文・写真:舩岡花奈(FINDERS編集部) 一部写真提供:BACKSTAGE
2/9に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「体験型マーケティング」をテーマとするカンファレンス「BACKSTAGE 2023」。
BACKSTAGEは、国内初のイベンター向けカンファレンスとして2016年にスタート。BtoC、BtoB問わず、エンタメ、スタートアップ、都市開発やまちづくりなど、さまざまな分野で活躍するイベンターやマーケターを招いて、学びや出会いの機会を提供している。
2020年12月の開催からおよそ2年ぶりとなる今回は、思いがけない出会いや発見の場として「2年ぶりの“邂逅”」を今年のテーマに据えた11のトークセッションが行われた。またセッション会場の隣にはEXHIBITION AREAが設けられ、イベント業界にまつわるサービスの紹介や最新製品など21ブースの展示がされた。
都市と地方、それぞれのマーケティング戦略はどう変わる?
10時の開場から会場に入ると、すぐに席は埋まりはじめたことに驚いた。2年ぶりの開催のせいか、参加者の期待感の高まりを強く感じる。
10:30から行われたオープニングセッションでは、BACKSTAGE実行委員長ヒラヤマコウスケ氏(イベントレジスト株式会社 代表取締役/CEO)とBACKSTAGE実行委員樋口陽子氏(月刊イベントマーケティング編集長)が2年ぶりの開催を宣言し、イベントの幕を開けた。
会場左端のサブステージから、格闘技の試合風の演出でスピーカーが登場。思い思いのポージングで会場を沸かせた。
トークセッションではBtoBマーケティングやライブエンターテインメント、都市開発などさまざまなテーマを扱っていた。中から、都市と地方それぞれの戦略が垣間見える2つのセッションを紹介しよう。
「虎ノ門ヒルズエリアにクリエイティブエコシステムを構築〜 TOKYO NODE LAB が創る、都市とXRが融合する世界〜」では、森ビルの杉山央氏と日本テレビの加藤友規氏、バスキュールの朴正義氏が登壇した。
写真左から朴正義氏(オンライン参加)、杉山央氏、加藤友規氏
セッションでは2023年秋開業の虎ノ門ヒルズ ステーションタワーにオープンする情報発信拠点「TOKYO NODE」内にて、XRライブ配信が可能なボリュメトリックスタジオやカフェが併設された「TOKYO NODE LAB」について紹介された。
「TOKYO NODE LAB」は、森ビル、日本テレビ、バスキュールを含めるテレビ局やクリエイター集団、テック企業、映像製作会社など11社が集まりスタートした取り組み。発足について「ハウス(建物)をつくるだけがまちづくりじゃなく、そのなかでコミュニティをつくること、街に来たお客様に新しい価値を提供することまでが、まちづくりの仕事だと思っています」と、杉山氏は語る。
加藤氏は、米・オースティンで毎年開催される「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)」を比較に挙げながら、「イノベーションのアイディアがどんどん集まってくるんですよね。イベントの枠組みを超えてまつりになっていくんです。(SXSWのように)10年かけてイノベーションを毎年生み出すようなイベントを作っていけたらと思っています」と「TOKYO NODE LAB」を通じて、SXSWのような街を挙げての「お祭」を作りたいという。
朴氏は、TOKYO NODE LABの役割について「コストをかけずに気軽にプロトタイピングができる施設」と説明。年々進化するテクノロジーだが、同時に機材などにかかるコストも上昇。大規模なものになるほど、クリエイターが気軽にものづくりを試せなくなるため、そのコストを施設や街が負担することで、虎ノ門をアーティストやクリエイターに「開かれた街」へしていきたいと思いを語った。
