Photo by Shutterstock
中国の人権問題が世界的にクローズアップされ、米中冷戦も激しさを増す中で、日本国、および日本企業はどういう態度でこれに臨めばいいのでしょうか?
私は、これを単なる受け身の問題として捉えずに、日本という国の存在価値を大きく国際社会にねじ込んでいくチャンスとして捉えたいと思っています。
今回の記事では、アジアと欧米の間で生きてきた日本にこそできる、私たちにしかできない貢献の道について考えてみます。
倉本圭造
経営コンサルタント・経済思想家
1978年神戸市生まれ。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感、その探求を単身スタートさせる。まずは「今を生きる日本人の全体像」を過不足なく体験として知るため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、時にはカルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働くフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングプロジェクトのかたわら、「個人の人生戦略コンサルティング」の中で、当初は誰もに不可能と言われたエコ系技術新事業創成や、ニートの社会再参加、元小学校教員がはじめた塾がキャンセル待ちが続出する大盛況となるなど、幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。アマゾンKDPより「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」、星海社新書より『21世紀の薩長同盟を結べ』、晶文社より『日本がアメリカに勝つ方法』発売中。
1:世界中の企業が「踏み絵」を迫られている

H&Mは微博で「これまでどおり中国の消費者を尊重する、いかなる政治的立場も取らない」といった趣旨のコメントを投稿した
中国の(特に新疆ウイグル自治区における)人権問題について、日本企業が「踏み絵」的に難しい決断を迫られる場面が増えてきています。
最近話題になった中でも、
…といった例がありました。
実際のところ、こういう問題は欧米企業でも同じで、H&Mは欧米においては高まる批判の声に応えて「懸念を表明」したりはするけれども、中国の現地法人は「これまでどおり中国の消費者を尊重する、いかなる政治的立場も取らない」とユニクロと変わらないようなコメントを微博に投稿していたりします。
結局世界中どこのアパレルメーカーも、巨大な中国市場を失いたくないし、一方で高まる人権関連の懸念にも応える必要があるし、という板挟み状態にあるわけですね。
中でもナイキなどのいくつかのアパレルメーカーは「新疆ウイグル産綿花の使用中止」に踏み込みましたが、案の定中国では強烈な不買運動が行われているようです。
折しも15日夜から菅首相は日米首脳会談に向けて渡米しており、ロイターの記事「日米首脳会談、台湾巡り結束示す公算 共同声明で合意へ=米高官」によると、米国は日本と共同声明で「台湾を支持する」表明を求めてくる見通しだそうで、政治的に「米・日VS中国」といった図式が激化することは避けられません。
この難しい国際状況の中で、日本および日本企業はどういう振る舞いをしていくべきでしょうか?
2:「どっちについたらトク」じゃない“誠意ある道”を

Photo by Shutterstock
この話になると、ついつい「どっちについたらトクなのか」という話になってしまいがちですよね。
「中国市場でボイコットされないようにする」方がトクなのか?それとも「人権に配慮している態度を見せることで欧米における評判を取る」方がトクなのか?
人権問題を「トクかどうか」で天秤にかけること自体がどうなのかというところはあるものの、少なくともそういう「どっちがトクか」で行動する存在が、信頼や敬意を得ることは難しいでしょう。そういうのってどこか透けて見えるものですからね。
では、この難しい状況の中で、日本企業および日本国が取っていくべき態度とはどういうものでしょうか?
まずは「新疆ウイグル自治区で起きていることを、欧米側の視点だけでも中国側の視点だけでもないかたちでちゃんと調べていく」ことだと私は考えています。
「こいつは悪だ」と決めてかかった時の「欧米メディア」の報道がときに物凄く一面的で偏見に満ちたものになりえるか…ということは、「イラクに大量破壊兵器がある」というレベルの大問題から日常レベルの話まで、欧米内の現象を扱った記事であればあまり出ない、あるいはすぐさま反論が飛び出すであろうレベルのザツな取材や曲解が珍しくないことを、「非欧米」の日本人なら多少なりとも悔しい思いをして知っているはずです。
一方で日本においては、ここ最近目についたものだけでも、
毎日新聞の米村耕一氏の記事「「刑務所」は実在した。新疆で考えたウイグル問題」
東京大学の丸川知雄氏によるニューズウィークの記事「新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?」
など、独自取材・考察に基づく「中国で何が起きているのか」に関する論考がチラホラ出てきています。
彼らの記事を読むと、
中国側のプロパガンダにあるようなバラ色の新疆ウイグルはさすがにウソ
だが、一方で
欧米メディアが「糾弾モード」に入った時にアレもコレもと報道されるネタには証拠が詰めきれず憶測の域を出ないものも多い
ことがわかります。
欧米世界が今まさに中国を「許されざる敵」認定して、一気に叩きに走ってるんだから何も考えずに尻馬に乗って批判しておきゃいいんだよ!と思う人もいるかもしれませんが、そういう態度で中国側が納得するわけがありませんよね。
世界のGDPに占める欧米の割合が年々減り続ける21世紀には、“欧米”というのは世界人口の10%強しかいない狭い世界なのだという事実と向き合う必要がある世界でもあります。
本当に中国に態度を改めさせたいからこそ、「批判の内容」に曲解や虚偽が含まれていないかを真剣に精査する必要がある。
そういう役割を担っていくことこそが、「どっちについたらトク」とかではない本当の誠意の道であるはずです。
次ページ 3:中国人や「中国シンパシーを持つ世界中の人」も納得できる姿勢を示さねば禍根が残る