思わず働きたくなる魅力ある企業の要素として、今春から始動した働き方改革関連法案は重要な役割を担っている。そんな中、“エンプロイヤーブランド”を推進する取り組みとして、世界最大級の総合人材サービス「ランスタッド」が主催するアワードが、「the best workplaces selected in Sendai 2019.~地元で輝く、いま最も働きたい企業 2019 みなみ東北版~」だ。
今回、同アワードで受賞した企業の中から取材したのは、山形有数の製薬メーカー、日新製薬株式会社。
1949年に創業した日新製薬は、今年70周年を迎え、国内最高水準品質のジェネリック医薬品の製造販売と医薬品受託製造のプロフェッショナルだ。製薬メーカーとして地元・山形や社会に貢献する同社の社風や働きがいとは?
取材・文:庄司真美 写真:松島徹
社員を我が子として見守り、叱咤激励しながら成長を促す
日新製薬取締役 経営企画室長の大石俊家氏。
訪れたのは、日新製薬本社のある山形県天童市。地元の人気企業だけあって、若い人が多く働く活気あるオフィスが印象的だった。お話を聞いたのは、日新製薬取締役 経営企画室長の大石俊家氏。地域での立ち位置をはじめ、同社での働きやすさのポイントについて伺った。
――まずは経営理念について教えてください。
大石:患者さんの幸福への貢献を第一として、新しい価値を創造し、品質向上や組織の成長に挑む「日に日に新たなり、また日に新たなり」を社是としています。また、明文化していませんが、創業当初から、朝礼や会議、自社に関する本などを通じて、意欲とプライドを持って取り組み、自分を磨き、助け合いながら社会を創造すること、未来志向で発展していくことなどが価値観として伝承されています。
――御社の主力事業について教えてください。
大石:ジェネリック医薬品製造販売と医薬品の受託生産が主要事業です。これまで、「こんな医薬品を作りたい」という顧客の声や、潜在的な医療ニーズに向き合いながらノウハウを磨いてきました。そのため、医薬品製造の本質的な理解に基づく製品価値の実現能力と、その成果としての製品品質の高さ、それらをベースにした信頼関係の構築能力と、プロフェッショナルとしてのプライドが、弊社の強みです。小説『下町ロケット』がイメージとして近いかもしれません。
日新製薬本社にある研究室。
――御社の採用についての考え方はいかがですか?
大石:弊社は平均年齢が若く、地元採用が多いこともあり、家族的で、経営者が社員のことを「子供たち」と呼んでいます。「社員のプライドを守ってやれ」というのが経営者の口癖で、そこがHRM(人材マネジメント)の軸になっています。子ども(社員)のプライドを守ってあげることで、子どもたちはまるで親を慕うように「この会社のために頑張ろう」と思ってくれるという、相思相愛の信頼関係を築くことが理想としてあるのです。
ただし、家族としての優しさの反面、親としての厳格さも伴います。父親の厳しさもHRM(人材マネジメント)に欠かせません。子どもを叱咤激励することで、成長させていきます。子どもがチャレンジしようとしていることは応援したり、その上での失敗なら許してあげたり、ダメなことはダメとルールを教えたり、社員一人ひとりに向き合いたいと思っています。
当社も会社の規模が大きくなるに伴い、年功序列の組織から、マネージメント能力が高い人が選ばれる組織にシフトしようとしています。イエスマンにはならず、自分の意見とともに実行に移せる人材を増やす必要がありますが、外部に人材を求めることを減らし、社員一人ひとりが仕事に向き合うことで、必要な人財が育つと信じています。また、飲み会や芋煮会、社員旅行や部活動などで経営者も交じっての社員同士がオープンに話しやすいコミュニケーション環境も、人材育成や意欲にプラスになっていると思います。
しかしながら、組織の拡大にともない、会社の理念の共有が難しくなってきているのも事実なので、企業理念を明文化して浸透していくことも課題だと捉えています。
人間力重視の評価システム
――子どもを見守る親心ですね。どんな評価システムがあるのですか?
大石:評価軸は一般的な項目が多いと思います。特徴としては、人物評価として“人間力”を重視していることです。顕在化したパフォーマンスの評価に留まらず、本質的な意欲と能力の評価をするべきだと考えています。そして、経営者が全社員の評価を最終的に確認します。これにより、評価者による評価のバラツキを抑えて公平性を保つとともに、評価者自身の育成も狙っています。経営者が自ら評価を介して “人間力”の育成を促しているわけです。
もちろん、組織の拡大にともない、家族経営的な色は失われていくと思いますが、大事なのは会社のスピリットを継承し発展させることにあります。今後は、社員がいかに仕事について真剣に考えて、ともに優れた会社を築いて行けるかどうかが、重要だと考えています。
――御社が採用で求める理想の人物像は?
