株式会社ナノオプト・メディアが運営する国内最大級のインターネットテクノロジーイベント
「Interop Tokyo 2025」 が、2025年6月11日(水)から13日(金)の3日間、千葉・幕張メッセで開催される。Interopでは、毎年最先端ネットワークを構築し、実際に稼働させながら最新技術や相互接続性を検証する世界最大級のライブデモ
「ShowNet」 が注目を集めているが、今年はこのShowNetと技術的にも大きく関わりのある特別企画
「Data Center Summit」 が早くも盛り上がりを見せている。本年3月に日本データセンター協会の設立15周年を機に開催された 「Data Center Japan」 と連携し、業界関係者が一堂に会する特別企画だ。幕張メッセ ホール7に設けられた展示エリアでは30以上の出展者が集結するほか、会期を前に数多くのセッションやセミナーが満席となっている。
そこで本記事では、日本データセンター協会 (JDCC) の副理事長兼運営委員長で、Interop Tokyo カンファレンスのプログラム委員会議長を務める東京大学大学院
情報理工学系研究科の江崎 浩 教授と、Interop Tokyoプロデューサー/株式会社ナノオプト・メディア代表取締役社長の大嶋康彰氏の対談の様子をお伝えしたい。
生成AI時代に急拡大するデータセンター業界の変化と15年の歩み
大嶋:今年、日本データセンター協会(JDCC)が設立15周年を迎えました。データセンター業界の変化について、この15年を振り返ってどのように感じていますか。
江崎:設立当初は、データセンターの存在自体を知る人はあまり多くなく、ちょうどスマートフォンの普及が始まり、その裏側を支える存在としてデータセンターが注目され始めた時期でした。それがここ3年で、AIの登場により状況が一変しました。データセンターが一気にメジャーとなり、急激に増加しています。我々としても、驚くような状況になっているというのが実感です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)については、2000年頃からInteropで 「デジタルテクノロジーとインターネットで社会を変える」 動きがあり、5〜6年前には 「デジタル都市構想」 も出てきました。そこに生成AIが登場し、「インターネットの次のインターネット」 とも言える新しい段階に入りました。AIの基盤となるのがデータセンターであるという認識が強まっています。今は政府からも、データセンター・電力・通信を一体として発展させるシナリオの策定が指示されている段階です。
大嶋:いわゆる 「ワット・ビット連携」 ということで、データセンター、インターネット、電力は三位一体で取り組む必要があるということですね。一方、首都圏へのデータセンター集中に対して、地域分散の必要性も議論されていますが・・・
江崎:実は3年ほど前の有識者会議でも、北海道と九州は再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域として、新たな集約拠点をつくる提言がされていました。関東と関西は南海トラフ地震のリスクがあるため、九州(特に北九州)や北海道を戦略的拠点とする考えです。さらに、この地域は再生可能エネルギーの供給力も豊富で、そうした意味でも非常に有望だと思います。
また、エネルギー安全保障の観点からも再生可能エネルギー、つまり脱炭素エネルギーへの移行が不可欠です。関東や関西は再エネ資源に恵まれておらず、北海道と九州の重要性が高まっています。
大嶋:再生可能エネルギー施設の建設やデータセンター誘致に関して、地域住民の反対もありますが、地域へのメリットはあるのでしょうか。
江崎:率直に言うと、印西や京都で起きている問題は、いずれも海外の事業者が手がけたプロジェクトで、住民への説明が十分に行われていなかったことが原因なんです。特に京都のケースでは、設計ミスによって騒音が外に漏れてしまう構造になっていて、これは日本国内の事情をきちんと理解した事業者が建てるデータセンターでは通常あり得ないことです。
一方で、印西の例に見られるように、データセンターの進出によって地方税、特に固定資産税が大幅に増加しているので、地域の福祉サービスなど住民向けの施策もかなり充実してきているんですよね。

