RECセンター長の木村睦氏
文:伊東孝晃
30年以上にわたる産学連携実績を誇る
Ryukoku Extension Center(REC) は、龍谷大学瀬田キャンパスが開設された2年後の1991年に開設。地域の中小企業やベンチャー企業の技術・研究開発の支援と、地域の人々への学びの場を提供する公開講座を実施しており、全国に先駆けて産学連携のあり方を示してきた。25室のレンタルラボ(インキュベーション施設)を設置し、この30年間で40社あまりの共同研究型ベンチャーが設立されている。化学系・加工系・電子系・情報系など、幅広い分野に及ぶ研究開発や社会実装に取り組む同拠点の概要をセンター長である木村睦教授に聞いた。
「滋賀県は県内総生産の46%が製造業。全国1位の工業県で、京都・大阪・兵庫・奈良に本社を置く企業の開発拠点や工場が多数あります。当拠点も滋賀経済産業協会、金融機関との連携を行いながら中小企業やベンチャー企業の技術、研究開発の支援を行っています。2014年には滋賀県中小企業団体中央会と共同で約90社が加盟するコンソーシアムを設立しました。企業からの技術相談は年間100件ほど請け負っており、地域別では拠点のある滋賀が40%、関西圏の地元企業が25%、残りがその他の地方です。規模感では60%が中小企業、30%が大企業で、いずれの分野も比較的同程度の相談件数となっています。現在は16の企業にレンタルラボをご利用いただいており、33名のスタッフで瀬田キャンパスの知財センターと産学連携、深草キャンパスの公開講座・社会連携という3つの部門を運営しています」(木村氏)
AI・データサイエンス分野の共同研究にも自信アリ
産学連携の研究体制として、2020年4月に理工学部を先端理工学部に改組。縦割り的な専門技術の学科制から、専門性を主軸に複数の分野を横断して学べる課程制への移行を遂げている。
「これまで当拠点では専門性を高度に追及し、先進技術を創出してきました。しかし、時代や社会が変化する中でAI・データサイエンスなどの技術が登場し、それに対応する幅広い分野での技術結集が重要と考え、学部の最適化に至りました。先端理工学部と農学部には企業出身者を含む173名の研究者が在籍しており、社会実装においてもすでにマイクロ波を用いた異物検査装置の高性能化、マイクロ水力と太陽光のハイブリッド発電システム、摩擦圧接による空調用薄肉パイプの低コスト化、重量物運搬者用の自律移動技術といった実績を築いています。滋賀県の企業は若干IT系に弱いという傾向がありますが、その部分においても当拠点がAI応用に対応しているので役に立てるかと思います。また環境系の取り組みでは下水などからレアメタルを回収する廃水処理の研究を行っています。共同研究・受託研究・技術指導 という産学連携については当拠点のコーディネーターが企業と研究者とのマッチングを行い、技術課題の解決のみにとどまらず、知財的財産の共同出願なども行っています。 産学連携を進めるには、企業側の技術の受け手が明確になっていることが重要で、この場合、順調に共同研究・受託研究・技術指導を進めることができます」(木村氏)
「仏教SDGs」をテーマに地域振興に貢献
STEAMコモンズのフロア紹介図
後進育成の取り組みとして、2022年4月には学生による主体的なものづくり、デザインを通した交流・活動空間として瀬田キャンパス内の智光館にSTEAMコモンズを設置。Science(科学) 、Technology(技術)、 Engineering(工学) 、Arts(アート)、 Mathematics(数学)の頭文字を取ったもので、若い世代が文系・理系を問わずに学びを深めることができる施設となっている。
「STEAMコモンズは、学生たちによる自主的な創造活動のためのスペースとして開設されました。施設内には最先端の3DプリンタやUVプリンタ、レーザー加工機、電気的な測定機器、旋盤などの工作機器も備えています。グローバルラウンジとキッチンエリアにはグリーンバック撮影用の設備やカメラ、専用PCもあるので研究や実証の様子を撮影して動画制作を行うことも可能です。学会発表の練習に使うこともでき、アイデアコンテストなども実施しています。学生向けの施設ですが、使い方としては地域との連携が増えてきており、RECの活動ともリンクする部分が多々あります。先日もインターンシップに行った学生の研究をポスターで紹介するコンソーシアムイベントを行いました」(木村氏)
今後の展開については、仏教大学としての姿勢にもとづき、グローバルな情報発信、滋賀を起点とするより良い社会の実現に向けた取り組みを活発化させる。
「龍谷大学は『誰一人取り残さない』という考え方をモットーとしており、最近では『まごころ~Magokoro~ある活動』をキーワードに大学全体で『仏教SDGs』という方針を明確にしています。これまでにも地域住民向けの生涯学習事業として公開講座をやっていましたが、2023年度からは『アカデミックプラザ』という名称でオンライン講座を含めた専門知識の発信を開始します。地域貢献の取り組みとしては、地元企業との連携によるスマート電力蓄電システムの開発と実証実験、2015年に開設された農学部と先端理工学部の協働・連携によるアグリDX事業も行っており、中小企業によるカーボンニュートラル実現や農業の持続的な成長に貢献していきます」(木村氏)