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取材・文:6PAC
WSJの記者によるツイートがきっかけで一躍有名人の仲間入り
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SNSの隆盛と共に、普通の人が突然有名人になる時代が訪れた。YouTube、Instagram、Twitterといったツールを使えば、誰しもが有名人になる可能性がある時代となっている。昨年、あるアフリカ系アメリカ人男性がアメリカで話題となり、一夜にして有名人となった。男性の名前は、アンドレ・ラッシュ(Andre Rush)氏。同氏の肩書は下記のように多様なものだ。
1.ベテランと呼ばれる退役軍人
2.クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプの4人のアメリカ大統領に仕えたホワイトハウスの料理人
3.PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだ結果、自殺してしまったアメリカ軍兵士のために、平日は毎日「#22PushUpChallenge(腕立て伏せを1日22回、22日間連続でするチャレンジ)」の100倍に当たる2222回の腕立て伏せをする、自らもPTSDに苦しんだ経験の持ち主
4.元アメリカ陸軍最強の料理人
5.ベンチプレス700ポンド(約317.5kg)を上げ、上腕二頭筋の太さは24インチ(約61cm)のマッチョな中年
ラッシュ氏を一躍時の人にしたのは、ホワイトハウスを取材した『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記者によるツイートだ。
シェフらしからぬ筋骨隆々の肉体をインターネットは放ってはおかなかった。アメリカ中のメディアが同氏に注目し、朝の人気情報番組『グッド・モーニング・アメリカ』にも出演することとなった。
昨年の独立記念日(7月4日)には、米国慰問協会(United Service Organizations、USO)の「#Flex4Forces」というキャンペーン(上腕二頭筋を見せるポーズを作ってアメリカ軍をサポートする寄付金を募る運動)に協力した。アーノルド・シュワルツェネッガーも同氏の呼びかけに呼応した。
そんな同氏が、Twitterをきっかけに最近日本でも話題となった。
日本で話題となるきっかけになったツイート
今回、氏に直接コンタクトを取り、日本で話題になっていることを報告したついでに色々と話を訊いてみた。
まず日本で話題になっていることを伝えると、「ずっと日本という国のファンでもあり、いつか日本へ旅行してみたいという夢もあったので、正直、嬉しかったです。アジア地域の友人が多いのでなおさらです。私のことを知ってくれたことに感謝しています」と話してくれた。
みんなを元気づけ、やる気にさせることがライフワーク
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ミシシッピ出身のラッシュ氏は、冒頭で述べた肩書だけでなく、カリフォルニアのトライデント大学で経営学の学士も取得している。アメリカ人はいろんな顔を持つ人が多いが、同氏もご多分に漏れず、経営学の学士を持つ元軍人のシェフで、300キロのベンチプレスを上げる大統領の料理番、という多彩な経歴の持ち主だ。あなたにとってのライフワークとは?という質問をぶつけてみると、「子供、ホームレス、軍人、民間人問わず、みんなを元気づけ、やる気にさせることがライフワークです」と答えてくれた。
2222回の腕立て伏せをすることも、ライフワークの一環だ。陸軍での任務から帰ってくると、精神的に打ちのめされ孤独、絶望、憂鬱といったPTSDの症状に悩まされることとなった。自分でも気づかなかったそうだが、料理をしている時に感じる一種の幸福感が同氏の治療となったという。
同氏が料理を指導していたウェズリー・ダーデン軍曹の自殺をきっかけに、自身のPTSDについても公然と話すようになった。腕立て伏せをするたびに、ダーデン軍曹のように同氏が失った人たちや、今もPTSDで苦しんでいる人たちの顔が頭に浮かぶという。インターネット経由で有名になったことである程度の影響力を持つようになった同氏に、PTSDに限らず肉体的・精神的に苦しんでいる人たちのために何をしたいのか訊いてみた。「人を助けたいです。何があろうと、今より良い人生を送れるように」という率直な答えが返ってきた。
「家族や友人、そしてあなた自身の人生に何が出来るか考えてみてください」
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日本の自殺率は、いまだに国際的に高い水準となっている。軍人の自殺理由と、日本人の自殺理由に違いはあるものの、自殺を考えている、もしくは考えたことがある日本人になにか伝えたいことがあるか訊いてみた。
「どうか、あなたが家族や友人、そしてあなた自身の人生に何が出来るか考えてみてください。何があろうと、それがこの世の終わりではないはずです。誰かと話してください。あなたの頭の中の声だけに耳を傾けるのではなく、他人の言葉にも耳を傾けてください」
軍人として、同氏は韓国など外国のアメリカ軍基地での勤務経験があるが、日本国内のアメリカ軍基地における勤務経験はないそうだ。日本でもそれなりの知名度になれば、もしかするとテレビ局からオファーが来るかもしれないが、現時点では、「残念ながら、日本のテレビ局からのオファーはありません」とのこと。『ビリーズブートキャンプ』で日本でも時の人となった、ビリー・ブランクス氏とも仲が良いと言う同氏は、余程来日してみたいようで、「誰かオファーしてくれないでしょうか?」と言っていた。