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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております
うつ病を患いPTSDに悩み、歌舞伎町の路上で売人から…
罪名 覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反
O被告人 無職の女性(47)
起訴されたのは2件です。
1件目は、2023年1月22日に山梨県内のキャンプ場でO被告人が覚せい剤(フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩)を加熱して気化し、吸引した件。
2件目は、同日に東京都渋谷区の路上でO被告人が覚せい剤(フェニルメチルアミノプロパン)の結晶0.146g、MDMA0.132g、LSDの紙片0.007gを所持した件。
罪状認否でO被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、O被告人は大学卒業後に会社員として勤務し、犯行当時も会社員。前科前歴は無く今回が初めての逮捕・裁判。現在は交際相手と同居しているとのこと。O被告人は2022年11月に密売人から覚せい剤を購入して使用を開始。2023年1月16日に密売人から覚せい剤を購入した時にサービスとしてMDMAとLSDを貰い、財布の中に入れっぱなしにしていたという。
犯行日の朝、O被告人は山梨県の山中湖近くのキャンプ場で覚せい剤を使用し、車を運転して自宅へ。帰宅途中にO被告人はMDMAとLSDや覚せい剤などが入った財布を落としたという。翌日、警察署に財布を受け取りに行ったところ、O被告人の目前で財布内の薬物の分析が行われて、尿検査の後に逮捕に至ったというのが事件の流れです。
財布を落としてなければ発覚しなかったかもしれない事件ということになります。
取り調べに対してO被告人は「仕事を忘れられたり、集中できたりするのが魅力で使用した。今まで密売人から3回覚せい剤を購入した。最後に使ったのは1月22日の朝で、アルミで巻いて気化して吸った」と述べているそうです。
一方、弁護人からは勤務先であるテレビ局から2月1日付けで懲戒解雇されたこと、うつ病の治療で通院していることが証拠として提出されました。
そして、被告人質問。まずは弁護人から。
弁護人「持っていた覚せい剤は誰から買ったんですか?」
O被告人「黒人の売人から買いました」
弁護人「どこでですか?」
O被告人「新宿の歌舞伎町の区役所通りです」
弁護人「何故そこで買うことになったんですか?」
O被告人「以前声を掛けられたので行ってみました」
繁華街の人通りの多い道ですけど、こんなところで違法薬物の販売をしてる人がいるんですね。売る側も買う側もリスクありそう。個人的にはここを歩いてて、違法薬物の購入を持ち掛けられたことは一度も無いですけどね。
弁護人「使った場所はどこですか?」
O被告人「山中湖のキャンプ場です」
弁護人「誰と行ったんですか?」
O被告人「1人で行きました。年末の仕事が落ち着いたので」
弁護人「何故、そこで使用したんでしょうか?」
O被告人「キャンプ中にうつのPTSDが発症して仕事のことを思い出してしまって…」
弁護人「仕事って具体的にどんな悩みがあったんですか?」
O被告人「部署に人が少ないので私に仕事が集中していたのと、上司とコミュニケーションが取れずストレスが溜まってました」
弁護人「部署は何人でした?」
O被告人「5人です」
弁護人「あなたがリーダー的存在だった?」
O被告人「はい」
弁護人「いくつのプロジェクトを同時に受け持ってましたか?」
O被告人「4つです」
弁護人「睡眠時間はどれくらいでした?」
O被告人「3時間です」
弁護人「仕事以外、プライベートではどんなことがありましたか?」
O被告人「13年来、うつを患っていて、去年11月からはPTSDが出るようになって辛くなっていました…」
仕事が忙しすぎたのが原因なんでしょうか。かなり苦しみながら仕事をしていたようです。
弁護人「覚せい剤を使って、残りをその場で捨てずに持ち帰ったのは何故ですか?」
O被告人「ゴミを捨てられないキャンプ場だったので持ち帰り、財布に入れてました」
覚せい剤取締法には違反してしまったので、せめてキャンプ場のルールだけは守ろうと思ったのか、捨てたらバレると思ったのか。
新たな仕事のメドが立ち、サポートを受ける体制も構築。判決がどうなるか
弁護人「本件はニュースで実名報道されたのは知ってますか?」