大石:自主性をまずは大事にしています。Aの仕事を言われたとおりにできることに加えて、「今はAじゃなくてBをした方がいいですよね」などと意見を言えて、それを実行できる人材を育てたいし、採用時からそれを重視しています。社員に積極的に仕事を任せて自主性を育むことも、組織強化において重要だと考えています。
――今回、「the best workplaces selected in Sendai 2019.~地元で輝く、いま最も働きたい企業 2019 みなみ東北版~」を受賞した感想はいかがですか?
大石:弊社もHRMの課題はたくさんあるので、経営者から「いただくに値しないのでは?」という意見がありました。ただ、過去に、「グッドカンパニー大賞」をいただいた時もそうでしたが、いつかふさわしい会社になるよう、こうした機会を生かしながら、善処していければと考えています。
地元・山形の若者が大勢働く、活気ある社内
――研究室を拝見しましたが、若い人が多く働いている印象でした。働く人の年代構造はいかがですか?
大石:近年、急激に組織が拡大していることもあり、新卒をはじめ、製造部門の採用が多いので、富士山のように裾広がりで、若い人が多い組織になっています。1000人規模の人員に対してミドルマネージャーが少ない構造なので、優秀なマネージメント層を増やしていくことが急務です。
――4月からの働き方改革関連法案の施行に向けて、御社が2018年にもっとも注力されてきたことはありますか?
大石:働き方改革に対応する上で重要なのは、企業が社員のライフワークバランスに向き合うことから始めることだと思っています。単純に働く時間の配分として考えてしまうと、業績や意欲、能力育成とのバランスと矛盾してくるので、ライフワークシナジーを最大化する意図で、社員の意欲と能力の育成を整合させながら、働き方改革に対応しなければならないと考えています。
それから近隣に社員が優先的に入園できる保育所を設立しています。これは、弊社では社内結婚が多く、子育て世代が多いのですが、地域に子どもの預け先が少ないという問題があったためです。
――ほかに御社らしい取り組みはありますか?
大石:弊社では利益を設備投資と社員への分配に充てる傾向が強いと思います。期末賞与や社員旅行も多いです。近年は社員が1000人を超えてきており、全員での社員旅行は難しくなってきていますが、これまでは400〜500人規模で飛行機をチャーターしてハワイや沖縄に行っています。旅行よりもボーナスで還元される方が社員によっては嬉しいのかもしれませんが、コミュニケーションもとれるし、若い社員に海外を経験させてあげられるし、記憶に残る報酬として社員旅行を選択しています。
――そういうところにも“親心”が表れていますね。働くやすくするための取り組みはほかにはありますか?
大石:近年、メンタルを病む社員が増えてきています。対応策として、予防と復職を主な目的に、メンタル教育やカウンセリングの仕組みを構築しています。人財を失わないことも重要なのですが、子どもたちである社員の幸せを願って、根本解決を目指していきたいです。
若い人が大勢働く、日新製薬本社の活気あるオフィス内。
――社外でのCSR(企業の社会的責任)活動についてはいかがですか?
大石:患者さんが必要な製品は赤字でも継続していることは、製薬メーカーとして使命感を持って実施していることです。また、毎年地元・天童市で1000人の市民を無料でオーケストラコンサートに招待しています。それから、財団を設立して大学進学のための奨学金制度を運営し、地元・山形の未来ある青少年の育成に努めています。
――御社にとって、社員が生き生きと働き、士気が高まっている瞬間とはどんな時ですか?
大石:働く人がやりがいを感じられるポイントは、組織の中で、いかに自分が必要とされているか、存在価値を実感する「共同体感覚」だと思います。「患者さんのためにこんなことを実現したい」という共通の目的があって、それを自分たちの貢献により実現して喜ばれた時に、すべての部署がやりがいを感じられるように、組織の意識を結んでいきたいし、それが働きがいのある環境だと考えています。
――最後に、地元・山形での役割について、今後のビジョンを教えてください。
大石:今回の受賞は、山形の企業であることが理由として大きいと思っています。山形は仙台と比較して企業が少ないので、この企業で働きたいという思いが集中しやすいからです。一方で、山形の人材が県外に流出してしまうことは地域として重大な課題です。そういう状況において、企業が特に若い社員を集めるための優位性や魅力を作っていく必要があります。
企業として地元に感謝し、地元に貢献し、良い会社として評価頂くことが、山形で持続的に事業を展開する上で不可欠であり、持続的な経営の重要な課題であると考えています。魅力的な企業に人材が集まるところから始まり、若い人材が山形で働きたいと考えるようになり、山形の企業全体に若い人材が集まる傾向に繋がっていければと思います。