「世界からみた、これからの日本のサウナ」では昨今ブームが続くサウナについて、熱波師の五塔熱子氏、おふろcafé utatane支配人の新谷竹朗氏、サウナと地域を結びつけるコンテンツを手がける橋本健太郎氏が登壇し、世界のサウナ事情や、サウナを用いた日本での地域起こしにフォーカスしてトークが展開。
左から橋本健太郎氏、新谷竹朗氏、五塔熱子氏
新谷氏がプロデュースする埼玉県大宮の「おふろcafé utatane」は、入浴施設のメイン客層であった50代男性やファミリー層ではなく、あえて20、30代の女性に向けたレジャー施設としてリニューアルすることで、これまでとは異なる客層の取り込みに成功。さらに朝風呂、1時間単位での利用、フリータイム、宿泊など料金形態を細かく設定することで、日常的に利用する近隣の住人と、娯楽として楽しむ遠方からの利用者など幅広い層に愛される施設になったと明かす。
地方におけるサウナ経営の課題として、「ひとつのターゲットに絞らず幅広い層に対応できることが必要」と新谷氏。サウナブームが巻き起こる一方で、地方では人口減少や高齢化が著しく、首都圏の都市型施設と同じ形では運営できない。地域に応じた形での経営を考える必要性を訴える。
五塔氏は、サウナを切り口とした観光を促す鳥取県のPR施策「ととのうとっとり」について紹介。もともと温浴文化の豊かであった鳥取県において、YouTubeや、SNSを活用した鳥取のサウナ文化の発信や「サウナ旅」プランの提案などを行っている。五塔氏が2021年に、日本で最も過疎に悩む地域である鳥取県琴浦町に地域おこし協力隊員として移住し、さらに鳥取県のCEA(チーフ・エグゼクティブ・アウフギーサー:サウナ内の温度や湿度を整える熱波師)に就任したことで動きだしたプロジェクトだ。
鳥取県では、サウナ施設の修繕・改修に使用する補助金が出ると五塔氏が明かすと、会場からは「え〜〜!」とその日一番の驚きの声。五塔氏の存在だけでなく、県をあげての取り組みも徐々に結果に繋がり、現在では関東からもサウナを目的に観光客が訪れるほどにまでなったという。PRだけでなく、本気で「サウナ県」として取り組んでいることが伺える。
トークだけじゃない。コミュニティとしてのBACKSTAGE
EXHIBITION AREA横の交流ブースでは、トークセッションに出演したスピーカーが登場するミニトーク「Fireside Chat」が行われた。焚き火のそばで語らうような親密な雰囲気の中、スピーカーは参加者からの質問に答えるなど、セッションでは語りきれなかった小話、裏話などが語られた。また同会場では商談テーブルが用意されており、本イベントで導入されているマッチングシステム「Jublia」を使用して会場内の登録者とアポイントが取れる仕組みなどが用意され、登壇者と参加者や参加者同士が名刺を交換するシーンなどもみられ、単なるトークイベントではない、「コミュニティ」としての側面が垣間見えた。
Fireside Chatの様子
今回行われたリアルイベントでは、トークセッションから得る受け身の学びだけではなく、参加者同士やスピーカー、展示担当者と能動的にコミュニケーションを取ることで生まれる新たな気づきが生まれているようだった。
BACKSTAGEは、イベントやマーケティングの最新事例紹介だけでなく、リアルイベントだからこそ生み出せる価値体験を提供するイベントとして、2年ぶりに見事カムバックを果たしたと言えるだろう。リアルイベントのさらなる活性化が期待される2024年、どのようなイベントとなるのか今から楽しみだ。
FINDERSでは、トークセッション「スタートアップの決断 — 自社イベントに踏み出すタイミングと、成功に導く組織の作り方」のレポートも公開予定だ。ぜひご覧いただきたい。
なおアーカイブ配信は3月31日まで実施している(一部アーカイブ配信の無いセッションもあり)。視聴には、「アーカイブ視聴」チケットが必要で、「虎ノ門ヒルズ来場用チケット」のある方は視聴可能(チケット・視聴方法はイベントレジストの販売ページまで。)