CULTURE | 2019/01/16

人気ベーカリーを経営しつつ北海道・アフリカで野球選手を育成する出合祐太氏|幸せに生きるためのおカネと働き方のリアル

写真の一番左が出合氏(C) Yuta Deai
有望な野球選手との契約に失敗し、落ち目となった代理人が「インドにはクリ...

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写真の一番左が出合氏
(C) Yuta Deai

有望な野球選手との契約に失敗し、落ち目となった代理人が「インドにはクリケットがある。野球の元祖と言われているスポーツだ。インドに行けばメジャーリーグでも活躍できる有望選手を発掘できるんじゃないか」という、いかにもアメリカ人的な発想で描かれた映画『ミリオンダラー・アーム』。「現地で有望選手をスカウトする」というシンプルな仕組みで、プロ契約までの道のりに先鞭をつけるという内容の映画だ。

この映画のように有望な選手をスカウトするのではなく、選手を“育てる”ための入念な仕組みを作って、西アフリカや日本の若者をプロ野球界へ送り込もうと挑戦している日本人が北海道に存在している。

これまで実際に西アフリカのブルキナファソ出身の選手2名、日本人の選手4名を日本国内の独立リーグ(セ・リーグ、パ・リーグを運営する日本野球機構以外が運営するプロ野球リーグを指す)へと送り込んだ実績を持つのが今回インタビューした出合祐太氏だ。「プロ野球選手を輩出することも目的ですが、個人としては人間力を育み、自己実現できる若者が増えると、世の中がもっと面白くなると思います」と語る同氏に、幸せに生きるためのおカネと働き方をテーマに話を訊いてみた。

取材・文:6PAC

出合祐太(であい・ゆうた)

ブーランジェリー・ラフィ オーナーシェフブルキナファソ野球を応援する会代表一般社団法人 北海道ベースボールアカデミー代表札幌大学特命講師

2006年に札幌大学を卒業し、パン製造業へ就職。08年には青年海外協力隊に参加し、西アフリカのブルキナファソへ初代野球隊員として派遣され、2年間の普及活動に従事。10年に日本へ帰国し、NGO団体「ブルキナファソ野球を応援する会」を設立。13年には北海道富良野市内にパン店、「ブーランジェリー・ラフィ」を開業。16年、「北海道ベースボールアカデミー」を設立。今年、ブルキナファソの野球代表チームの監督に就任し、2020年の東京五輪出場を目指し、奮闘中。

“育てる”ということが好き。野球もパン作りも同じ“育てる”ことが大事

自身が経営する「Boulangerie Lafi (ブーランジェリー・ラフィ)」で働く出合祐太氏
(C) Yuta Deai

「“育てる”ということが好き(=何かをクリエイトすることが好き)なので、北海道発の育成リーグを作り、野球に限らず世界中の若者を育て、地域から素晴らしい人材を輩出したい。野球もパン作りも一様に“育てる”ことなので、意外かもしれませんが発想は似ています」と話す出合祐太氏は、西アフリカのブルキナファソと、生まれ育った北海道という2つの地でプロ野球選手を育てる活動をしながら、食べログでも高評価のベーカリー「Boulangerie Lafi (ブーランジェリー・ラフィ) 」を富良野市で経営している。ブルキナファソという異国の地で野球を指導するきっかけとなったのは、「野球というスポーツが好きで、なにか野球に関わることがしたい」と漠然と考えていた17歳の時に青年海外協力隊の存在を知ったことだという。

2016年には野球選手の育成団体「北海道ベースボールアカデミー」を法人化したが、法人化までの準備にかかる時間を確保するにはサラリーマンのままではできないという判断から、先述のブーランジェリー・ラフィを自営業として始めた。ベーカリーの仕事は早朝からとなるので、日中に時間を作れるからだ。北海道ベースボールアカデミーでは自治体と連携し、育成リーグを立ち上げるための活動を行っている。会社員や青年海外協力隊の隊員として仕事をしていた時は保証があったが、今は責任が増えたという。会社員という保証された立場でなくなったことで、「覚悟と可能性を得た」とも話す。

アメリカのメジャーリーグ傘下のマイナーリーグのチームや、独立リーグのチームは本拠地を小規模都市に置くケースが多い。地方自治体・地元産業・地域住民らと密着した関係を作りやすい、選手たちの生活コストが東京やニューヨークなどの大都市と比較すると格段に低く抑えられるといったメリットがあるからだ。出合氏が北海道の富良野市で北海道ベースボールアカデミーを運営しているのも同じような理由からである。地方における過疎化の問題はかなり深刻なようで、プロ野球選手を目指す若者の流入は、地域活性化の起爆剤として期待されている。富良野市では、野球の練習や試合に必要なグラウンドや各種施設や選手が住むための住居も、使い手がおらずたくさん空いているという。また、常に人手不足の状態のため、選手の生活を支える仕事も豊富にある。

