いですよね。東京タワーぐらいでしょう。
日常生活に当たり前のようにある郵便ポスト。それなのにこれほどまでに非日常感があるのはかなり不思議なことだと思いますし、同時に“遊び”を作る仕事をする自分からすると実にヒントを感じます。
人は遊びを求め、非日常にときめく
僕は“遊び”を作るのが仕事なので常に意識していることではありますが、前回の「フリクションボールペン」の回でも書いたように、どの業界においても、商品やサービスに“遊び”を付加する視点は大事になってくると思っています。
フランスの社会学者であるロジェ・カイヨワという方が、「遊びの6条件」を提唱しているのでぜひ覚えておいて損はないと思います。実際に読んでみて、ピンとこない方はそれぞれの条件をスーパーマリオを当てはめて考えてもらうとわかりやすいかもしれません。記事のトピックからはズレますが、マリオは本当に優れた“遊び”であることがわかります。
もちろん郵便ポストが“遊び”の観点から作られているはずはないですが、上記のような要素を、ものづくりはもちろんのこと、デザインやサービスに、いかに組み込んでいくのかが非常に重要となってくると思います。
僕はカプセルトイ売り場を定点観測しています。秋葉原のとあるカプセルトイ売り場で、面白い現象を目撃しました。「バッグドッグ」というカプセルトイがあるんですが、どうやらこれが大人気。補充されてもあっという間になくなってしまうんです。
モノとしてはもう本当にシンプルにバッグとドッグがフュージョンしているだけのかわいいフィギュアですが、驚くべきスピードで売れていく。持っているだけでほんのちょっとした会話のきっかけになりそうとか、他のフィギュアとかと組み合わせたらすごいかわいいだろうな、とか、さまざまな“遊び”があることで購買行動に繋がっている例だと思います。
人は遊びを求めているし、非日常なものにときめきます。日常が当たり前だからこそ、非日常に面白さを感じるし、自然とそれを欲してしまう。僕が郵便ポストにただならぬ面白さを感じるのも、同じ理由です。日常に溶け込む当たり前のものなのに、こんなに何十年も面白いものなんて他にないですから。
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