EVENT | 2022/10/14

世界中で話題を呼んだ「タイ大麻解禁」に秘められたビジョン。「東洋の医療」として世界にアピール

写真中央の男性が今回取材したジョーさん
【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(5)

大麻博物館 ...

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タイは「大麻大国」のポジションを確立するか?

バンコクにあるCANNA LIFEのPR写真より。チェンマイの施設など、中にはリゾートホテル内に入っているケースもあり、今後はフランチャイズ展開を進めていくとのこと

大麻博物館:タイ政府は大麻に関するルールをどんどん変更し、混乱しているのかと思う一方で、先行したカナダやアメリカの一部州の動きをよく観察し、非常にクレバーかつ戦略的に動いている印象も受けます。

ジョー:そう思います。東南アジアの出来事ということで、下に見る傾向もあると思いますが、政策決定を行っている上層部は海外で高度な教育を受け、ビジネスセンスもあり、当然先行事例もよく勉強しています。法律がコロコロ変わるため、外からは場当たり的にやっているように見えるかもしれませんが、かなり計算されていると私は考えています。

中でも、タイ政府が行った大きな変更の一つは「大麻を自分で育てられるようにしたこと」です。大麻の苗を100万株も配って栽培のハードルを下げたというケースは世界的にも前例がないでしょうが、国内でも非常に高く評価されています。

大麻博物館:国として、長期的にどういう狙いがあると見ていますか?

ジョー:内需を拡大させる、あるいは税収増というより、海外需要を取り込む大麻立国を考えているのではと感じます。世界的に「大麻大国」というポジションを確立し、製品を海外に売っていく。タイは人件費も安価で、気候的に年4~5回は栽培することが可能で、政府も北米のような特別に重い税金をかけようという考えもありません。大麻原産国としての土壌は既に出来つつあるという印象です。

また、大麻ばかりがフォーカスされてしまっていますが、実は国としては大麻以外のものを含んだ「タイのハーブ」をアピールしようとしています。いわゆる「東洋の医療」として、国際的なアピールや医療ツーリズムの促進を目指しています。その切り札としての大麻という位置づけでしょうか。

「タイの事例」は日本にどんな示唆をもたらすか

大麻博物館:日本では9月末に厚労省が大麻取締法改正に向けた骨子案を示し、今後大麻の医療目的の利用などにおいて規制緩和(使用罪の創設とセットではありますが)が進んでいく見通しです。そのような状況の中、日本でもタイの取り組みに関心を持つ人は急増していると思います。

ジョー:規制緩和後、実際に日本からタイに移住し、ディスペンサリーの開業や栽培を始めた人も出てきています。もちろんトラベラーは多いですし、個人的に連絡いただくことも多いです。

またTwitterなどを見ていると「日本でも早く大麻の合法化を」といった意見をよく見ますが、タイは長い期間をかけて地ならしをしてきた訳で、いきなり変わったわけではないということはお伝えしたいと思います。そのため日本が変わるためには、かなりの時間が必要だと思います。焦ればそれだけ世論のコンセンサスからは遠のき、逆効果だとも感じます。大麻で痛みを緩和できるといった事例や、終末医療において大麻がクオリティオブライフを向上するといった事例を地道に紹介していくしかない。そういう意味で、タイの様々な事例を活用して行って欲しいと考えています。

(まとめ)
タイの保健省では、これまでの大麻に関する取り組みについて「懸念されていたほどの社会的な混乱や影響を与えていない」と評価しているそうです。一方で直近のタイの世論調査では、否定的な意見も少なくなく、国民のさらなる理解が課題と言えます。

「東南アジアにおける初の大麻解禁」という報道はインパクトがあり、テレビ・新聞・週刊誌・Webメディア、YouTubeなどあらゆるメディアでも大きく取り扱われています。それらの報道ではあまり語られていませんが、今回、最も印象的だったのが、「東洋の医療」を世界でアピールしていく切り札が大麻であるという点です。世界には無医村などで伝統医療・民間医療に頼らざるを得ない人たちも多く存在し、また日本の国民皆保険のような制度設計をしていない国も多く、例えばアメリカなどは「医療格差社会」となっています。通常医療へのアクセス難易度や金額が国や地域によって異なり、さらにコロナ禍をきっかけにある種の医療不信が広がっているという背景もある中、タイが国として、大麻という「切り札」を使い戦略的に動いている、その本気さを改めて感じました。

今後、タイ政府は2019年に「タイ古式マッサージ」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのに続き、「タイの大麻」でも登録を目指しているそうです。この大胆かつ、大きな可能性を感じさせる取り組みのこれからを、私たちも注視したいと思います。


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