O被告人「弁護人から聞きましたし、保釈されてからも知人とか周りの人から聞きました」
弁護人「それについては?」
O被告人「辛い気持ちはありますが、メディアの会社として自分のやったことなので仕方ないと思います」
実名報道されたことで再犯防止のきっかけになるケースはありますからね。辛いと思うより、大きく報道されて運が良いという捉え方をした方が、気が楽かもしれませんね。
弁護人「今後、どうやって薬物を断ちますか?」
O被告人「クスリに近付かないのと毎週病院の先生と会って話し合っています。仕事仲間からのオファーもあるので、信頼に応えていきたいです」
弁護人「今後ストレスが溜まったらどうしますか?」
O被告人「今まで自分の弱いところとか悩みを相談出来なかったのですが、家族や友人に相談します」
弁護人「仲間に言いたいことはありますか?」
O被告人「長い間築いた信頼を一瞬で消してしまいました。これで離れていってしまうと思っていましたが、多くの人に支えられて。期待に応えたいです」
次の仕事が決まりそうとのことです。信頼は失ったけど、今まで仕事ぶりが評価されていたということでしょう。再犯しないことを約束して弁護人からの質問は終了。
続いて検察官からの質問です。
検察官「仕事のストレスが原因で使ったと。誰かに相談は?」
O被告人「今までできずに生きてきました」
検察官「会社の相談室とかサポートにも言えなかった?」
O被告人「はい」
検察官「交際相手には?」
O被告人「弱いところを見せたくないのと言いづらかったです」
元々の性格として強がったり意地っ張りなところがあったようです。
検察官「今まで休職したことは?」
O被告人「あります」
検察官「一回休もうとは思わなかったですか?」
O被告人「今年になって(仕事が)人並みに出来るようになって、休みたくないなと」
検察官「さっき仕事のオファーが来てると言ってましたけど、仕事の忙しさはどうなんですか?」
O被告人「自分で引き受けるので、受け方次第です」
検察官「またストレス溜まったらどうします?」
O被告人「これまで周りに相談せずに溜め込んでいたので、友人や上司に相談します」
検察官「相談できないときはどうします?」
O被告人「う〜ん…相談できないことが想像できないのですが…何でも話せる人ができたので」
今回の逮捕があっても離れずにいてくれた友人に、何も隠すことなくいろんな話をしているんでしょう。
検察官「仕事のストレスが溜まった時だけではなく、性行為の前に使ったことはありませんか?」
O被告人「ありません」
検察官「取り調べ調書にはそう書いてありますよ」
O被告人「……黙秘します」
違法薬物は性行為時に使用してクセになってしまうパターンもあるので、検察官としては再犯防止の観点から確認したかったようですが、そこは黙秘権行使です。
検察官「山梨へは何で行ったんですか?」
O被告人「自家用車です」
検察官「ご自身で運転したと?」
O被告人「はい」
検察官「覚せい剤を持ち帰った理由としてキャンプ場はゴミが捨てられなかったと答えていましたけど、パーキングエリアなどでも捨てられたのではないですか?」
O被告人「パーキングエリアって、外からのゴミの持ち込みは禁止かと思いますけど…。まあ、疲れていたので早く帰りたくて」
何故かO被告人はゴミの仕分けだけはきっちりしてるんですよね。検察官としては「残りの覚せい剤も使うつもりで持ち帰ったんだろう」という主旨で訊いてるんだろうけど、パーキングエリアのゴミ箱に持ち込んだゴミを捨てるのは良くないという主張です。
最後は裁判官からの質問です。
裁判官「同居人はあなたによる覚せい剤の使用を知らなかったんですか?」
O被告人「はい」
裁判官「調書には他にも使っていたと。どこでですか?」
O被告人「1人でキャンプ場に行った時しか使ってません」
同居人には隠しているので、ソロキャンプ=違法薬物の吸引場所という認識が被告人の中で出来上がっていたんでしょうね。
これで被告人質問は終了。
この後に検察官がO被告人には覚せい剤への依存性と親和性が見られるとして、懲役2年と覚せい剤・MDMA・LSDの没収という求刑をしました。
一方弁護人は、O被告人は罪を認めて反省していて、CG技術を活かして次の仕事に向けて動いているので執行猶予付きの寛大な処分が相当と弁論で述べていました。
テレビ局の社員って華やかなイメージもある職業ですが、他の会社と同じように人それぞれ悩みを抱えて働いているのかもしれませんね。
※編集部より(4月27日 21:30)
記事のトップ画像および本文の記述を一部修正しました
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