文:滝水瞳
美しい海に広がるサンゴ礁。しかしその数は世界的に激減し、絶滅の危機に瀕している。
そんなサンゴ礁にとって、天敵とも言える存在が海藻だ。海藻は海面を覆って太陽光を遮断し、サンゴの成長や生殖周期に悪影響を与える。さらに、魚が嫌う有害な化学物質を放出し、サンゴ礁を住処としている生物の生態系に大きな影響を及ぼすのだ。
そんな中、米国フロリダ国際大学らの研究チームが学術雑誌『Current Biology』に海藻からサンゴ礁を守ってくれるかもしれない生物の存在を発表し、話題となっている。
天敵である海藻を食べる「サンゴ礁のヤギ」
同大学の研究チームは、カリブ海に生息する草食甲殻類であるカニ(Maguimithrax spinosissimus)がサンゴの繁殖を促進し、魚類の数を増加させ、海の生態系を改善させる可能性があると発表した。
このカニは、サンゴにとって優しい存在ではない海藻を大量に食べるだけでなく、他の生物が食べないような有毒で消化しづらい種類の海藻まで捕食するとのこと。研究チームの一人である同大学のマーク・バトラー氏は、このカニを「サンゴ礁のヤギ」と形容し、その活躍に期待を寄せた。
研究チームはまず、世界で 3 番目に大きなバリアリーフのあるフロリダ州のフロリダキーズ諸島で調査を実施。捕獲したカニを特定のサンゴ礁に放流し、1年間かけてその変化を観察した。すると、サンゴを覆っていた海藻は50~80%減り、サンゴの幼生(子ども)数も3~5倍に増加。魚類の生息種や個体数も増加したという。
さらに別の場所で行った観察でも同様の結果になったことから、研究チームはこのカニの捕食効果がさまざまなサンゴ礁で発揮できると推測している。
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