現状、北海道ベースボールアカデミーからの収入はゼロ。練習や試合といったレギュラーシーズンの活動をするだけで精一杯だが、今後規模を広げていき、安定させていきたい考えだ。ベーカリーでの収入も手元にはそれほど残らないとのこと。収入面では、会社員や青年海外協力隊の隊員だった時のほうが安定していたが、「今はどちらかというとお金よりも時間をいただいています」と選手とパンを“育てる”ための時間の安定を優先しているようだ。日々の生活費の管理は奥さんに任せているそうだが、現在の生活を維持していくためには「大体月に20~30万ほどが必要かと思います」と語る。赤字続きとなった場合には、「仕事内容を改善します。または仕事を増やします」とのこと。

会社員ではない働き方には、未来を想像して自己ストーリーを描くセルフプロデュース力が重要

(C) Yuta Deai

会社員ではない働き方をするには、「未来を想像して自己ストーリーを描くこと。どうありたいか? どうしたいか? そのためにはどんなプロセスを選ぶか? 課題はなにか? そのクリア方法は何なのか?など詳細まで描き、セルフプロデュースすることが重要」だという。仕事上の悩みや壁にぶつかった際には、「基本的には自己解決します。加えてどの選択肢を選ぶか迷ってしまった場合は、自身の目的と照らし合わせてみて、それでもどうしたいかが見えない時は、その選択が根本的に間違っていると思うんです」と語る。会社員ではない働き方をする上で一番大切なことは「自分の答えを探すこと」だともいう。

会社員ではない立場で仕事をするメリットを聞くと、

・発想に制限はなく、可能性だらけ

逆にデメリットは「特にないです」とのこと。

幸せに生きていくためにはワクワクすること

ブルキナファソの少年野球チームの練習風景
(C) Yuta Deai

何か新しいことに挑戦しようとする人に対して日本で必ず挙がる一言がある。「無理!」。野茂英雄選手がメジャーリーグへ挑戦した時、大谷翔平選手が二刀流でプロ野球に挑戦した時、メディアには「野茂にはメジャーは無理」、「日本のプロ野球で二刀流は無理」といった声が多数挙がったことを覚えている人は多いであろう。はたして結果はどうであったか。出合氏に対しても、「野球後進国のアフリカ人にプロ野球は無理」、「プロ経験がない人にプロ野球選手を育てるのは無理」といった声が投げかけられたとしても不思議ではない。

この点について訊ねてみると、「私はアフリカで学んだことが今に活きています。問題があるからできない、ではなく、視点を変えればそこに答えがある。“ノー”と言われるものは、誰かの価値観で決められています。これも視点を変えれば“イエス”に変えられるヒントがあります。大切なことは、一般論に答えを見出すのではなく、自分で答えを作り上げることです。さまざまな意見を参考にするのはいいですが、必ずしもそれが自分にとっての答えではありません。今ある可能性を具現化するために、いかにストーリーを作り上げるかが大切だと感じています」と答えてくれた。

出合氏がこれからどこを目指しているのかを問うと、「ブルキナファソでは西アフリカ初のベールボールリーグ設立、北海道では道内初のベースボールリーグ(育成リーグ)を設立し、所属選手がドラフト指名されること」だという。また、人ができないことができるようになっていく瞬間に幸せを感じるという同氏は、幸せに生きていくためにはワクワクすることだと語ってくれた。また、「自分自身が想像したことが形になる瞬間」が成功したと思える時だともいう。ただ、本人はまだ成功したと思っていない。直近の目標は、ブルキナファソの代表チームが2019年3月に行われる東京オリンピックのアフリカ予選を突破し、アフリカ代表に導くことだ。

そのための遠征費を到着すべく、先日クラウドファンディングサービスの「Readyfor」にてアフリカ予選に出場するための遠征費サポーターを募集。無事に目標金額の調達に成功した。

会社組織に縛られない生き方を模索している人達へ出合祐太氏からのメッセージ

「どんな人生も間違いではないと思います。でも、自分の本心ではなく、誰かに決められる人生は面白くない。人生は一度きりしかないのだから色んなチャレンジをしてもらいたいです」

出合祐太氏の平均的な一日の基本スケジュール
03:00 起床
04:00~11:30 パンの製造
12:30~13:30 パンの配達
14:00~17:00 アカデミー活動(打ち合わせ、企画、営業など)
18:00~20:00 ジュニア教室
21:00 就寝