データセンターの最新技術動向と求められる“ハイスペック”なエンジニア像
大嶋:なるほど。データセンターの建設や運用にあたっては、さまざまな関連技術が関わってくるかと思いますが、現在注目されている分野や技術はありますか?
江崎:基本的にデータセンターは、InteropのShowNetでやっていることの巨大版だと思っていただければわかりやすいと思います。たとえば、ノック (NOC:Network Operation Center) のチームで取り組んでいた熱問題、スポットクーラーを入れても 「冷やしきれなかった」。あれと同じようなことが今、現実のデータセンターでも起こっているんです。
つまり、半導体の集積度が高くなり、それに伴い電力消費も増加しています。最初は負荷が少なく問題にならなかったのですが、風の流れ(空調)の設計をしっかり行わないと冷却が追いつかないという課題も出てきた。この状況は、データセンターでも同じで、イメージとしては、ShowNetの20×20メートル程度のエリアで起きていた問題が、そのまま100倍の規模になったようなものです。
さらにコンピューターは漏電などのリスクがあるため、水冷は避けられてきたのだけど、冷却効率の観点から徐々に考え方が変わってきました。コンピューターの熱密度が高くなり、空気だけでは十分に冷却できなくなっている。そのため、最近では水冷方式が導入されるようになってきました。実際、4~5年前からファーウェイ製の大型サーバーが水冷を採用されたり、ネットワーク機器の分野でも採用されています。これからは、コンピューターもネットワーク機器も、基本的には水冷方式に向かわざるを得ない状況ですよね。
大嶋:ShowNetでも、水道設備の工事が始まって驚きました。
江崎:今ではF1のプラグ技術のように、簡単に着脱できる冷却システムが導入されています。データセンターでも水漏れせずに簡単に接続できるようになっています。
大嶋:これまでのお話を伺っていると、エネルギーや建築といった物理的な側面や、ITの分野など、さまざまな要素がデータセンターには関わっていることが分かります。では、こうしたデータセンターを支えていくためには、どのような人材が必要になってくるのでしょうか?
江崎:実際、人材の数は年々減少しています。たとえば建設業界では、再開発が各地で進められているものの人手不足が深刻で、部材の確保も難しくなっていて、ロボット化を進めざるを得ません。さらに言うと、ロボットを現場に持ち込んで作業させるのではなく、最初から工場でモジュールやコンテナとして組み立てておき、現場にはそれを運んで設置するといった方式が主流になりつつあります。最近ではデータセンターでも同様に、ラックマウントされた機器をそのまま持ち込むケースが増えてきています。
そうすると現場の人手がいらなくなるので、一般的な設計のものは工場で組み立てておき、現場では並べてプラグインするだけで完了します。あとはエンジニアが遠隔から設定を行えば、運用が始められます。また最近のコンピューターは40度程度でも正常に稼働するので、人がいなくてもロボットで運用するなど、ハードウェアとソフトウェアを高度に活用した、自動運転型のデータセンターへと進化しつつあります。
大嶋:なるほど、つまり今後は人とロボットが役割分担しながら効率的に管理・運用していく形になるのですね。
江崎:ハードウェアの作業はかなりロボットに置き換えられる一方で、ソフトウェアの開発や運用は依然として人の手が必要です。もちろんAIの進化で業務の一部はAIに置き換わりますが、エンジニアにはより高い質が求められます。AIだけでは担えない部分も残るため、後継者の育成は依然として重要です。という意味でいうと、NOCチームのメンバーは職に困ることはないと思います。(笑)
特に経験していないインシデントへの対応などを考えると、ShowNetのNOCチームは非常に重要ですよね。まさにリアルな実験の場として非常に重要な知見を得る場所です。さらに言うと、ここで得られた学習データはAIの新たな知識となる価値の高いものであることは、皆さんも気付いているのではと感じます。
大嶋:ネットワーク業界の付加価値ビジネスが変わっていきそうですね。
江崎:従来型のコンサルタント業務はAIやデータ分析システムで代替されつつありますが、既存データに表れない事実を見抜いたり、新しい視点を生み出せる“ハイスペック”なコンサルタントやエンジニアの価値は今後も残ると思います。
大嶋:“ハイスペック” なエンジニアを育成するのは大変そうですね。
江崎:日本は少子化が進む一方、インドや東南アジアのように人口が増加している地域では、経済成長が続いていますが、AIの発展によって少子高齢化が進む国でも新たな強みを発揮できる可能性があります。その結果、教育プログラムも大量育成型から少数精鋭型へとシフトし、限られた人材に対してより質の高い教育を行う方向に変わっていくでしょう。
大嶋:そうすると日本のIT教育はこれからますます重要になりますね。
江崎:それを実現しないと、生き残ることが難しくなります。

Interop Tokyo で最も注目を集める 「Data Center Summit」 の見どころ
大嶋:話は変わりますが、3月に行われた日本データセンター協会 (JDCC) 設立15周年記念イベントとして開催された 「Data Center Japan 2025」 が大変盛り上がりましたが、江崎先生の印象はいかがでしたか?
江崎:良い時期に開催できましたね。日本データセンター協会の中には、大規模なデータセンターの運用をされている企業もあれば、データセンターにさまざまな機材等を提供されているベンダーも数多くいらっしゃるのですが、その方々がPRできた良い機会になったと思います。
大嶋:その続編ともいえる企画が、Interopの特別企画 「Data Center Summit」 ですね。初開催ですが、多くの企業が出展し、セッションも満席となるなど我々も手応えを感じています。
江崎:やはりAIの影響が大きいですね。海外ではマイクロソフトがAI向けデータセンターのために原発の電力を長期契約するなど、巨大テック企業による電力調達の動きもある中、日本でもAIの急速な普及でデータセンターや半導体工場が拡大し、電力需要が増加しています。グローバルな視点でも、データガバナンスや海底ケーブル、円安、低インフレ率などの要因から、日本は魅力的な投資先と見られています。
大嶋:そうした中で開催されるInteropとData Center Summitですが、江崎先生のおすすめの見どころはどんなところでしょうか。
江崎:ShowNetはデータセンターのショーケースのようなものなのです。データセンター向けのサーバーやルーターなども設置されており、限られた環境下で機器を動作させる実験も行われています。今までは、インターフェースや筐体の堅牢性などに目がいっていましたが、今回はインフラ全体としてどう見るかによって、面白いフェーズに入っていると感じることができると思います。
またセッションではワット・ビット連携やAIを前提としたトピック、人材についても取り上げられます。
大嶋:ありがとうございます。ご来場の皆さんには、今回のInteropのテーマでもある 「社会に浸透するAIとインターネット」 によって訪れる新しい時代の節目を感じていただくということですね。本日はありがとうございました。

生成AIの急速な普及を背景に、今回のInterop Tokyoで最も注目を集めている「Data Center Summit」。ShowNetのラックの中にも関連コーナーやプロダクトが数多く設置されており、江崎教授も 「ShowNetをご覧いただくことでデータセンターの真髄に触れ、なぜ今Interopの中でData Center Summitを開催するのか、その意義をご理解いただけるはずです。」 と語る。ぜひInterop Tokyoに来場された際には、Data Center Summitのエリアに足を運んでほしい。
Interop Tokyo 特別企画 「Data
Center Summit」
https://www.interop.jp/2025/exhibition/datacentersummit/
Interop Tokyo 2025
会期:2025年6月11日(水)~13日(金)
会場:幕張メッセ(国際展示場 展示ホール4~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効
公式ホームページ
https://www.interop.jp/